2:俺様のねぇちゃん!


「っへー!お前がダル男の女かぁ」



「おおう!近い!!」



早速次の日、シュウ君の弟君に会いに行こうと
手始めに三男君?のお部屋にお邪魔してみた。
すると待ってましたと言わんばかりにずいっと距離を詰めてきたこの男の子に思わずびっくりしてしまう。
な、なんだろ…そんなに私の事噂になってるのかな。


「ええと、逆巻…アヤト、君?」



「おう!名前知ってんのか!!おーやっぱ俺様ともなれば有名人だな!!」



昨日事前にレイジ君から仕入れた情報をもとに彼の名前を呼べば
ペカーっと嬉しそうに笑うから、ああやっぱり吸血鬼は可愛い生き物だと確信してしまう。
今、後ろのシュウ君の温度がだだ下がりしたのは気にしてはいけない。



けれどそんな時、アヤト君がじーっと私を上から下と見ている視線が気になって首を傾げる。
その緑色の瞳は何故かとんでもなく真剣である。



「ええと…アヤト君?」



「んー?どっちだ?んんー?」



彼は何かを悩んでいるようで訳のわからない言葉を重ねて、うんうんと唸っていた。
どうしたのかなぁ…私、何かへんなとこあったかな?
けれど次の瞬間私の思考回路はぼふんと破壊されることになる。




わしっ




「!?」



「んー?ダル男の女はチチナシ?チチアリ?んんんー…微妙なラインだな」



事もあろうにアヤト君が突然私の胸を鷲掴みしてきたのである。
そして真剣にチチナシ、チチアリ、いやチチナシ…と訳のわからない単語を重ねて更に悩む。
その間も彼は掴んでる胸をもみもみと揉んでいるのでこちらとしてはたまったものではない。
いいいいいくら思春期君でもちょっとコレは流石に恥ずかしいんですけどぉ!?



「ちょちょちょっとアヤト君!あの!!」


「っだー!うるせぇ!!今判定してんだからちょっとま…ぅおおおおおお!?」




顔を真っ赤にして抗議すれば逆に怒られてしまった。
瞬間割って入ったシュウ君のおかげで両胸を揉みまくっていたアヤト君の手は離れたけれど
それはそれで新たな問題勃発である。



「しゅ、シュウ君!私怒ってない!!怒ってないからその銀のナイフをしまって!!しまいなさい!!」



「…おにいちゃんは激おこです。」



怒りのパラメータ振り切れてもはや敬語じゃないですかシュウ君!!
ていうかその銀のナイフどっから持ってきたの!?
そしてアヤト君刺しちゃう勢いだったけれど本気じゃないよね!?いやこの目は本気だ!!



「んだよダル男!俺様がせーっかくダル男の女に素晴らしいアダ名付けてやろうってのに怖えよ!!」



「その“ダル男の女”ってのやめろ。花子はこれからお前の姉になるんだぞ。そして花子の胸の大きさはこれから俺が好き放題するんだからお前が決めるべきじゃない。」



「ちょっと!言葉の前半すっごく!すっごく感動したのに!!後半台無しだよ!!馬鹿!シュウ君の馬鹿!!」




シュウ君の言葉にこれ以上ないくらい顔を赤くして激怒していれば
アヤト君がきょとんとその大きな目を更に大きくして固まってしまった。
そして次の瞬間、またその可愛いお顔がとっても嬉しそうな笑顔になる。



「そっか…そーだよな!じゃぁこれからお前の事ねーちゃんって呼ぶ!!よろしくな、花子ねーちゃんっ!!」



「あれ!?アヤト君私の名前知ってたの!?」



どうやら彼は“おねえちゃん”というものが出来る事が嬉しいらしく
それからずっとねーちゃん、花子ねーちゃんってきゃっきゃとはしゃいでくれる。
うん、何だか…こんなに歓迎されると悪い気はしない。



よかった…どうやらアヤト君は歓迎してくれるみたいだ。




胸をなでおろしていればじっと私を見つめるシュウ君が
ガシリと私の体を抱き締めてじとりととんでもなく拗ねたお顔でこちらを睨みつける。



「しゅ、シュウ君…?」



「胸にアヤトの匂いがついてる…ムカツク」



聞き覚えのありすぎる彼の台詞に私の本能は煩いくらい警報を鳴らす。
まずい。これはひっじょーにまずいパターンである。



「前コウ君に握手してもらった時みたいに舐める気じゃないでしょうね!?絶対!絶対ヤだからね!!」



「…やだ。そんなの聞かない。」



「う、うわあああん!アヤト君!アヤト君!!お姉ちゃんの危機!たす、助けて!!」



「はっ!花子ねーちゃんピンチか!うしっ!この最強俺様アヤト様が助けてやる!!」



私の救難信号に反応してくれた可愛い将来の弟君と
胸に他の男性の香りが付いてしまった事に大層ご不満の彼氏が取っ組み合いの喧嘩を初めてしまい
部屋を半壊してしまってレイジ君の説教を5時間正座で受けてしまったのはまた別の話。



(「全く!何事ですか!!子供ではないのですよ!!部屋をこんなにして…っ」)



(「………だってねーちゃんが。」)



(「………だって花子が胸舐めさせてくれないから。」)



(「…穀潰し、貴方はあと5時間説教プラスです。」)



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