未来の僕、過去の俺


「………ええっと、お姉さん。誰?」



「私は今すぐにカールハインツ様に現金を渡したい気分です。」




目の前の戸惑い気味の少年の質問にぶっ飛んだ答えを言ってしまったが仕方ない。
だってホントに今心からそう思っているのだもの。


「嗚呼!幼い日の全く擦れていないシュウさんを一度でいいから見てみたいと喚いて良かった!!王様の力が偉大過ぎてツラい!!」



「わわわっ、ちょっと…えっと、」



ぎゅうぎゅうと目の前のシュウさんをこれでもかと言わんばかりに強く抱き締めれば
普段なら「なぁに?俺に発情しちゃったの?」とか酷い事言っちゃうくせに今は戸惑いながらも私の背中に一生懸命手を伸ばして自分からも抱き締めてくれる。
だって今シュウさんは王様の不思議なご都合主義的パワーで幼少のシュウさんなのだから!!
あ、違った!!今はシュウ君だ!!



「シュウさん!私は花子って言うの!!未来のシュウさんの最愛なんだよ!!!彼女だよ!!」



「えぇ!?こんなに可愛いお姉さんが僕の…!?」



「…ねぇシュウさんもう一回。もう一回言って今度はバッチリ録音するからホントお願いします。」



19歳のシュウさんなら絶対言ってくれない台詞を聞いてしまい思わずボイスレコーダー片手に真顔で詰めよれば
幼いシュウさんは困ったように笑って「お姉さんへんなの」って笑う。


え、何この天使。シュウさん過去に色々辛いことがあったのは知ってるけどこんな可愛かったのにあそこまでドSにひん曲がらなくても良かったんじゃないか。



「ああ、可愛い…シュウさんホントに可愛いどうしたの?いやもうどうしてほしいの可愛すぎて花子ちゃん死んじゃいそうだよ」


「全く…お姉さん…じゃなかった。花子さんは大袈裟だなぁ。ああ、でも…」




ぎゅうぎゅうとさっきよりもっともっともーっと強く抱き締めてれば
私の腕の中でシュウさんは苦笑してぐいっと私との距離を開ける。
どうしたのだろうって思えば彼はいたずらっ子の様に無邪気に微笑んだ。



「花子さんが本当に好きなのは今の僕じゃなくて未来の僕だものね。」



「シュウさ、」



「羨ましいなぁ…未来の僕はこんなに可愛い人に愛されてるんだ。…ちょっと嫉妬しちゃう。」



ちゅっと幼い唇が私の頬に押し当てられて驚きの表情で彼を見つめると
当たり前だが青年の彼に面影のある笑顔で思わずどきりと胸が高鳴った。
それと同時に急に元の彼に会いたくなってじわりと涙を浮かべてしまう。



だってシュウさんが元のシュウさんにいつもどるかだなんてわかんないんだもの。



「う…うぅ…シュウさん…うぇ、」



「ああ、泣いちゃった。ええと、こんな時未来の僕はどうしてあげてた?教えて花子さん。」



「う…ぎゅってして…頭なでてくれて…ぶっさいくな泣き顔晒すなうざいって言ってくれるぅぅぅ」



「ふふっ何ソレ…未来の僕優しいのか酷いのかわかんないね。」



嗚咽交じりの言葉をそのまま一生懸命実行してくれる小さなシュウさんは本当に優しくて
そんな彼の優しさに私の涙腺は更に崩壊を加速させてしまう。
うう、可愛くて小さなシュウさんも大好きだけどやっぱり私は格好良くて大きなシュウさんが大好き。



「シュウさ…シュウさん…うえええええん」



「うん、うん…大丈夫だよ花子さん。きっと直ぐに元に戻るよ泣かないで?」



ボロボロと零れ落ちる涙。
いつもなら唇で掬ってくれるけれど今は小さな指が一生懸命不器用に拭ってくれる。
ああ、こういう所もやっぱり未来と過去では違うのか。



「シュウしゃ…あいたい…あいたいよぅ」



「花子さんはそんなに僕の事が好きなの?」



「うん、すき…だいすき…シュウさんだいすき」



「………へー?俺は愛してるんだけど?」




…………




ん?




幼いシュウさんの問いかけに必死に答えれば返って来たのは先程の声変わりしてない高い声ではなくて
甘くて低い聞き覚えのあり過ぎる声色だったので思わず体がビシリと固まってしまう。
あ、あれ?そう言えばさっきまで私を抱き締めていた身体がいつも通り大きい気がしますがこれはえっと気の所為だと思いたい。



ギギギと恐る恐る上を向けばそこにいたのは恋焦がれてた最愛の顔。
すっごく意地悪そうに笑ってるのでもはや嫌な予感しかしない。



「ええとシュウさんこれはあのその違うんです。」



「何が違うんだ?俺に飽きたからってガキの俺と浮気とかいい度胸だな花子、ん?」



「ややややややた、たまには趣向を変えてみるのも一興かと思いましてぇぇぇ」



さっきまで会いたいって本気で思って淋しいって泣いていたけれど
もはや今は過去の幼いシュウさんホント帰ってきてくださいお願いしますって思ってる。
だってシュウさん顔笑顔だけどめちゃめちゃ青筋立ててるんだよね!!



「ごめんなさいごめんなさいシュウさん幼いシュウさんホント可愛くて優しかったです………あ、」



「………ふーん?俺はこれでも花子には滅茶苦茶甘くしてやってたつもりだったけど…まだ足りないのか。そうか」




ひょいっとそのまま抱え上げられてしまってスタスタとベッドへ向かってしまうので
顔面蒼白の私は腕の中で大暴れするけれどがっちりと押さえつけられてしまって身動きが出来ない。
ヤバい!これはシュウさんの愛を体に教え込まれる的なパターンだ!!


ぽーいとシーツの海に放り出されて固まってればギシリと何の躊躇いなくシュウさんが私に覆いかぶさってしまう。
どうしようって思ってればさっき幼いシュウさんがしてくれたみたいに優しく音を立てて頬にキスされた。
どうしてだかさっきと違ってそれはとても甘く感じる。



「ったく…まさか自分に嫉妬する日が来るとは思わなかった。」



「え、シュウさんヤキモチですか!?」



「そうだな、どっかの誰かさんがガキの俺にメロメロだから…らしくないけどすっごくイラついてる。」




むすっと不機嫌顔のシュウさんにもう今すぐにでも襲われそうな体勢をすっかり忘れて彼の下でへにゃへにゃと顔を緩ませてしまう。
小さいシュウさんは私に愛されてる未来のシュウさんが羨ましいと言っていたけれど
どうやら私もこのシュウさんにめちゃめちゃ愛されているみたい。



「シュウさん、シュウさん、大好きです!!」



「それはどっちの俺?」



「どっちも大好きだけれどやっぱりこっち!!」



こんな事言っちゃうと今度は過去のシュウさんが妬いちゃうかなって思ったけれど大丈夫。
だって過去の彼も現在の彼に繋がっているのだから。



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