愛をお食べ


「レイジさんの…もぐもぐ、おりょ…もぐ…うり…って…もぐもぐもぐもぐもぐ」



「…私の作った料理が何なのですか最後聞き取れませんよというか食べるか喋るかどちらかになさい。」




「もぐもぐもぐもぐもぐ」




「仮にも最愛が目の前にいるのに食事に専念とはどういう了見ですか花子さん!!」



ゴスッ!!



花子さんの最愛であるはずの私が目の前にいるにも関わらず
彼女は私がつくった料理に夢中でこちらを見向きもしない。
思わず腹が立ってその小さな頭に思い切り手刀をお見舞いすれば間抜けな「もぐぅ!!」という擬音。
…何と言う事でしょう。
殴られても花子さんは私の料理を離そうとしない。




「全く…自身の作った料理に嫉妬する日が訪れるだなんて思いませんでしたよ。」




「もぐもぐ…ん、だって仕方ないですよ。レイジさんの料理はどれもこれもあたたかいから。」




呆れかえって長い溜息をつけば彼女は一通り食べつくしたそれに
パチンと大袈裟に両手をついてごちそうさまのポーズを取ったかと思えば意味の割らない事を言いだした。
…あたたかい?



チラリと彼女の目の前の空っぽになってしまった食器に視線を移す。
先程までもしゃもしゃと夢中で食べていたのは昨日の深夜から食べたいと大きな声で喚き散らされ寝不足にさせられてしまった憎き冷やし中華である。
あたたかいとは正反対のとても冷たい食べ物のはずだ。




けれど花子さんは私の視線に気付いたのか
その空の…いえ、ほぼ空の器を取って少しばかり残っていたスープも全て飲み干してしまう。




「ん、やっぱり…泣きそうなくらいあたたかいです。」




「ねぇ花子さん、貴女もしや舌がおかしな事になってるのではないですか?一度病院へ…」




やはりおかしな言葉を続ける最愛が心配になってしまい、思わず携帯を取りだせば
どうしてだか花子さんはクスクスと幸せそうに微笑む。




「花子さん?」




「レイジさんって、私にご飯作ってくれる時…いっつも私の顔思い浮かべてるでしょう?」




彼女の突然の言葉に自身の顔が熱を帯びるのが分かる。
そんなの私は一言も言った覚えがないのにどうして貴女はさらりと言い当ててしまうのか。




「私がどんな顔して食べるかなーとか、私がどんな声で喜ぶのかなーとか沢山考えてくれてますよね。」



「は……、な……あの、」



「だってレイジさんの作ってくれるごはん、」




もはや全て図星で顔どころか全身が熱い。
確かにいつだって貴女は私の作る料理をとても美味しそうに食べてくださるから
いつだってその顔をもっと見たくてどうすればいいかだとか、どうしたらもっと喜んでくださるかとか沢山考えて作っている。
でもどうして…どうして貴女がそんな事をご存じなのですか花子さん。



酷く動揺していれば不意に塞がれた唇。
柔らかな感触はそのままだけれど、ふわりと先程まで彼女が食べていた冷やし中華の味がする。
ゆっくりと離されれば目の前に広がるのは花子さんのとても嬉しそうな、幸せそうな笑顔。




「全部ぜーんぶ、私への愛情が籠ってて冷たい料理も全部あたたかくてだいすきなんです。」




「………ああもう、分かりましたお次のリクエストをご自由に。」




そんな最終兵器のような言葉を言われてしまえばもはやひとたまりもない。
私はその場にへなへなと突っ伏して赤い顔を隠しながら今後の参考にと彼女の食べたいものを受け付けてしまう。




全く…貴女はどこまでも私を躍らせるのがお上手だ。





「もぐもぐもぐもぐ」



「…………はぁ。」




「?おい、シチサンメガネ。今日は花子が料理に夢中でも怒んねぇんだな。」




後日、少しばかり変わった私と花子さんの光景を見てアヤトが首を傾げたので
私は内心やはり自作の料理に妬きながらも、今までの様に彼女に手を出すことはせず困ったように弟に微笑んでひとつ、惚気の単語を口にする。





「ええ、今花子さんは私の愛を食べておりますから。」



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