言葉に、ね?
「あーあーあー悲しい…悲しいなぁぁぁ。俺はすごく悲しいよ花子ちゃん。」
「えっと…何が悲しいのかなぁ?コウ君。」
「…………ああー!悲しい!!ほんっと悲しい!!!!」
さっきから私のベッドの上でごろんと転がりながら大袈裟にそう言っちゃう最愛の真意が掴めずに素直に問えば
じとりと暫く無言で睨まれた後、更にその大袈裟な台詞はボリュームをあげてしまった。
うう…今までのコウ君の態度からその悲しい原因が私って言うのは分かったけど、肝心の何をもって悲しいと言っているのかが分からない。
けれど忙し過ぎる彼の折角の休みをこんな悲しいであろう気分で終わらせたくなくて
ぽつりぽつりと心当たりを述べてみる。
「ええと、最近私が仕事で忙しくてすれ違いだったから?」
「………はぁ。」
あ、違ったみたい。
コウ君は小さく溜息をついてその綺麗な瞳を閉じてしまった。
うう、次こそ当てよう。
「えっとええと…スーパーイケメンのコウ君の彼女が私みたいな不細工だら?」
「…何ソレ。俺の大好きな花子ちゃん貶すっていい度胸過ぎるよねぶっとばされたいの?」
「ごめんなさい!!」
私の失言にビシリとその綺麗な顔に青筋を立てながらこちらを睨んできてしまったので即座に謝罪したけれど…
ええと、私の事大好きなのに私をぶっとばすって矛盾してる気が…
それにしても見当たらない。
心当たりが全く見当たらない。
どうしてコウ君は私を見てさっきから悲しいって言ってるんだろ…
うんうんと頭を抱えながら悩んでれば遂に長い溜息の後にコウ君が呆れながら正解を教えてくれた。
「花子ちゃんが俺に甘えてきてくれないから淋しいのー!!」
「え」
「だって花子ちゃん、ずーっと疲れたとかしんどいとか甘えたいって思ってるのに俺に遠慮しまくってるんだもん。恋人同士なのにひどいよっ!!」
「わわわっ!こ、コウ君タイムタイム!!ごめんなさい!!!」
ぽいぽいぽーい!とベッドの上の枕やぬいぐるみ達をヒステリックにこちらに投げつけちゃうコウ君に対して慌ててごめんなさいを叫べば
ようやくふわふわの弾丸攻撃が終わって、恐る恐る彼を見やってみる。
するとすっごく不機嫌にぷくーっと頬を膨らませて両手を広げてる可愛すぎるアイドルがじっとこちらを見つめていた。
「ええと、コウ君…」
「ホラ!変な遠慮しないで、花子ちゃんがしたい事して。」
「う…うう〜」
これ以上遠慮なんてしてしまっても私の考えが読めるコウ君には無駄だって思い
逆にここで拒否とかしちゃったらそれこそ彼の逆鱗に触れてしまうって考えておずおずとその広げられた腕の中へと納まる。
「それで?これからは?」
「ええと…ぎゅって…してほしいなぁ〜…なんて…」
「はいぎゅうううう!!!」
コウ君の広げられたままの腕に抱き締められたくて小さく呟けば待ってましたと言わんばかりに
少し苦しいくらいに強く抱き締められてしまって思わず息が詰まってしまった。
コウ君にちょっと力緩めて欲しいって言おうと上を向けば心底嬉しそうな彼の顔。
「後は?後は俺にどうしてほしい?」
「…えっと、ええと…頭…なでなで…って、それからキスも…」
「よーし!今夜はたっくさん可愛がってあげる!!」
更にどうしてほしいか尋ねられてしまい、まずはこの強い力を緩めてくれと言いたかったのに
どうしてだか私の口から出たのは更に上乗せされた彼への甘えだった。
けれどそんな言葉に気を良くしたコウ君はとっても明るい声で恥ずかしい宣言の後、私と一緒にベッドに倒れ込んで
そのままなでなでとキスの嵐を開始してしまったのだ。
「ホラ、花子ちゃん…まだしてほしい事、あるよね?言って?」
じっと瞳を見つめられてそんな事言われればもはや否定の言葉なんて出てこなくて
只々心のうちの感情を言葉に乗せて彼にぶつけるだけだ。
ああ、どうしよう…今日の私はとっても甘えたさんだなぁ。
「えっとね…このまま、ぎゅってしたまま一緒に寝たい…」
「よくできました。イイコだね…俺のエム猫ちゃん。」
ちゅっと触れるだけのキスを唇に落とされて
それがくすぐったくて嬉しくて、思わず顔を緩めればコウ君もとても優しく微笑んでくれる。
ああ、なんだかとてもしあわせだなぁ…
優しく頬や頭を撫でられながら、コウ君は私の考えが読めるのにどうしてわざわざこうやって言わせるような真似をしたんだろうって考える。
すると再び私を見つめていたコウ君が意地悪に微笑んでとっても素敵な言葉を紡いでくれた。
「花子ちゃんから言って欲しかったんだ。願うだけじゃなくてちゃぁんと相手に…俺に伝えて欲しかったんだよ?」
“心も大事だけれど、言葉だってすごく重要なんだ”
耳元でそう囁かれてぐっと胸が熱くなる。
嗚呼、そうか…そうだね…
願うだけじゃ…想うだけじゃ何も変わらない。
どうしてほしいか、何がしたいかはちゃんと自身で言葉にして主張しなくちゃ。
「コウ君、コウ君…だいすき、愛してる。…だから今日は沢山甘えたいよ。」
「……………花子ちゃんそれは反則です。」
彼の言う通り早速自身の気持ちをストレートに伝えてみれば、コウ君の顔がぼふんと赤くなっちゃってくすりと笑ってしまった。
うん、気持ちを言葉にするのは
案外悪くないかもしれない。
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