7:床モフ
「ねぇねぇシュウ君。あのね、シュウ君私の彼氏なんだからこの状況何とかしてくれてもいいと思うよ。」
「………、ぐぅ。」
「ちょっとあからさまな寝たふりやめなさいよねこの態勢意外に辛いんだから。」
ゆさゆさ。
両手は諸事情で使えないから今私の膝の上でぐっすり眠ってるふりをしてるシュウ君に意地悪すべく
その枕にされてる足を揺らしてみると綺麗な眉間に皺が寄ってようやくゆっくりと目を開けてくれたがその顔はとても不機嫌である。
「何で意地悪すんの?花子…反抗期?」
「別に意地悪じゃないよね?ていうか余計に動けなくなった!!!」
もそもそと膝の上で一通り身じろいだ彼がゆったりと起き上がって正面から私を抱き締めるからもはや右腕、左腕、本体とガッチリとホールドされて動けなくなってしまった。
因みに右腕はアヤト君、左腕はスバル君にぐいぐいと引っ張られてしまってる。
あの、もげます。
「おいダル男!花子ねーちゃん離せよ!!ねーちゃんはこれから俺様と遊ぶんだ!!!」
「おいアヤト!花子ねぇが嫌がってんだろ!?花子ねぇはこれから俺と棺桶で昼寝すんだよ!!!」
ぐいぐいぐいぐい
ぎりりりりりりり
「ちょちょちょちょっとお姉ちゃんとして認めてくれたのはいいけどあのそのちょっと痛い痛いマジ痛いですよ」
そう、本日いつも通りシュウ君が私の膝の上でゴロゴロしてたら
暇だったのかアヤト君が突然部屋に上がり込んできたかと思うと「俺様バスケ得意だからねぇちゃんに勇士を見せてやる!!」って
嬉しそうに言いながら右手をぐいっと手に取った瞬間スバル君もやってきてしまって「花子ねぇ、いつもシュウの相手ばかりで疲れてんじゃねぇか?…もしよかったらその、」
とちょっと赤くなりながらスススと寄ってきて左腕を掴んだ瞬間先客のアヤト君と目が合って今に至るという訳である。
因みにシュウ君はその瞬間めんどくさそうにチラリと私の目を見て
そのままスッと目を閉じたけれど、お生憎様彼の事をすごく愛しちゃってる私にはその寝たふりは通用しなかったのだ。
「いたたたた痛いよアヤト君スバル君、ほ、ホントに腕ちぎれちゃう。」
「………。」
「仕方ねぇだろ!!!スバルが俺の姉ちゃん取ろうとすんのが悪い!!」
「はぁ!?花子ねぇはお前のモンじゃねぇよ!!俺のだ!!!!」
「……、………おいアヤト、スバル。」
ヒヤリ。
アヤト君とスバル君のそんな台詞を聞いた途端部屋の温度が一気に下がった気がした。
そして私に抱き付いたままシュウ君がまるで地獄の使者のような恐ろしい声で彼らの名前を呼んだけれど…
もう一度言うが今の体勢としてはシュウ君が真正面から私に抱き付いてる状態である。
…だから私としてはそんな怖い声で凄まれても、もはや笑うしかないのだけれど
アヤト君とスバル君はその恐ろし過ぎる声にビシリと固まってしまった。
「花子が………誰のだって?…あ?」
「だ、ダル男の…」
「しゅ、シュウの…」
……ちょっとシュウ君弟君苛めるのやめてあげなよ可哀想でしょ。
シュウ君の威圧感抜群の声色に再程までぐいぐいと互いに腕を引っ張り合っていた手は
スススっと音を立てずに離されてようやく解放された両手でガシリとシュウ君の体を抱き締める。
そして将来の弟君達に何だか死亡フラグみたいな言葉を投げかけてしまう。
「あ、アヤト君!スバル君!!私がシュウ君をぎゅうぎゅうしてる間に逃げて!!!また怒られちゃうよ!?」
「……なぁ花子、俺って何なのラスボスか何かなの?」
…いやいや、私に抱き締められてぶわっとお花散らしちゃうんじゃないかって位嬉しそうな空気を纏う
可愛すぎるラスボスなんて聞いた事無いからねシュウ君。
そんな事を考えながらも抱き締める腕に力を込めてガッチリと彼をホールドしていれば
その隙に「チクショウ!覚えてろ!!」とか何処かの悪役みたいな言葉を投げ捨てて可愛い弟君達はこの部屋を去ってしまった。
………。
「え、っと…」
「花子、」
「ん、なぁに?シュウく、うわぁ!?」
その後の沈黙が続いて何か喋ろうと思い、曖昧な言葉を口にした瞬間
シュウ君に名前を呼ばれたから返事をすればそのままぐいっと後ろに彼が後ろに体重を掛けちゃったもんだから
私はシュウ君に覆いかぶさる形でベッドにダイブしてしまった。
驚いてしまって固まってればシュウ君のお顔がみるみる不機嫌なものへと変わっていく。
あ、あれ…?どうしたのかな?
