1:大天使生誕祭


「あああ、お誕生日おめでとうございますシュウ様…!貴方様がこの世に生まれてきたことに感謝いたします!!シュウ様イズジャスティス…!ああ、尊い…TOUTOI!!!」

「…花子ちゃんのばーか!!」

俺の愛しい彼女がめそめそ泣いている。
それはもう可愛い顔で泣いている。
逆巻さん家の長男がプリントされたでっかいバースデーケーキを拝み倒しながら泣いている。




―そう、彼女曰く、本日大天使ご生誕感謝祭なのである。




「ああもうシュウ様っては天界から落ちてきたとき痛くなかったのかな?あ、こけちゃうなんてドジなまねはしないか、流石シュウ様!」


「…シュウ君は天使じゃなくて俺と同じヴァンパイアだからね。」


「え、コウ君と一緒にしないでよ。シュウ様に失礼。」


「ちょっと彼氏に向かって何その台詞!失礼にも程があるでしょ!!」




誤解を招きやすいが、彼女は俺の彼女だ。
正真正銘俺の彼女なのだ。決して逆巻シュウの彼女ではない。そして俺は人気絶頂のアイドルだ。そんな俺がこの忙しい仕事の合間を縫ってせっかく手に入れた休日を逆巻シュウの生誕祭に費やしているこの現実から目をそらせるなら逸らしたい。


「まったく…いい加減にしてよね。これでホールケーキ何個目だと思ってるのさ。」


「5個」



間髪入れずに答える花子ちゃんに盛大な溜息をついた。
そう、花子ちゃんは俺の彼女であると同時に大の逆巻家ファンなのだ。なので彼らの誕生日には当たり前のようにこの生誕祭が繰り広げられ、それにさも当たり前のように俺も付き合わされている。



因みに例の三つ子の誕生日は三日間続けてホールケーキだったので罪のないあの三人を心の底から恨んだのはナイショの話である。きっと来月はスバル君の誕生日だから既にケーキの予約も準備万全なんだろう。
あーもう、花子ちゃんの所為で逆巻さん家の誕生日全部覚えちゃったよ!



「もーもーもー!花子ちゃんは俺と逆巻さん達とどっちが好きなのさぁ!」



「え、逆巻さんに決まってるじゃん。」


え、なにその発言。
それは聞き捨てならないんだけど。
俺がピタリと動くのをやめると彼女はそのまま言葉を続ける。



「だってコウ君の事好きじゃないし。」



「え、嘘でしょ…?」




何を今更という感じで首を傾げながら答える花子ちゃんに対して俺は今すぐにここから逃げ出して泣きわめきたい気分です。
けれどそんな俺の心を知ってか知らずか、「何コイツ泣きそうな顔してんだ」みたいな表情でこちらをじっと見つめる花子ちゃん。


「好きじゃなくて、愛してるんだもん。」



「……やめてよ馬鹿、反則、そういうの。後で絶対泣かすからね。」



俺は彼女の言葉に不覚にも赤面してしまって
思わず口に出した照れ隠しも彼女は何もかもお見通しみたいで



「ハイハイ、逆巻家に嫉妬とか可愛らしいコウ君ツンデレ萌えー。」



「うっ!うるさいよ!!もうホント頭きた!!絶対泣かしてやるんだから!!」



「おーけーおーけ。後でいくらでもないてやるから。今言う事は?さんはいっ!」



「逆巻シュウ様御生誕おめでとうございます!!」


パーン!と半ばやけになりながら手に持ったクラッカーを盛大に鳴らしてやる。
ああもう!ありえない!この俺がこんな逆巻家LOVEなヲタク丸出しの女の子に夢中だなんてありえない!悔しいからシュウ君プリントされたケーキに思いっきりフォークをぶっさしたらシュウ様の美しい顔に何してくれやがると彼女の右ストレートが思いっきり顔面に飛び込んできた。



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