やきもち〜アヤト君の場合〜


「アヤト君の馬鹿ー!も、もうアヤト君なんかたこ焼きと結婚すればいいのよ!」


「うお!ば、馬鹿花子!揺らすな!たこ焼き落ちんだろ!」


「落ちちゃえ!落ちちゃえ馬鹿!!」



今私はそれはもう盛大に泣きながらアヤト君の体をガクガク揺らしている。
今日も大好きなアヤト君とデートで始めはすごく嬉しくて舞い上がってたんだけど
たこ焼き屋さんの前を通りがかった瞬間私の乙女チックデートは終了のお知らせである。


「こ、こんなにいっぱい買って…!もうもうもーう!」


「仕方ねぇだろ!?新商品とかオリジナル味とか一杯あったんだから!」



さっきまで私の手を繋いでくれてた大好きなアヤト君の手は、このにくらしいたこ焼きに占領されてしまっている。
両手いっぱいに持っているソレを全部投げ捨ててやりたい気分だ。


「アヤト君の手は私のなのに…ひどいよ」


「花子、お前たこ焼きにやきもちとか…馬鹿じゃねぇの?」


呆れてしまったアヤト君がこちらを見つめて大きな溜息。
だって仕方ないよね、私はアヤト君が大好きで
そんな大きなアヤト君の手にぎゅっと包み込まれたらすごく幸せな気分になるんだもん。


しょんぼりしながらじっと彼の手を見つめていたらアヤト君は何を思ったのかそのまま公園の方に歩いて行ってしまう。


慌てて追いかければそのままどかっとベンチに座ったから、隣に座りたかったのだけれど
またもや邪魔をするたこ焼き君。彼の隣にはソイツが陣をとり、私はたこ焼きの隣に座る。


アヤト君、たこ焼き、私と言うなんともシュールな光景だ。


「10分位待ってろ」


「え、なに…おぉ、」


彼の意味の分からない宣言を聞き返す暇なんてなくて
アヤト君はそれから物凄い勢いで沢山あるたこ焼きを平らげていく。
…逆巻家早食い競争とかしたら間違いなくアヤト君が一等賞だろうなぁ。


そして丁度10分後。
あれだけたくさんあったたこ焼きは今や彼のおなかの中で
空になった容器をぽいぽいぽーいとゴミ籠へと放り投げてしまった。


そして今までたこ焼きがあった分空いてしまっている微妙なアヤト君と私の距離。


何だか気まずくてすぐには詰めることが出来ない。
するとそのままの距離で私を見てたアヤト君がニッコリ笑った。


「たこ焼きにやきもちやく花子もかわいいな!」


「わっ!私は真剣なのに!」



ひどいよアヤト君!
そんなからかうように言っちゃってさ!どうせアヤト君が私の事好きな重さより私がアヤト君を好きな重さの方が断然重いですよ!
悔しくて唇を尖らせて拗ねてたら、彼が大きく手を広げてこちらに向いてくれる。


「ホラ、お前の恋敵は俺様が退治してやったから…こいよ。」


「あ、アヤト君…!」



そんなそんな口の端にソース付けながら格好良い台詞言っても可愛いだけだけど
今の私の脳内を愛おしさでいっぱいにするには十分で
少しだけ離れていた距離を一気に詰めて彼の腕の中へと飛び込んだ。


「ふふ、今頃アヤト君のおなかの中でたこ焼き君はくやしがってるだろうなぁ」


「花子は嫉妬深くて怖えよ。そんな怖い花子を大切にしてやれんのは俺様くらいしかいねぇな。」


苦笑しながら優しく頭を撫でてくれる私の大好きなアヤト君の手に目を細めて幸せに浸る。
ああ、私はやっぱりアヤト君が大好きだ!


嬉しくて、勢いに任せて口の端についていたソースを舐めとれば
キョトンとしてしまったアヤト君がすぐにとても意地悪な顔で笑った。


「おい花子、するならちゃんと口にしろ。こんなんじゃ足んねぇよ」


「え、ち、ちが…そう言う意味じゃ…、」



私の言葉なんてちっとも待ってくれない彼の唇は乱暴に私の台詞を飲み込んで
そのまま深くて熱いキスを何度も何度も降らせてきた。


大丈夫。嫉妬なんかするな。



彼の無言の唇が、そんなふうに私を慰めてくれた気がして
私はまた幸せに笑うのだ。



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