愛しのアナタ


「おい、花子…そんなにはしゃぐんじゃない。転んで怪我でもしたらどうするんだ。」



「だいじょーぶだよ!もうもうっルキ君は本当に心配性だよねっ!」



彼との久々のデートが嬉しくて、慣れないヒールを履いて軽やかにスキップをする。
私はルキ君が大好きだけど、ルキ君も私の事、とってもとっても大好きなの!
だからこうして彼が何もない日は暗く冷たいお部屋から出してくれる。
嗚呼、私はなんて幸せ者なんだろう!!



「ああ、足と手の痕…消えていないのか。」



「えへへ、ずーっと消えなきゃいいのになぁ。」



「俺はすぐにでも消えて欲しい。…そんな嫉妬の痕なんて。」




昨日の【躾】の痕をじっと見つめて悲しそうなルキ君には申し訳ないけれど
私はずーっとこの痕、消えなきゃいいって思ってるの。
だってコレは私の事が大好きすぎてついついルキ君がつけちゃったものだから。



「そう言えば昨日はあの後どこに行っていたの?私、すごく寂しかったよ?」



「…少しゴミ掃除をしていてな…淋しかったか、すまない。これからはもっと傍に居るとしよう。」



…そうなんだ。
昨日私があの部屋から抜け出してこっそりお買い物に行ったときに
何処かで聴いたような声に話しかけられていたら真っ青な顔をしたルキ君が私をそのまま部屋に連れ戻したけれど
そっか、ゴミ掃除かぁ。なら仕方ないかな。
ルキ君は綺麗好きだから週に一回は私の周りのゴミ掃除してくれているみたいだし。



「ああそうだ、ルキ君。この先にね?とっても美味しいケーキ屋さんが…ぅわ!」



「花子!」



彼の顔ばかり見ながら歩いていたらどうやら階段を踏み外してしまったらしくて
私の視界は急激に揺れて、すごく怖い顔のルキ君を最後に暗転してしまった。




「………あれ?」



「ああ、目を醒ましたか。よかった…おはよう、花子。」



「るきくん?」



次に目を醒ましたときは彼のベッドの上で、なぜか手足に違和感を覚えたけれど
それよりもルキ君がとても嬉しそうに笑っていたから私もつられて笑ってしまう。



「どうしたの?ルキ君…とっても嬉しそう。」



「ああ、花子がもうどこにもいかない方法を見つけたから…」



愛おしげに頬を撫でられて、それが気持ちよくてすりすりと自らも頬を寄せると
彼の笑みは更に深くなる。



「花子は目を離すとすぐに何処かへ行ってしまうから…こうすればもう俺から離れるなんて酷い事、しないだろう?」



「………あ。…ふふ、そっか…そうだね。」


彼の言葉に四肢を見つめて言いたい事を理解した私は困ったように笑う。
もう本当にルキ君は私が大好きだなぁ。



「でもこれじゃぁもうルキ君をぎゅって出来ないよ?」



「その分俺が花子を抱き締めるから構わないだろう?」



「もう美味しいケーキ屋さんに一緒にデートもできないよ?」



「そんな事しなくてもケーキなら俺が買ってきてやるさ。」



なぁんだ。
じゃぁ、何も問題ないか。
全て解決といった具合に互いに微笑み合えばふわりと流れるこの幸せな雰囲気が私は大好き。
だってそれだけルキ君が私をだいすきで、私だけを見てるって事でしょう?



「ねぇねぇルキ君。私今すっごくルキ君にぎゅってされたいよ…して?」



「そうか…花子に愛されていて俺は幸せ者だな。」



私の懇願をすんなり受け入れてくれた彼はそのまま私の“体”を強く強く抱き締めてくれる。
もう二度とこんな愛おしい彼を抱き締めることが出来ないのは残念だけれど
ルキ君がこうしたいのなら私はいいかなって思う。



「ふふ…私、もう本当にルキ君なしじゃ生きていけない体になっちゃったね!」



「そうだな。きっちり最期まで愛してやるから…安心しろ。」



優しい彼の言葉に私の胸は酷く高鳴った。
ああ、こんなに愛されるなんて本当に私は幸せ者だなぁ。



「ねぇねぇルキ君。今日はいかなくていいの?…ゴミ掃除。」



「ああ、昨日の奴で最後だったから…もう行かなくていい。」



「そっか!じゃぁもうずっと一緒だね。嬉しい!」




おずおずと聞いてみれば返って来たその答えに私は飛び上るほど嬉しかったけれど、それは二度と叶わない。



もう私にははしゃいで飛び跳ねる足がない。
もう私には嬉しさで彼に抱き付く腕もない。



きっと全部全部彼が私と言う本体から切り落としたのだろう。


足も
腕も
知人も
世界も
全て、全て、すべて…



けれど不思議と私の胸に嫌悪や憎悪はなくて
只々彼への愛おしさでいっぱいで本当に幸せな気分なのだ。



「ああでも、ルキ君…昨日の男の人…金髪碧眼の…あの人、私の事知ってたみたいだけれど…誰か知ってる?」



「…気になるのか?」



「うん、なんだか…すごく懐かしい感じが…あれ?えっと…なんでだろ」



「…そうか。」




記憶が混乱する中彼はとても素敵な笑顔を私に向けてそっと触れるだけの優しいキスをしてくれた。
嗚呼、このキスをされると私はもう何も考えることが出来なくなるんだ…



「ルキ君…」



「嗚呼、花子…まだ調教が足りなかったんだな。すまない…もっともっとシてやる。…そして俺への愛以外全てお前の中から消してやるから…」



彼のその言葉が余り理解できなかったけれど
うん、ルキ君がそうしたいならしてくれたらいいよって思う。




だってだって私はルキ君が大好きでルキ君も私が大好きなんだから!






ヒラリと彼の机の上から落ちた
私と昨日の男性の幸せに写る写真が落ちたのを私は知らないまま
只々、彼の愛を全て受け入れる事に専念した。




あれ?私…




私が本当に好きだったのって…



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