燃えて、灰になれ


例えばこの暖かさと冷たさがまじりあって
ぬるま湯のように心地いい感触がなくなったとしたら




貴方はそれでも私を求めてくれるのでしょうか。




「ねぇ、シュウは私とこうして触れ合うの好きよね。」



「ん?ああ…そうかもな。」




互いにベッドに横になりながらいつもの様に私の指を絡め取って心地よさそうに目を細める彼に問えば
気付かなかったというような…意外そうな顔でそんな台詞。
ああ、無意識だったのか。




「シュウはいつも寒い寒いって言ってるよね。」



「花子、どうした。今日のあんたなんか変…」




ぽろりと零した言葉にシュウが絡め合う指先にぐっと力を込める。
そして先程まで心地よさそうだった瞳はすぐさま心配そうな、私の様子を伺うような色に変わってしまった。
嗚呼、私はこんなにもシュウに愛されているのに、どうしてこんなにも臆病なんだろう。
どうして愛してくれてる彼の愛を疑うのだろう。



「シュウが私を求めてるのって…私が暖かいからなのかな、って」



「は?」




目を伏せて、震える声で紡ぐ言葉に彼は間の抜けた声を発してしまう。
ずっと気にしてた。
私もシュウも互いに好きで愛して求めてる。
でも、シュウはいつだって私をこの大きな腕に抱いて指先を絡めて「あたたかい」って嬉しそうに呟く。
それってこうして体温のある私だから好きなのかなって…



もし、私がヴァンパイアになったら私の価値はなくなってしまうんじゃないかって。



いつだってこうして彼と深く深く交わって繋がっていれば覚醒だってそう遠くない未来訪れる。
別に人間を捨てることが怖い訳ではない。
私が怖いのは人間を捨てて、その後彼に捨てられてしまうのではないかと言う事だ。




「シュウは、冷たくなった…体温のなくなった私は…いらない?」




「はぁ………花子」



怖くて怖くて今まで言いだせなかった私の本音。
だってそうでしょう?
貴方が好きで、貴方を愛してるから…共に永遠を生きたいのに
そんな貴方に捨てられるのならばこのまま二度と交わらず、何処か遠くで貴方を想い続けて暖かい私のまま朽ちた方がいいのかもしれないと考えてしまう。
私はずっと貴方が好きな私で在りたいの。




そんな事をぐるぐると考えていれば不意に塞がれる唇。
脈絡のない突然の愛情表現に私は何度もパチパチと瞬きをするばかりだ。
するとシュウはむすっと不機嫌な顔をしてコツンと私の額と自身の額をくっつけてしまった。
嗚呼、今シュウの顔がとても近い…




「花子って馬鹿。ホント馬鹿。」



「シュウ?」




「確かに今の花子は物理的に暖かいから好き。でもさ、俺があんたに求めてんのはココだから。」




絡められていた指先が名残惜しげに離れてとん、と私の胸元を突く。
意味が分からず首を傾げればシュウは困ったように微笑んで「やっぱり花子は馬鹿だ」なんて言ってしまう。




「花子が傍に居るだけで…俺を好きでいてくれるだけで俺のココは馬鹿みたい暖かくなる。いや…熱くなる。」



「しゅ、う…」



「好きだよ花子…あんたがくれるこの暖かすぎる愛情が俺は何よりも大好きだ。」




じわり、涙が視界をゆらゆらと揺らす。
嗚呼、シュウがいつも暖かいというのは体温だけではなかったのか…
自身から縋るように彼に抱き付けばその冷たい掌が優しく私の背中を撫であげる。
嗚呼、本当だ…シュウの手も冷たいはずなのに私の胸は、心はとてもあたたかい。




「シュウ、シュウ…すき、だいすき。シュウも…あたたかい。」



「ああ、当たり前だ。俺は花子を愛してるから…」



そっと髪に唇を落とされればくすぐったくて身を捩るけれど
彼はちっともやめてくれはしない。
きっとこうして体温がなくなったとしても心を温めることは簡単だって、彼自身で証明してくれてるんだろう。



だって私は今、暖かどころじゃない。
シュウの愛情で熱いくらい。




「ねぇシュウ。…私が吸血鬼になっても捨てない?」




「馬鹿…捨てる訳ないだろ。…こんなに俺のココ、熱くさせてくれる馬鹿手放せない。」




抱き付いてる私の手をとってそっと自身の胸板へと誘導させて笑うシュウはとても嬉しそう。
そんな彼の笑顔に私の表情も不安なものからふりゃりと力を抜いて彼と一緒の幸せの笑顔を作る。




「ねぇ、シュウ…私、あたたかい?」



「ん、あたたかい。…花子の愛でもう寒くない。」




きっと彼の今の台詞は私の体温の事を話してるわけではない。
なんだ、私はどうやら人間でも吸血鬼でも彼を寒がらせることはないみたい。




「シュウ…もっと。もっと繋がりたい。交わりたい。貴方と一緒になりたい。」



「くく…不安を取り除かれて吹っ切れたの?……いいよ、あんたを俺と一緒にしてやる。」




少し強引に、深く塞がれた唇はこれから大人の時間というサイン。
嗚呼、きっと今夜は彼の手加減なしの愛情が私を襲うんだと思うと胸が高鳴る。



「ねぇシュウ…私も、一緒。…シュウの愛であつい。」



「花子、なめるな。俺の愛はこんなもんじゃない。…溺れろ、燃えろ、灰になれ。」



再び絡められた指先。
嗚呼、きっとこのぬるま湯のような感覚とも近いうちにサヨナラなんだ。
けれど淋しくない。
だってきっと私もシュウも互いの愛情でこころはずっと暖かいまま…いや熱いままだ。




「シュウの愛で私を燃やし尽くしてよ。」



「花子も、俺を燃やして?…きっとアンタの炎は怖くない。」




互いに求めてそんな台詞。
嗚呼、ヴァンパイアになる前に何度か、貴方の愛でしんでしまいそう…



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