初絵文字


「ねぇルキ君、私はいつから無神陸上部隊に入隊しちゃったのかな?」



「…何の話だ。」



ビキリと青筋を浮かべながらも愛しのルキ君に詰めよれば
彼は意味が分からないといった具合に首を傾げるから
遂に我慢の限界を迎えたので自身の携帯のメール受信画面をずいっと彼の前に差し出して盛大に喚き散らす。



「ルキ君の返信よ!返信!!何よ!!【了解】とか【善処する】とか【不可能】とか!!!彼女に対するメールじゃない!!!」



「余計なものがなくてシンプルで的確じゃないか。素晴らしいメール内容だと自負している。」



「自惚れは時に足元をすくわれるよルキ君。ていうか今までこの内容で我慢してた私が褒められるべき。」



差し出された画面を見つめて何処か誇らしげにそんな事言っちゃうルキ君に大きな溜息。
なんだよもう…いつだって私が愛情いっぱいのメールを送っても返ってくるのは先程のようなものばかりだ。


あのね、仮にも最愛である私とのメールなんだよ?なのにこの簡潔過ぎるというかもはや電報クラスの返信ばかりだと流石に悲しいじゃないか。



「ちょっとはもっと文章打ってよ…あと絵文字とかさぁ。弟君達はかわいいの送ってくれるのに。」



「………そう、なのか?」



呆れかえってそう言えばルキ君が更に首を傾げちゃったから
愛想のかけらも無いというか感情もかけらも無いメールを送っちゃうこの無慈悲参謀君に
愛嬌たっぷりのメール達を見せてあげる。



「ホラホラ、コウ君とか絵文字どころかデコメだよ。時々画面が煩いよ?」




「ほう…?画面がどピンクだが…というか文字も絵文字も動きすぎて本文が入ってこないが。花子はこういうのを俺に打てと?」




次男君のメールを見せてあげるとじっと見てたルキ君はパチパチと強めに瞬きしてしまう。
うん、私はコウ君とルキ君が足して二で割れば丁度いいんじゃないかって思ってる。




「ユーマ君はねぇ、絵文字は使わないんだけれど顔文字可愛い。」



「おお、ユーマの感情がひしひしと伝わってくるな。」




三男君は確か絵文字とか女々しいからヤだとか言ってたなぁなんて思い返しつつも同じく画面を見せてあげる。
本文の所々に彼のその時の感情であろう顔文字が使われていて実はユーマ君からメールを貰うとちょっとほっこりしちゃうのである。
ユーマ君、図体デカいし顔怖い癖にこういうトコかわいいから反則だよね。




「そんでねぇ、アズサ君はね絵文字がお気に入り。」



「…………………おい花子これ解読できるのか?」



画面をじっと見つめたルキ君が暫く無言の後そう問うてくるから私は笑顔のままふるふると首を横に振る。
だって仕方ない。アズサ君は絵文字が大好き。
故にメールは全て、オール100%絵文字のみで送られてきてしまうのだ。



「えっとね、アズサ君からメール来たら必ず電話するようにしてる。」




「…だろうな。」




二人で溜息をついて早速本題に戻ろうと、再びルキ君がくれたメールを見せてあげる。
すると先程の弟達とのメールと比べて自身のメールが以下に愛想がないものなのかと確信したらしく、少しばかり難しい顔。
…ルキ君本気で今までのメールが最高だって思ってたんだ。




「しかし、俺が絵文字や顔文字など…らしくない気がするが。」



「でもでもやっぱりちょっとは欲しいよね。みんなこうして自分の気持ちとか表してるんだしさ。ルキ君もしてよ。」



「はぁ…気が向いたらな。」




小さく溜息をつかれてそのまま頭を撫でられてしまう。
あ、これは話を流してしまうパターンだ。
折角愛しのルキ君から可愛いメール欲しかったのになぁ…
しかし私も案外物わかりがいいみたいで、「絶対送って!」なんて我儘が言えないまま数回日付が変わってしまった。





「あ、そうだルキ君にメールしなきゃ。」



何気にぽちぽちと内容を打って最後に“ルキ君大好き!”って余計な文章を打って送信。
暫くして返って来た彼のメールに大きくため息をついた。




「…また“了解”だけだよもうルキくーんせめて“俺も愛してる”とか打ってよばかー。」




もう本文の返答に期待はしてなかったが私の愛の文章を華麗にスルーはちょっと泣いちゃいますよ花子ちゃん。
ぐすんと大袈裟に喚いていれば間を開けずにルキ君から二通目のメール。
不意に本文を開けた瞬間私の顔面はびっくりするくらい赤くなってしまう。



そして携帯を放り投げ、勢いよく立ち上がり、愛想の加減を知らないお馬鹿参謀の元へと駆けだした。




「るるるるるルキ君!ルキ君!!!ああいうメール!!!ああいうメールは私以外にしちゃダメ!!!ぜぇぇったい駄目だからね!!!?」




私の大きな声が部屋中に響き渡るけれどそんなの気にしてられない。
だってあんなの…あんなの他の誰かに送っちゃったらみんなルキ君にメロメロになっちゃうし逆巻さんが見ちゃったらみんないろんなもの口から出ちゃう!!!




放り投げられてポツンと置かれた携帯の画面には先程送られてきた愛しのルキ君からのメール。
そこには先程の私の愛の告白の返事が書かれていた。




“俺も”の後に彼なりに考え抜いて初めて付けたハートマークの絵文字がひとつ。




絵文字一つでこれほどまで動揺させてくる無神ルキという男。
本当に侮れないって思う。



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