8:原稿作成時々愛の言葉


「あの…あの、ねコウ君…明日お仕事お休みでしょ?だから、その…今夜は寝かせたくないの…!」

「花子ちゃん…!」


彼女が恥じらいながら顔を赤くして、潤んだ瞳でそう言ってくれたものだから俺はもう感激で胸がいっぱいだ。
そんなに、そんなに俺の事愛してくれていただなんて…!俺は彼女の手を取り優しくぎゅっと抱きしめる。


「勿論…!勿論だよ花子ちゃん!今夜は沢山楽しもう…?」


「コウ君…」



彼女は俺の言葉にとても嬉しそうに微笑み…


微笑み…




「…………」


「やーマジで助かったよコウ君!今回の修羅場マジキツくてさぁ〜あ、そこのトーンはこれで宜しく〜☆」


「数分前の俺のトキメキを返せぇぇぇえ!」


俺の叫びは空しく彼女の部屋中に響き渡るが
すぐさま「ぅるせぇ!」とげんこつが飛んでた。


「な、何が悲しくて花子ちゃんの同人誌のアシスタントしなきゃいけないのさ!はい、こっち出来ましたー!」


あの後飛び切り可愛く微笑んだ彼女に連れられてやって来た部屋に散らばっていた原稿の山を見て、今までの行動から察し、身の危険を感じて逃げ出そうとしたのだがもはや遅かったのだ。

今俺はぎゃんぎゃん嘆きながらも手は高速に動かして彼女の原稿の仕上げにかかっている。
っていうか、っていうか…!

「こ、この二人スゲー見覚えあってやなんだけど!もしかしなくても俺のお兄ちゃんと俺の弟じゃないかなぁ!?」


「あ、そうそう今回の新刊はルキアズ18禁なんだぁv」


「ひぃ!やっぱり!!!!」


ガンと頭を机に叩き付けて嘆くけど
当の本人はお構いなしだ。


「ていうかさ!なんで彼氏の兄弟こんなふうにしちゃってるわけ!?キモチワルイ!原稿のアズサ君、ルキ君に喘がされちゃってるんですけど!」


「え、可愛いでしょ。」

「お 前 の 頭 は ど う か し て い る !」


ごちんと花子ちゃんの額に出来上がった原稿を押し付けて吠える。
彼女は相変わらずへらへらと笑ったままだ。
ムカツク!この余裕な顔がムカツク!


「花子ちゃんは俺の事なんだとおもってるのさー!」

「え、恋人。」


「………うん。」


間髪入れず当然の様に答える花子ちゃんに思わず赤面。
なんだよ、わかってんじゃん…


「じゃ、じゃぁなんで恋人にこんな仕打ちをするのかなぁ!」


負けじと叫んでみれば
未だに原稿を打っている彼女がピタリと手を止めてくるりとこちらを向いて意地悪そうにニヤリと笑みを浮かべた。


「そりゃ、私がコウ君限定でドSだからじゃないですかぁ?」


…もうやだ、その「でもそんな私が大好きなんでしょ?」って言う顔。
ああそうだよ、俺はどんなキミだって大好きだよ!仕方ないよね!恋は盲目って言うんだもんね、仕方ないよね!


「んもー!花子ちゃんのばーか!」

「はいはい、悪態つくコウ君もだいすきよー愛してる。」

「…っ、お、俺だって、愛してるもん。」


自分の弟が兄に喘がされている原稿を仕上げながら赤面しつつ愛の告白だなんてとんでもない光景だけれど
けれど俺の言葉に嬉しそうに笑う彼女を見て
たまにはそれもいっかな、なんて思ってしまう自分は相当末期だ。


(「それが終わったら次はこっちね、ユマシュウ18禁本」)

(「…なんか、うん…リアルでやだ。」)


(「…私もそう思う。」)



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