9:苛め時々腰崩壊


「ぐふふ…ぐふふ…私の初めて…私のハジメテをしゅうしゃんが…ぐふふふふ」



「……誤解を招きすぎる発言だと思うソレ。」



満月の次の日、花子は酷くご機嫌でニコニコと笑顔を絶やさない。
あの日、初めて彼女の血を啜った。


酷く、吸ったって自覚がある位…気が付けば俺の身体は彼女の血で満たされていたのに
肝心の本人は俺に怯えるどころかこうしてとんでもなくご機嫌である。


…正直、怯えられなくてホッとはしているが、何だか拍子抜けだ。



「なぁ花子…怖くなかったの?俺にあんだけ血…吸われてさ、」



「怖い!?幸せすぎて怖かったです!!」



「………あっそ。」



少しばかり震える俺の声にキラキラと笑顔で答えた花子に安心してしまう。
よかった…能天気な馬鹿で本当に良かった。
多分このまま嫌われたら柄じゃないけどヤバいくらいへこんでたと思う。



すると、俺と彼女の会話にひょっこり赤い髪の弟が突然割って入って来た。
どうやら花子の存在が気になってしまったようだ。
…仕方ないか。今までいいタイミングで彼女はスバルと俺以外には遭遇していなかったから。



「おいダル男、誰だよこのチチナシ。」



「………花子。」



じっと俺の顔を見て聞いてくるアヤトに必要最低限の情報のみを与える。
余計な事を教えて花子に害が及ぶのはごめんだ。
するとアヤトはまじまじと花子を覗き込んで意地悪に笑う。
あ、コレは花子を苛める態勢に入ってしまったみたいだ。



「ふーん、初めましてだな。チ・チ・ナ・シ!」



「………シュウさんこの人と初めましてなんですか?」



「おい何でその流れで俺がチチナシなんだよ。どう考えたって花子の事を言ってるだろ。」



「ええ!?シュウさんおっぱいあるんですか!?わ、私はそれでも貴方が好き!」



…俺の彼女の器が広すぎて泣きそう。
じゃない。なんでそう言う結論になるんだよこの大馬鹿野郎。


花子の発言に腹抱えて大笑いしながら転げまわってるアヤトにでかい溜息をついて
チラリと彼女を見れば心なしか瞳が濡れてる気がする。
あれ…もしかして。



「なぁ…花子。お前、アヤトの言ってることで傷付いたの?」



「べ、別に…べつに気にしてません傷付いてません所詮私はチチナシですもんスタイルモデル級って訳にはいかないですもんんんん!」



「………はぁ。」



体ぶるっぶるに震えて声も半泣きで俺と目合わさずにそんな事言われてもなぁ。
小さく息を吐いて一気に彼女との距離を詰めてぎゅっと抱き締めてやる。


確かに花子の身体はどっかのグラビアアイドルみたいな大袈裟なものではないけれど
俺はこれくらいがちょうどいいんだがな。



「なぁ花子…」



「しゅしゅしゅしゅ(何でしょう?シュウさん)」



「しゅ」しか言わない自分の彼女に苦笑しつつ
そっと胸元をなぞれば馬鹿みたいに赤くなるその顔と体に俺の顔もアヤト同様意地悪に歪んでしまう。
くそ…可愛い反応、しちゃってさ。



「お前さえよければこのチチナシな胸…俺が育ててやろうか?」



「…っ…っ!」



そんな言葉になんか人体ではありえない音を発した花子はぐいっと俺を押しのけて通常運転通りとある場所へ猛ダッシュしてしまう。
するとアヤトが花子の背中を見つめながら首を傾げた。
ああそうか…アヤトは花子初心者だった。



「アヤト…今から末っ子の腰が折れるぞ。」



「は?一体なん…」




俺の少しばかり悟りを開いたような言葉にますます首を傾げてしまうアヤトの頭を二三度撫でてやる。
スバルの腰が本格的に折れてしまえば次の標的になるのはお前かもしれないな。



「ばっ!おま…っ花子!もう勘弁っぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!イテェ!!!痛ぇよ!だ、誰かたすけ…ぐはっ」



「是非ともお願いしますシュウしゃぁぁぁ!シュウさんのその綺麗なおててでわたしのお胸を栽培してあげてくださいんああああ!!」




…そういうの。できれば直接俺本人に言って欲しいんだけど。
つかこの通常運転過ぎる日常に昨日の花子が幻だったんじゃないかって気さえしてしまう。
でもあれは紛れもない花子本人で…肝心な時は俺の全部を包み込んでくれる彼女にますます溺れてしまっている自身に苦笑だ。



「ああもう、花子…だいすき」



「わわわわたしもだいすきぃぃぃ!」



「シュウ!てめっ!わざとか!?わざと花子をときめかせんのか!?いってぇぇぇ!!!!」



あ、やばい。
俺の小さな告白はスーパー地獄耳の花子に届いてしまっていたようで
またスバルの腰が重傷フラグを立ててしまった。



仕方ないから今度花子の彼氏としてスバルに腰のサポーターを買ってやろうと思う。



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