救出劇〜カナト君の場合〜
うぅ…困った。
困りました…!どうしよう!!
カナト君がいつもの通り美味しいお菓子が食べたいって言ったので私は嬉々として深夜でも空いているコンビニへと駆けだした。
勿論沢山美味しくて甘いものを食べている彼の舌を満足させるのに十分なものはないけれど
…全く何も用意できないよりかはマシだっておもって…
けれど一人でこんな深夜に出歩いたのが間違いだったのかもしれない。
現在私は数人の男性に囲まれて大ピンチなのである!!
「ど、どうしよう…」
彼等に聞こえないように小さく呟いても現状は一向に変わらない。
ぎゅっと手にもっている沢山のカナト君への贈り物を抱き締めて俯いてしまう。
…まさか自分がナンパされるなんて考えてもみなかった。
どうしよう、怖い…
でもこんな真夜中に誰も助けてくれるはずもなくて
私の手はそんな男性の一人が強引に引っ張ったからお菓子がどさりと地面に落ちてしまう。
嗚呼、私…もしかしなくてこのまま…
「ぐすっ、花子さん…」
もう成り行きに任せるしかないのかって諦めていれば聞こえてきた愛しい愛しい泣き声。
男性達の後ろを頑張って覗いてみればテディ君をぎゅっと抱き締めて大粒の涙を零しているカナト君と目が合った。
「カ、カナト君っ!」
「うぅ…どうして?花子さん、僕を置いて何処かへ行ってしまうの?ひどいよ…ぐすっ」
深夜、可愛いテディを抱き締めて可愛いカナト君が号泣である。
私を何処かへ連れていこうとしていた彼らは少し気が引けてしまったのか
カナト君に謝罪の言葉を口にしてそそくさとその場を後にしてしまった。
す、すごい…カナト君ってやっぱり可愛いから男の人にもモテモテだ!!
呑気にそんな事を考えていれば二人きりになった瞬間ピタリと彼の涙が止まる。
そして無造作に零れていたそれを拭い取れば大きな溜息ととんでもなく不機嫌なお顔が私を襲う。
「全く…帰りが遅いと思ったら…花子さんは馬鹿なの?」
「あ、あれ!?カナト君!さっきまで泣いてたんじゃ…!」
「はぁ?あんなの嘘泣きに決まってるでしょう。」
彼の豹変っぷりに驚いていればコイツ本気で馬鹿なのかって顔で嘲笑されてしまってますます驚いてしまう。
か、カナト君演技派!!すごい!!
すると不意に彼に手を取られてすごい勢いで引っ張られてしまった。
ふわりと受け止めてくれたのは紛れもないカナト君で…
「本当は一人残らず燃やしてしまってもよかったんですが…花子さんは怖いのが嫌いでしょう?」
「え、え?も、もしかして…怒ってくれてたの?」
「当たり前ですよ。だって君は僕の一番大事なひとなんだもの。」
カナト君の言葉がすごく嬉しくて思わず自惚れた発言をすれば
ぷくーって頬を膨らませてじとりとこちらを見つめてくれる彼が愛おしくて思わず自分からもぎゅうぎゅうと抱き付いてしまう。
そしてようやく自身の手が空っぽなのに気が付いて顔面蒼白。
「ご、ごめんなさいカナト君…!わ、わた、私さっきスイーツ全部落としちゃった…!」
「………花子さんって本当に馬鹿で愚図でのろまですね。」
小さくため息をつかれてそのまま屋敷の方へと足を進めてしまう彼に
大慌てでついて行けば少し強めに握られた手にちょっとだけ驚いてしまう。
「花子さんがこんな危険な目にあうんなら甘いものなんていりません。」
「か、カナト君…っ!」
「もう絶対一人で夜であるいちゃ駄目だよ?約束。」
今度は本当に、本当に不安そうな瞳でそう問われてしまって
もう彼への愛しさゲージが振り切れてしまった私は勢いよく首を縦に振る。
するとカナト君の瞳は不安げなものから嬉しそうな色に変わって
その大きな目を可愛らしく細めてくれた。
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