10:おにいちゃんの失言


「ええと、シュウく…じゃなかった、シュウさんこんばんはご機嫌いかがですか?」



「………何、どうしたの花子。」




とんでもなくぎこちなさ過ぎる夜の挨拶に目の前のシュウ君…じゃなかったシュウさんはくたりと首を傾げて
私の体調がおかしいかもしれなと思ったのかその額をコツンと私のそれにくっつけて「んー」とまぬけな声をあげる。




「熱はないみたいだな。…で?何で“さん”付け?そして敬語なんだ?」



「だってだって!私聞いてなかったんだもん!!」




ぼふぼふとベッドのマットを叩いて喚いても
目の前の彼は意味が分からないと言った感じでますます首を傾げる角度を深くしてしまう。




そう、それは今から数時間前の出来事だった…





「花子、もうココの暮らしは慣れたか?カールハインツ様にもご挨拶に行ったようだが…」



「うん、だいぶ慣れたかも!!それもこれもレイジ君とカールハインツさんのおかげなぁ」



久々にお城に遊びに来て顔を見せてくれたルキ君と静かなお茶会をしていたらそんな事を言われたので
相変わらずレイジ君特製の紅茶を口にしながら答えると「最愛が役立たずに聞こえるが」と小さく笑われてしまったので私も苦笑。



「そんな事無いよ?いつも抱き付いてくれたり膝の上に頭のせてくれたり…あと肩にもか。すっごく癒されるんだから。シュウ君ってホント可愛いよね。」



「……それは役には立っていないな。というかよく逆巻シュウの事を可愛いといえるものだ。」



楽し気な笑いはそのままで、ルキ君も紅茶を口にしながらも
やんわりと近況を聞きだしてそれに相槌を打ってくれる。
何だかそれが嬉しくて私の顔もだらしなく緩んでしまう。




「え?だって可愛いよ?ていうか吸血鬼君皆かわいいよね。流石未成年。」



「ん?」



「え?」



私の何気ない一言にルキ君が変な声をあげたので私はそれに対して首を傾げた。
そして流れる数秒の沈黙。



「……花子、俺達は肉体年齢こそ未成年だが永遠を生きるヴァンパイアだぞ?実年齢は花子より数段上だと思うんだが。」



「…………ちょっとまってちょっとまってルキ君私そんなの聞かされてないよどう言う事。」



「あ!い、いや何でもない!!忘れてくれ!!うん、そうだな俺達は未成年だうん!!」



ルキ君の爆弾発言に一気に顔面蒼白となってしまった私はカタカタとティーカップを揺らしながら言葉を紡いでしまう。


しまった!と言わんばかりの表情で先程の言葉を訂正しようとしてくれてる慌てまくってるルキ君には申し訳ないけれどもう私は忘れることが出来ない。





シュウ君達、めちゃめちゃ年上だったの!?





「…と、言う事があってね?…ありまして。」




「………ルキ後でぶっとばす。」




数時間前の出来事を包み隠さず暴露してしまえば彼は長い溜息を吐いてそんな事を言う。
けれど私は年上な彼等に対してすごく生意気な事を言ったり態度を取りまくったという事実に今すぐにでも死にたい気分なのだ。



「花子、」



「シュウ、さん」



「やーだ。それ、やだ。」




ぎゅっと突然抱き締められたのでどうしたんだろうって思って名前を呼べば
やっぱり可愛いふくれっ面で怒られてしまい今度は私が首を傾げると、彼は困ったような、幸せそうな顔で笑ってくれる。




「花子だけなんだ。俺の事、“シュウくん”って可愛がってくれるの。…だから、今までのままがいい。」



「で、でも…えっと、年上…なんだよね?」



「じゃぁその年上からの命令。ずっと俺の事“シュウくん”って呼んで?いつも通り溺れる位甘やかして?…な?」




ちゅっと可愛らしいキスを落とされてそんな可愛すぎる命令をされてしまえばもはやそれまでである。
長い溜息をついて自分からもその大きくて広い背中にそっと手を回してぎゅっと精一杯抱き締めてあげる。



「わかったよ。…年上さんの命令じゃしかたないもんね。今まで通り甘やかしてあげる。」



「ん、ありがとう。…ていうか、ほら。ん。」



「………ああ、ふふっ」



ぎゅうぎゅうと沢山抱き締める腕に力を込めてみると彼は嬉しそうに頬に顔を寄せてきてスリスリと擦り寄ってきちゃうから
もうこれで年上とか考えるのはやっぱり、無理だなと思って小さく笑ってしまう。


すると何かを催促するかの様にじっと瞳を見つめてきちゃうものだから今度こそ吹き出してしまって
今宵初めて、いつもの様に彼の名前を呼んだ。



「ごめんね、シュウ君。だいすきだよ。」



「ん。やっぱり花子にはシュウ君って呼ばれるのが一番。」



ようやく満足したのかシュウ君はそのままいつもの定位置、私の膝の上にゴロンと寝転がってそのまますやすやと安らかな寝息を立てちゃったので
そっとその幸せそうな頬や可愛いふわふわの頭を撫でて私自身も幸せな時間を堪能した。



うん、こんな可愛すぎる子に敬称と敬語はちょっと似合わない、かも。




後日、他の弟君や無神さん達は敬語の方がいいのかなぁとお伺いを立ててみると
すごく恐ろしい顔で、全力の拒否が返ってきてしまったのでやっぱり今のままでいることにした。




…風の噂でルキ君が珍しく、コウ君、ユーマ君、アズサ君に説教を喰らってしまったと聞いたので
今度何かお茶菓子持っていこうと思う。



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