6:渾身のデレ


「無神コウ君クリスマスライブ約2分でチケット完売きねーん!ひゃっほーぅ!!」


「………。」


「コウ君?」


「今は!今だけは!!超人気者な俺が憎い!!」


「やだもう私の彼氏超ナルシスト。」


花子ちゃんと付き合い始めてから初めての冬。普通なら12月25日は恋人同士らしくあまーい夜をすごしたりする時期だ。

けれど俺は仮にもアイドルだから、そんな女の子憧れのシチュエーションを演出してあげることは出来なくて、毎年恒例のクリスマスライブに向けての準備で大忙しだった。

だからせめて少しでも近くに居たいと、花子ちゃんが俺のライブに参加するためにチケット戦争に初参加した。…のはよかったんだけど。

どうやら俺の人気は予想以上だったようで、チケット受け付け開始直後から受け付けの電話はずっと通話中状態。ようやく繋がったと思ったらチケット完売の無慈悲なお知らせが只々無機質な音声で流れるだけだったのである。


「うぅ…クリスマスに花子ちゃんと一緒に居れないなんてサイアクだよ」

「仕方ないよ。コウ君超人気なんだもん。クリスマスだけはみんなが俺の恋人ーってね。」

「うー…うー!」

優しく撫でられる手がとてもあたたかで
この物分かりの良すぎる恋人にもやもやした気持ちは抑えきれなかった。


「花子ちゃんは…」


「ん?」


「花子ちゃんは別に俺と一緒にクリスマス居れなくてもいいんだ…!どーせアレでしょ!?逆巻さん達のクリスマスパーティに参加するんでしょ!?そうだよね!花子ちゃん逆巻さん大好きだもんね!!逆に良かったんじゃないの?チケット取れなくてさぁ!これで堂々とパーティ参加できるじゃん、嬉しいでしょ?嬉しいよね!?」


まくしたてられる俺の言葉をぽかーんと口を開けたまま聞いてる花子ちゃん。
ああ、こんなの俺の只のヒステリーじゃん情けない。けど花子ちゃんが悪いんだよ。だって少しくらい淋しいとか一人にしないでとか駄々こねてくれたっていいじゃん。それなのに…それなのにさ。

「…そっか。」

「………花子ちゃん?」

「コウ君がそう言うならそうしようなか。」

何故か今にも泣きそうな花子ちゃんはそう呟いて彼女はその場から立ち去った。


「なんだよ…花子ちゃんの馬鹿。」


それから数日、俺はリハーサルやなにやらで忙しくてまともに学校に行ける日が少なくなっていった。
その間、花子ちゃんが俺の前に姿を現すことは無く、俺は只々ぽっかり穴が開いたような毎日を過ごしていた。


「うー…もう何日も花子ちゃんに会ってない。いい加減花子ちゃん不足で死んじゃう…」

「…話を聞いてたらどう考えたってお前が悪いだろう?自業自得だ。」

「なぁんでさ!俺悪くないよ!!悪いのは花子ちゃんだよ!!」


「…逆巻の家でパーティがあるのを事前に知っていて、それでも尚お前のライヴに行きたいと言ったのだろう?それに、我儘を言わなかったのはどう考えてもお前を困らせたくなかったからだ。それなのに彼女に罵声を浴びせて責めたお前意外に悪い奴などいるものか馬鹿。」


「〜っ!うるさいよ!!ルキ君は黙ってて!!」


俺がそう叫ぶとルキ君は小さく呆れたと言わんばかりに溜息をついて次にいたずらっ子のように口角をあげて俺にとんでもない言葉を投げかけた。


「嗚呼、そう言えば逆巻の兄弟に聞かれたなぁ…『最近花子が落ち込んでいるから、何か元気づけるようなものはないか』と…
ふふ…案外あいつらも自分のファンというものは大事にしているようだ。」

その言葉に俺は息を詰まらせて気付いたら教室を駆け出していた。そんな俺の後姿を眺めて「全く、手のかかる弟だ」とルキ君が楽しそうに呟いたのは知らずに。


花子ちゃんのいる教室のドアを勢いよく開けると俺の事を見た女生徒がすごい黄色い声で叫び出した。
そんな声に囲まれながらも俺の存在に驚いて固まっている花子ちゃんの元へ足を進める。


「え、コ…コウ君?どうしたの…?」


「俺は花子ちゃんがだいすきです!」


俺の大きな声での告白に教室中がどよめき始めるけど今はそんな事知ったこっちゃない。
周りの雑音をよそに俺は更に言葉を続ける。


「この前はごめん!俺は花子ちゃんに我儘言って欲しかったの!なのに君は聞き分けが良すぎるから逆ギレしちゃった!
だから逆巻さん家行けばいいなんて嘘!ホントは絶対行ってほしくないし俺以外の男とクリスマス過ごすなんてありえないから!!
ホント独占欲とか強くてごめん!でも全部花子ちゃんの事が好きだか…花子ちゃん?」


彼女は俺の言葉を聞いて真っ赤になった顔を隠して目を背けていた。


「コウ君の渾身のデレを頂きました…!い、生きててよか…った…!この萌えで死ねたのなら後悔なんてないぜ…俺の屍を超えていけ…ぐはっ!」


「え!?ちょ、最後まで聞いてよ馬鹿!!起きてよ、花子ちゃーん!!」


結局その後彼女は逆巻さん家のパーティには参加しなかったのだが、折角だからと彼らにもらったクリスマスプレゼントを抱きながら昇天したのはまた別の話。


「うふふ、うふふ…天使たち6人へのお返しは何にしようかなぁ♪」


「ねぇ花子ちゃん。ライヴを頑張った君の愛しい彼氏へのご褒美と数日遅れのクリスマスプレゼントは?」


「?そんなの私に決まってるじゃない?え、それ以外に何が欲しいのコウ君。」



「やだもう何このイケメン!抱く!!!」



戻る


ALICE+