愛か欲か


心地よい疲労感の元、目をゆるりと開いた。
目の前には当然だが先程まで抱き合っていた最愛が幸せそうに眠ってた。




じっと暫く見つめてても全然目ぇ覚まさねぇコイツの…花子の唇をむにむにと弄んでみる。
すると起きてないはずなのに嬉しそうにそのまま笑うからじわりと湧き上がる愛おしさ。
それと同時にもう一度自身の下で啼かせてみたいと言う欲望。



「花子、」



名前を呼んでもこいつは呑気に夢の中。
密かに身の危険が迫ってるって言うのにアホ面さらしたまま相変わらず幸せそうだ。




「どっちなんだろうな。コレ、」



起こさないように頬に触れてゆるゆると撫でながららしくねぇ台詞。
花子が好きだ。
それに変わりはねぇがそれが時折不安になるときがこうしてやってくる。



“ユーマ君の事が大好きだよ”



何度も何度も飽きねぇなって位紡がれるそんな言葉に
不器用で馬鹿な俺が応える方法ってのがこれくらいで…
時折自身の下で喘ぐ花子の姿に煽られ過ぎて加減が出来なくなった時に見せる快楽ではなくて苦痛に歪む彼女の顔にいつだって少しばかりの罪悪感を覚えてんのは内緒の話ってやつだ。



本当に花子を愛してるって言うなら加減してやれんだろ、クソ



なんて、いつだって反省するのは彼女の意識がトんだ後で…
いつかこんな抱き方しかできねぇ俺に愛想をつかすんじゃねぇかって不安で仕方ねぇ。



「だってこれしか俺は知らねぇんだ。」



むにむにと頬を伸ばしてもだらしない顔はそのままで
チラリとシーツの間から見える胸元に胸が高鳴る。



俺は馬鹿だから自身の愛情の表現方法をこれしか知りえない。
これ以上の方法なんて分かんねぇ。



でもホントにこれが一番の方法なのかよって、思う。
只花子を穢したい、蹂躙したいって欲望のタテマエに『愛情』ってキレイな言葉を使ってねぇか?っていつも思うんだ。
花子をホントに思ってんなら只こうして抱き締めて触れるだけのキスでも愛情は表現できるんじゃねぇのかって…



「なぁ花子、教えてくれよ…俺はお前に愛と欲、どっちを見てるんだ。」




こんな難しい事、今まで考えたことなかった。
花子を好きになってから生まれて初めてこんな訳分かんねぇ事で悩んでる。



「ん……ゆーまくん?」



「お、起きたか。」



「へへ…ゆーまくん…ゆーまくんだ…えへへ」



ゆったりと開かれた瞳に俺が映って、じわりとまた愛情が湧き上がる。
けれどその後の幸せそうな彼女の声と俺の手に擦り寄ってくる仕草に欲望は上乗せで湧いて爆発寸前だ。



「ああ、クソ…どっちなんだ、ホント。」



「?ユーマ君?」



「なんでもねぇ。…起き抜けでワリィが…いいか?」




小さく舌打ちをしてぼそりと呟かれた言葉にきょとんと首を傾げる彼女の首筋に吸い付いて愛させろと懇願すれば急上昇しちまうその体に問答無用で噛み付いた。



ああ、もしかして…やっぱり愛より欲の方が強いのか…なんて
そんなひでぇ事を考えてると首に回された腕に力が籠って下で花子は優しく微笑んだ。



「ユーマ君、愛してくれてありがとう。…だいすき。」



「………知ってんよ。」



その言葉に胸が締め付けられてぐっと泣くのをこらえる。
なんか俺の悩みとか全部見透かされてるみてぇで悔しい。
だって今そんな事言うとか…



俺のこの気持ちは単なる欲望だけじゃなくて愛だってきちんとあるって言ってるみてぇじゃねぇか。




「花子、花子…好きだ。…愛してる。」



俺は頭ワリィからすぐにこの気持ちも行動も愛か欲かは判別できねぇ。
でも…それでも花子がそう言うなら



どちらに転んだとしてもひと握り位でも花子への愛はあるんだって…
そう、思いたい。



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