特別なチョコ
「2月14日!俺!すごく!期待してる!」
「え、えぇ!?」
とってもきらきらしたアイドルスマイル全開で私の愛しいコウ君がそう言った。
やっぱり彼はアイドルで人気者だから毎年沢山のチョコを貰うんだそう…
なのにどうしても「彼女の花子ちゃんのチョコが欲しい!くれないなら死んじゃう!」と言ってきいてくれない。
そして彼のお願いにとんでもなく弱い私はその勢いのまま首を縦に振ってしまった。
「ど、どうしよう…」
2月14日当日。
ルキ君に頼み込んでキッチンを貸してもらい、現在頭を抱えている。
周りには大量の色んな味でいろんな形のチョコの山。
「うぅ…どれも絶対ダメ…」
嘆いている理由は簡単。
コウ君はアイドルで人気者。
だからファンの子にきっと素敵で綺麗な、おいしいチョコをたくさんもらって帰ってくる。
私はこれでもコウ君の彼女で、やっぱりおこがましいけれどどうしても彼の一番になりたい。
それはなんだって、そう。
今日渡すチョコだって、誰よりも素敵で綺麗でおいしいチョコをあげたい。
…なのに現実はそんなに甘くなくて、どう頑張っても出来上がるチョコたちは平凡なものばかり。
「…約束するんじゃなかった。」
小さく一人で呟いてじわりと涙を溜める。
こんなんじゃ折角期待してくれてるコウ君をがっかりさせるだけじゃない。
だったら最初から約束なんてしなかったらよかったんだ。
無駄に期待させちゃってさ…結局私は彼を喜ばせることが出来ないんだ。
「…すてよ、」
悲しいけれどこの程度のレベルのチョコ、コウ君に見せること出来ないもの。
だからって誰かにあげる気もしないし…
溜息をついてゴミ箱にチョコを入れようとお皿を傾ければ零れ落ちるチョコたち。
けれど彼等は真っ白で綺麗な二つの掌に掬われる。
「〜っ、セェェッフ!あっぶなぁ〜!」
「こ、コウ君!?」
私のチョコを掬ったのは紛れもないコウ君で
相当焦っていたのか冷や汗をかいてドキドキしたような顔でお皿に乗ってたぶんのそれを全部拾い上げる。
そしてほっと一息ついてキッと可愛い顔でこちらを睨みつける。
少し怖くて思わずビクリと体を揺らしてしまった。
「何で捨てようとしてたの?俺のでしょ?コレ。」
「だって…普通なんだもの」
「はぁ?」
私の言葉に素っ頓狂な声。
私はそのまま震える声で言葉を紡ぐ。
「折角コウ君期待してくれたのに、こんなのしか作れなくて…ファンの子からもっと素敵なチョコたくさんもらってるだろうから、いらないかなって」
「花子ちゃん」
いつになく低い声で名前を呼ぶコウ君が怖くて顔が見れない。
下を向いてしまってガタガタと体を揺らしてしまう。
ああ、どうしようコウ君を怒らせてしまったみたいだ…
けれどそんな私を見ていたコウ君は小さくため息をついてひょいっと屈んで目線を合わせたかと思うとそのまま私の唇を塞いでしまった。
突然の事に驚いてしまえば、彼は困ったように笑う。
「確かに花子ちゃんのチョコはファンの子達のに比べたら普通だよ?でも問題はそこじゃないんだよねー。」
「え、ど、どう言う事?」
よく分からない替えの言葉にキョトンとしてしまい問えば、今度は優しく何度も頭を撫でてくれる。
あ、あれ?怒ってたんじゃなかったのかな…?
「大好きな大好きな愛しの花子ちゃんがさ、俺の事ばっかり考えて俺の為だけに一生懸命作ってくれた。その時間と、その思いが詰まったこの子達。それってさ、どんな綺麗でおいしいチョコより魅力的なんだよね。俺としては。」
「う…うぅ…コウ君…」
その言葉が嬉しくて嬉しくて遂にボロボロと泣きだした私を苦笑しながらもぎゅっと抱きしめてくれるコウ君は最高に格好良い。
「俺の為に頑張ってくれたんだよね?」
「うん、コウ君を喜ばせたくて頑張ったの…」
「だからこんなに沢山チョコ作ったの?」
「どれがいいか、わかんなくて…絶対絶対コウ君を喜ばせたくて…」
私の言葉に「あーもう!」と盛大に叫んだ彼は先程とは比べ物にならない位
ぎゅうぎゅうといっぱい私を抱き締める。
ちょっと苦しいけれど、なんだかうれしいからいいかな…なんて。
「ほんっと花子ちゃんって可愛いよね。最高のバレンタインチョコ、ありがとっ!」
「えっと…コウ君…よろこんでくれた?」
不安げに顔を覗き込んで問えば
アイドルスマイルではない本当の彼のとびきりの笑顔。
「勿論っ♪花子ちゃん、大好きっ!」
その一言だけで、私の今までの苦労はあっさり報われてしまって
私もお返しにと精一杯彼に抱き付いた。
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