5:俺の…ねぇね



「う…うう〜スバル君ー…逆巻すばるくーん…せめて、せめて挨拶位させてよぉぉぉ」



コンコンコンコン




……………




うぅ、挫けそう。
最後の末っ子の逆巻スバル君にご挨拶しようって思ったんだけれど
彼は愛用の棺桶から全然出て来てくれない。
これが反抗期のひきこもりを持つ親の心境というやつか…
あ、ちがった。私スバル君のおかあさんじゃなかった。



「花子、今日はもう諦めたら?スバル、こうなったら絶対出てこないし…」



「う、で、でも…ここまで嫌われてるとか思わなかったなぁ」



ガタッ!



私の言葉に棺桶が凄く揺れた。
ど、どうしたんだろ…
首を傾げていればシュウ君がニヤリと悪い顔で笑ってボソボソと耳元で
スバル君式ひらけゴマの呪文を教えてくれる。
そ、そんなんでホントに出てきてくれるのかな…



けれど何もしないままずっと彼に会えないのは悲しいので
シュウ君に言われた通りの台詞を元社会人の演技力で感情込めまくって唱えてみる。



「ふぇ…シュウ君、私…スバル君にきら、嫌われた…ふぇぇん…悲しい…悲しいなぁ…もう死ぬしかない。」



「べ、別に嫌いなんて一言も言ってねぇだろぉぉぉ!?………あ、」



「ようスバル。おはよう。」



勢いよく棺桶の蓋が開かれたかと思えば飛び出してきたのは銀髪のちょっと目つきの怖い男の子。
でもその表情は大慌てと言うか非常に動揺しているご様子である。
…まさかあんな台詞でホントに出てきてくれるとは思わなかった。



「ええっと、スバル君こんばんは私、花子って言って…」



「………るせぇ。」



「え?」



「うるせぇつってんだよ!!!俺の事騙しやがってクソが!!」




取りあえず自己紹介をしようと思い言葉を紡いでいれば大激怒のスバル君が叫び散らして
壁に拳をぶつけて破壊してしまう。
すごく怖くて思わずビクリと体を揺らすとスバル君ははっとした顔になったがすぐに次は悲しそうな顔になってしまった。



「俺の事…怖いならもう近付くな。」



「え…べ、別に怖いとかは思ってな…」



「るせぇ!ババァが余計な気使ってんじゃねぇよ!!」



う…た、確かに私は成人してるのでスバル君よりかは年上だけれど
その事実を言われてしまえばやっぱりへこんでしまうと言うのが乙女心というやつである。
…ババァだけど。
き、気にしてないもん。ババァだけど…ババァだけど!!!



ガシィっ!



「え?しゅ、シュウ君…?」



「花子、ごめん…俺、スバルと二人きりで話すことあったの、忘れてた。ちょっと待ってて?」



「ちょ、おま…っはな…離せよ!イテェって!!!」




スバル君の言葉を聞いたシュウ君が彼の頭をその大きな手で鷲掴みして体を宙にぷらーんと浮かせながらこちらを振り返りにっこりと…とても…とても素敵な笑顔でそんな事を言いだしたからもはや嫌な予感しかしない。


ちょっとまってちょっとまってシュウ君、スバル君連れてどこ行く気!?
な、何だかスバル君の命の危機しかしないのは私だけじゃないよね!?
私の静止の言葉も全部その素敵スマイルで受け流してしまったシュウ君は本当に私を置いて何処かへ行ってしまった。



どうか…どうか無事でいてスバル君!




そして数時間後…




「ご、ごめ…っごめんなさいおねえちゃ…ば、ばばぁとか…いってごめ…ごめ…ぐすっ」



「………シュウ君、スバル君に何したの?」



「………だって。」



だってじゃない!!!相変わらずそのふくれっ面可愛い!!
数時間後帰ってきたスバル君は見るに堪えない位ボロボロで
しかもひっくひっくと嗚咽を漏らしながら泣きじゃくりつつ先程の発言を必死な様子で私に謝罪する。



その姿が余りにも可哀想すぎてぎゅうぎゅうと抱き締めてあげれば
ビクリと体を揺らしながらも必死に縋り付いてくるスバル君は先程とはまるで別人だ。
本当にシュウ君は一体何したんだ。



「花子の事ババァって言ったスバルが悪い。」



「だからってやり過ぎでしょ!?もう、スバル君泣き止まないんだけど!!」



「………俺も泣いたらぎゅってしてくれる?」




違う!今はそんな話してるんじゃない!!
すっかり怯えきったスバル君をシュウ君から庇うようにして抱き締める腕に力を込めれば
ようやくピタリと彼の涙は止まり、今度は何故か憧れの目で私を見つめてしまっている。



「あの大魔王に立ち向かうとか…すげぇ。かっけー…花子ねぇ最高…」



「………わぁ。思いもよらないところでお姉ちゃんて認められて複雑な気持ち。」




変なきっかけだけど末っ子のスバル君にもちゃんとお姉さんとして認められたようで一安心だけれど
うん、でも真のおにいちゃんに怯えきってるのは何とかしないといけないな。
まぁでもその前に解決することはこれですがね。



「………シュウ君、重いよ。」



「だって花子、スバルの事ギュってしてるから…後ろは俺がもらう。」



「吸血鬼サンド冷たい!そして重い!!!」




スバル君を抱き締めてるのがお気に召さなかったのか
シュウ君は私の後ろからのしっと覆いかぶさってきてそのままぎゅうぎゅうと抱き付いてきてしまった。


でもこうして怯えてるスバル君を無理矢理引きはがさないで妥協案を見つけたシュウ君はなんだかんだ言ってお兄ちゃんなんだなって思うと
やっぱりどこか愛おしくて、仕方ないので暫くこの冷たく重いサンドを堪能することにした。




(「で?スバル、花子に抱かれるってどんな感じ?」)



(「温かくて…やわらけぇ。いい匂いする…きもちいい。」)



(「ちょっと!私、すっごく恥ずかしくていたたまれないんですけど!?」)



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