11:乙女チックな彼女はどこ!?


「ねぇ、コウ君コウ君。この世の健康優良児は全てが私の前にひれ伏し謝罪した挙句死滅すべき…そうだとは思わないか?」


「え、何花子ちゃんいきなり物騒…ていうかなんでそんなにいつもより声低く…」


バターン!


「は!?え、え!?花子ちゃん!?花子ちゃーん!!?」


彼女はいつもより低く掠れた声でとんでもなく物騒な一言を放った後勢いよく顔面からぶっ倒れてしまった。
慌てて駆け寄って抱き上げると彼女の体温はいつもより異常に高くてぐるぐる目を回しているところから察するにこれは…

「………風邪?」



「“ふふ…アンタ、身体あついな…ホラ、俺の体で冷やしてやるよ…”
“あ、そ、そんなシュウ様私今風邪ひいてて…!”
“だから俺が体遣って看病してやるって言ってんの…”
“あ、あ…っ、シュウ様…っ!”
なんつって、なんつって!おひゃーーー!」


「ううううるさーい!風邪の時くらい弱れよ!ここは弱った花子ちゃんを見せて俺をときめかせるところでしょーが!空気読みなよ!花子ちゃんの馬鹿!」


「ちょっと!私のスーパー妄想タイムを邪魔しないでしょコウ君の馬鹿!」


「どっちかっていうと花子ちゃんの方が馬鹿なんだからね!」


俺はそう叫んで固く絞ったタオルを思いっきり彼女の額向けて投げつける。
ナイスシュート!ストライク!

ていうかホントに風邪なの!?さっきから訳わかんない妄想にニヤニヤしながら足ばたつかせてるけど、超元気じゃん!

俺としてはこう…「ヤダ、コウ君、今日はずっと傍に居て」とか瞳を潤ませながら懇願する彼女を期待していたのだがどうやらそれはかなわぬ願いとなりそうだ。今日こそ弱い花子ちゃんを見れると思ったのになー。


「ところでどうしてこんなになるまで放っておいたの?」


ピピピと体温計が鳴ったから取りだせば39度の数字。小さくため息をついて彼女に聞いてみれば彼女はとてもイイ顔でこういった。


「同人誌即売会行って、そのままカラオケオール行って、そして次の日コスプレ撮影会行って、そのままオフ会に流れ込んだからかな★」


「寝ろよ馬鹿!」


ゴチンと彼女の頭に一発頭突き。
何だそのハードスケジュールは!芸能人の俺だって仮眠くらいとるよ!けれど彼女に反省の色は見えない。ぶーぶーと唇を尖らせて文句ばかり垂れる。


「だぁっていい感じのスバルきゅん受けとかレイジさん夢本とかあったし〜撮影会だってイイ感じに絡めたしさぁ」


「え、ちょっと待って花子ちゃんコスプレしてんの?カメラマンとかじゃなくて?」


「え、知らなかったの?」


きょとんとした彼女に思わず硬直。
え、だってコスプレってアレでしょ?メイドさんとかそう言ったきゃるんきゃるんな感じの…
やだやだそんな可愛い花子ちゃんの姿俺以外に見られてるだなんてそんなのヤダし!
俺のそんな考えを察したのか彼女はポンポンと優しく頭を撫でてニッコリ笑った。


「大丈夫だよー私男装専門だし。周りには可愛すぎるエム猫ちゃんしかいないもの」


「うん、それはそれで心配かな」


そのエム猫ちゃん達がね!
取りあえずその話は後日もっと詳しく聞くとして彼女の手をぎゅっと握って空いていた片手で先程俺を撫でてくれたように優しく撫でる。


「はやく良くなってよね。何なら俺が体、冷やしてあげるから。」


「やだコウ君病人の体冷やすとか何事?殺す気?馬鹿?馬鹿なの?ねぇ馬鹿?」


「数分前のお前の台詞を振り返れよこの馬鹿花子!フラグクラッシャーにも程がある!」


彼女の真顔によるマジレスに恥ずかしくなって思わず傍にあったふかふかクッションで彼女に攻撃。
くっそ!くっそ恥ずかしい!
けどそんな俺に彼女は笑って勢いよくその腕でこの身体を引き寄せてベッドへと引きずり込んだ。そして馬鹿みたいな熱いキスをお見舞いされる。


「な…っ、花子ちゃん!?」


「病人は熱くなって汗かかなきゃなんないんですー。付き合えよ。」


「は!?え、ちょ、まって…!花子ちゃ…!」


普段より低くて掠れた声がやけにセクシーで
熱によって潤んだ瞳が悔しいくらい扇情的で
もう今の俺に出来ることと言えば心の中で全力で白旗を振ることくらいだ。


「くっそ!いつになったら乙女チック花子ちゃんを見ることが出来ますかー!?」


俺の悔し紛れの叫びはこの病人のクセに元気すぎる彼女の部屋に虚しく響き渡った。



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