6:お気入りの音楽
「そういえばシュウ君って、私といるとき以外はずーっと音楽聴いてるって言ってたけど…どんなの聴いてるのかな?」
「そうですね…大体クラシックを聴いているようですが…あとは花子さんは知らない方が宜しいかと。」
「え、何それ。すっごく気になるよレイジ君。」
深夜のお茶会中にレイジ君とそんな会話をしてみれば、私の中の好奇心は驚くほど刺激されてさしまう。
だって気になる。シュウ君が聴いてる音楽がどんなのかって…
けれどレイジ君は何度聞いてもひた隠しにしてしまうから、私は彼に聞くのは諦めて、少し行動に問題はあるけれど人懐っこい未来の弟君の1人に聞いてみることにした。
「え?シュウがクラシック以外何を聴くか?んふっ♪花子おねぇちゃん気になっちゃうの?」
「うん。シュウ君の趣味とかちょっと知りたいなぁ…って。ライト君知ってるの?」
私の問いに意味深過ぎる笑みを浮かべるライト君の態度から察して、彼もレイジ君同様シュウ君が聴いている音楽が何かを知っていると確信して「お願い」と懇願すればその意味深過ぎる笑顔はますます深くなる。
「じゃぁシュウのプレイヤー持ってきてあ
げるから直接聴いてみてよ!…但し、音量はMAXで、ね?んふっ♪」
「う、うん?…わ、分かった。」
どうして音量最大に聴かなきゃいけないのかはわからないけれど、せっかくわざわざライト君が持ってきてくれるんだから指示には従おうと首を縦に振った。
「前々から思ってたけど、コレ…かなり可愛いよね。」
ぷらーんと、シュウ君ご愛用のプレイヤーを眺めて1人で呟いて苦笑する。
この赤紫の蝶モチーフが、シュウ君の首筋にくっついてて可愛いなと思っていたのは内緒の話だ。
「ええと、音量を最大にして…っと、」
カチカチとプレイヤーの操作をしながらイヤホンを耳にはめる。
すると丁度私とプレイヤーを探していたのかシュウ君が少しあわてた様子で部屋に入ってきた。
「あ、花子いた。なぁ俺のプレイヤーしら…」
「あ、シュウ君!あのね、今シュウ君の好きな音楽知りたくて…」
2人同時に口を開いた瞬間私の耳から盛大に音漏れしてしまった【シュウ君お気に入りの音楽】が部屋に響き渡った。
『ああんっ』
「………しゅ、シュウ君。私別に気にしてないし怒ってないから。」
「………俺が気にしてるしライトに対して殺意しか抱いてない。」
ぎゅうぎゅうと私の腰に抱きつきながら見事に落ち込んでしまっているシュウ君の頭を優しく撫でてあげると絡みつく腕の力が更に強くなってしまい苦笑してしまう。
どうやら彼が聴くもう一つの音楽と言うのは時々ライト君が持ってきてしまう女性のいやらしい声だったようで…
だからレイジ君は話そうとしなかったし、ライト君は意味深な笑みを浮かべていたのかと納得してしまう。
「別にいいよ。何だかんだでシュウ君も健全男子って分かったし。」
「………なぁ。今俺は不名誉過ぎる誤解を受けてるよな。」
「え?シュウ君…?」
私の言葉に顔を上げた彼の表情はとっても不機嫌で、でもその顔も可愛いので私の顔は思わずゆるむ。
「あんな誰かもわかんない女の声とかで興奮しない。」
「え?そうなの?」
「…俺が興奮するのは花子の声だけ。」
じっと目を見られながらそんな事を言われれば必然的に私の顔はぼふんと赤くなる。
そんな私を見てシュウ君はニヤリと意地悪に笑うのだ。
「ああ、違った。声だけじゃない…その表情も、興奮する。」
「も
ももももうもう!シュウ君なんて知らない!ずっとえっちな声聴いてればいいよ!」
「花子の?」
「違うに決まってんでしょ!?もう!」
勢いに任せて彼の耳にイヤホンをはめてやれば可愛いふくれっつらのまま外されて「音楽なんかより花子の声がいい」とかすごい殺し文句を言われて恥ずかしさを誤魔化す為にそのままぎゅうぎゅうとシュウ君を抱き締めればスリスリを頬を寄せる彼は紛れもない彼女だ。
「だから!格好いいか可愛いかどっちかにしろって!何回言わせれば気が済むの!!」
私の悲痛な叫びはシュウ君以外には聞かれることなく、只むなしく部屋にこだまするだけだった。
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