1:弟達に面会


「そう言えば花子さんは私とカナト以外の弟と、顔を合わせていませんでしたね。」



「そうだね、そう言えば…やっぱり顔合わせはちゃんとしたいかも。」



「………花子を他の男に近付けるのヤダ。」



レイジ君が慣れた手つきで紅茶を淹れながらそんな事を言うから
私はそう言えばと、まだ見ぬシュウ君の弟君達に会いたいと申し出た瞬間
腰に巻き付いている腕にぎゅうぎゅうと力が込められて思わず苦笑してしまう。
うん、相変わらず私の彼氏の独占欲は彼女並である。



私の腰に必死に抱き付いて、やだやだと首を横に振るシュウ君を頭を撫でてあげれば
目の前のレイジ君は困ったように溜息を吐く。
全く…これじゃ、どっちがおにいちゃんなのかわかんないよ?



「穀潰し…貴方、花子さんと結婚するのでしょう?ならばきちんと兄弟達と父上に彼女を会わせなければそれは一生叶わない事になりますよ?」



「よし、花子。取りあえず上から会いに行こう。三男からでいいよな。」



「………ねぇシュウ君。変わり身が早すぎる。」




レイジ君の言葉に顔だけがばりとあげて、心なしかキリっとした表情になったシュウ君。
ホント、うん。申し訳ないけれど可愛すぎである。


そう…シュウ君に自身の全てを捧げると誓ったあの日から以外にも結構な時間が経った。


レイジ君が仕組んだ有休を使い切って、その後会社に赴き寿退社の意を伝えると
これまた平凡に形だけの祝福の言葉と同僚女子の盛大な嫌味を受け取って
引継ぎや何やらを行い、ようやく一般生活から別れを告げることになった。



まぁその間とんでもなく大変だったけれど。




有給期間中ずっと私とべったりだったシュウ君は引継ぎ期間会社へ行っている間ずーっと淋しかったようで
いつだって退社から就寝、出社まで物理的にずっとべったりだった。
これが所謂愛され過ぎてツライというやつなのだろうか…




そんな少し前の事を思いだしていると、じっと私を見つめる彼の視線に気付く。
う、うん…俺を前に何考え事してんだって目だね。
ごめんね、シュウ君の事だよ。




「ま、まぁそう言うわけで明日?からシュウ君の弟君達にご挨拶行かなきゃね。」



「そうですね、穀潰しの心の準備が必要みたいですので今日からは難しいでしょうから。」



「…普通、心の準備を必要とされるのは私の方なんだけどね。」



レイジ君の呆れかえった声に私は何度目かわからない苦笑をして彼の淹れてくれた紅茶を口にする。
そしてさっきから「花子の事取られたらどうしよう…」ってブツブツ言ってしまっている最愛を安心させるように
またそっと優しくその頭を撫でてあげればいつもの様にぐりぐりとその頭を私の身体に擦り付けてくる。



「全く…シュウ君。シュウ君は私の彼女なの?」



「違う…俺は花子の彼氏だし。」




そんな通常運転過ぎる会話も今や挨拶代りで…
取りあえずこの可愛すぎる彼氏兼彼女のシュウ君の心の準備が出来るまで
この撫でる手を休ませる訳にはいかないのだろうなぁなんて…
そんな幸せすぎる苦労に私は小さく息を吐いた。



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