末っ子浮気疑惑


最近アズサ君の様子がおかしい。
いつも一緒に居てくれるのに最近全然だ。
それどころか良くルキ君の所へ行ってるみたいだし、彼の所へ行った後の彼の手には沢山の傷跡…


あとコウ君とも一緒に居るみたい。
帰って来た時、「ひもって結び方…むずかしい」って言ってた。

あれ、コレはもしかしなくてもアズサ君、ルキ君とコウ君に傷つけてもらってたりするのかなぁ。
そしてひょっとしたら…ひょっとしたら


『俺を傷付けてくれない花子なんかもういらない』


とか死刑宣告をされてしまうのではないのだろうか。
そんな事を考えればもう私は顔面蒼白だ。
やだやだ、そんなの絶対ヤダ!
でもだからってアズサ君を傷付けることなんて出来ないし…ど、どうしよう!


「あ、花子…どうしたの?なんだか…とても、かなしそう…」


「あず、アズサ君…」



ひょっこり現れたアズサ君が私の顔を見て私より悲しそうな顔をしちゃって
慰める様にぎゅっと抱き締めてくれる。
ああ、こういう彼の優しさがだいすきだなぁ。
けれどそこで私はある違和感を感じる。


「あれ、アズサ君から甘い香りがするけど…アズサ君の好きなものって辛いのじゃなかったっけ?」


「………っ!」


私の言葉に慌てた彼は勢いよく私から離れて
パタパタと体を動かして必死にその甘い香りを消そうとしている。


え、何どういう事?


まさか…まさか、ルキ君とコウ君に苛めてもらってるだけじゃなくて浮気とかされてるの私!

だってあのお菓子のような甘い香りはどう考えても男性ものの香水でもないし…
うそ、ホントに?アズサ君に限って浮気なんて…って思ってたのに。


思わず泣きそうになったけれど大慌てでその場から逃げ出してしまったアズサ君の背中を見つめてもう呆然とするしかなった。


自分に魅力とかあるとは思ってなかったけどアズサ君いつも大好きって言ってくれてたのに…


「…ひどいよ」


けれどこれで少しばかり覚悟が出来たかもしれない。
いつ彼から別れ話を切り出されたとしても最後は笑顔でいよう。


そしてその時は意外に早く来てしまったみたいで…
ある日私はアズサ君に屋上へと呼び出されてしまった。
足を向ければそこにいたのはどうしてかそわそわしているアズサ君と…


「…ばればれなんだけど。」


建物の隅っこに隠れているイケメン兄弟の残り三人。
ばれてないと思っているのかひょっこり頭を出してこちらをじっと見つめている。
なに、今から盛大にフラれる私をみんなで笑いものにする気なのかな…


小さくため息をついて、覚悟を決め、アズサ君の元へ寄れば彼はとびきりの笑顔。
ああ、これを見るのも今日が最後なのかな…
彼の身体には相変わらず甘い香りが染み付いてしまっている。


「あの、アズサく…」


「花子…はい、コレ…」


「………え?」


意を決して話を切り出そうとすれば
アズサ君がずいっと可愛らしいラッピングをされた箱を差し出してきた。
突然の事で首を傾げればあどけなく微笑むアズサ君。


「今日…バレンタイン、だから…俺、から…花子、へ…」


「え?え?…えぇ!?」


事情が呑み込めなくて固まっていたけれど
隠れている三人が私達の様子を固唾をのんでそれはもう真剣に見つめている。


「あ、あの…アズサ君、これ…」


「ルキ、が…バレンタイン…逆チョコって、いうの…あるって…だから…花子に、だいすきって…つたえたく、て…」


少しばかり頬を赤くしながらそう言ってくれるアズサ君に対して私は今酷く申し訳ない気分だ。
だって今日まで私は彼の事を盛大に誤解していた。
けれど彼はそんな私を気にしないで更に言葉を紡ぐ。


「チョコのつくり方…ルキにおしえて、もらって…ラッピング…かわいいの、コウに…この場所は…ユーマが…確保、してくれて…今日まで、内緒にしたくて…えへへ」


「あず、あずさくぅぅん!」


もう健気すぎる私の彼氏に感激しすぎた私は
そのままチョコを受け取って嬉しくてボロボロ涙を零した。


「最近アズサ君構ってくれないし、甘い香りするから…わたし、捨てられるって…おもったよぉぉぉ」


「ふふ、ごめんね…不安に、させちゃったんだね…大丈夫、俺には…花子、だけ」



未だに泣き続ける私の瞳にちゅっと優しくキスをしてくれる。


ああ、こんな優しい彼を疑うなんて最低だなぁ…


けれど感傷に浸ってる間も視界の端でハイタッチをして喜んでいる三兄弟を見ればそんな気持ちさえ吹っ飛んでしまう。
みんな今日の為にアズサ君に協力してくれたんだなぁ。


「アズサ君…ありがとう」


「やっぱり…花子、は…笑ってる方が…かわいい、ね」


そんな言葉を交わしてお互いへにゃりと笑い合えば幸せなバレンタインデーの材料は全て揃ってしまった訳で

別れ話だと勝手に思い込んでいた私の脳内は今やすっかりお花畑だ。
人間ってホント単純に出来てる。


「ねぇ、アズサ君…今から私もアズサ君にチョコ作ってもいい?」


「ホント?うれしい…な…ふふ、」


普段なら彼の好みに合わせて辛く作るけれど
これだけは私の大好きな気持ちを伝えたいから
ふわふわで甘いチョコを作ろうと心に誓って笑った。



戻る


ALICE+