彼の態度の変化に首を傾げていると何とも可愛らしい不満が漏らされてしまった。
「花子…最近ずっと弟達ばっかり構ってる。……なぁ、俺は?」
「…ねぇシュウ君。シュウ君ってさ、ほんっとーにかわいいね」
「可愛くないし…可愛いのは花子だろ。」
シュウ君の可愛すぎる言葉に思わず吹き出せば
不機嫌だったお顔がますますむすっとしちゃうから
可愛いなって思って「ちゃんと愛してるのはシュウ君だけだよ」という気持ちを込めてキスをしてあげたかったんだけれど…
「シュウく……ぅえ!?」
「?」
ぼすん!
もぞもぞとシュウ君にキスしようと思って体を動かしていたら
スルリとベッドのシーツに腕を持っていかれてシュウ君に覆いかぶさったままべしゃりと倒れてしまった。
うう、ベッドの上だからと言うかシュウ君の上だから痛くなかったけれどシュウ君は重いよね。
「ご、ごめんねシュウ君。今どくか、」
「…………。」
ぽふん
「!?」
ちょっと着地地点が悪かったみたいで私はシュウ君より少し上の方へと倒れてしまっていて
恥ずかしい事に私の胸位置が彼の顔の所へきてしまったので
慌てて体をどかそうとすれば数秒じっと私の胸を見つめていたシュウ君は何を考えたのか
ちょっぴり首を上げてそのまま私の胸に顔を埋めてしまったのだ。
「ちょちょちょちょっとシュウ君!何やってんの!!ホラ!早くどいて!!!」
「やだ。花子が俺の事構ってくれないのが悪い。」
「ぎいいいいいい!!!!な、何で女の私が床ドンしなきゃなんないの!!ていうかベッドだからベッドドン!?語呂悪いしていうかシュウ君早く胸から離れてよ!!」
「………だめ。今床モフに忙しい。」
何 が 床 モ フ だ !!
そんな単語聞いた事無いしホント文字通り気持ちよさそうに私の胸でもふもふすんのやめてくれないかな!?
「う、うわああん!!!シュウ君に…シュウ君にお胸穢さるよぉぉぉ!!!」
「別にイイだろ…どうせ結婚したら胸だけじゃなく全部おか、」
「そこまでですよ穀潰し。」
必死な私の叫びもシュウ君は全然気にしないで「花子の胸ふにふにしてて気持ちイイ」とか言いながら
そのまま私の胸をまくらにして寝てしまいそうなくらい心地いい顔つきで目を閉じた瞬間
扉の方から先程のシュウ君と同じく地を這うような声が聞こえたので私はようやくそこで安堵の溜息をついた。
今度私の防犯装置と化しているレイジ君に美味しい紅茶をプレゼントしようって心の中で決意した真夜中である。
「レイジ君いつもいつもごめんね」
「いえ、こちらこそ逆巻家の恥であり長男である穀潰しが毎回ご迷惑を…」
「なぁ花子…床モフ…」
「…………穀潰し、ちょっと。」
なんとかレイジ君に助けてもらってお礼を言えば大人すぎる対応の彼に関心。
反対に先程の体勢がよほど気に入ったのか、シュウ君がまたやりたいと言わんばかりの輝いた目でこっちを見たけれど
それは端正なお顔に何本もの青筋を立てたレイジ君のスーパーお説教タイムによって阻止された。
シュウ君には悪いけれど今後一切その床モフとやらをする気はないのである。
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