トクベツな日


今日と言う日がどんな日かなんて人それぞれ。
何もないただの日常の一つだって奴も居れば
一緒になった記念日や、逆に誰かと別れを告げた日なやつもいるだろう…
勿論大切な誰かが死んだ日だってありうる。




ただ、それが俺に取って今日という日が酷くトクベツで愛おしいだけ。




「なぁ花子。」



「んー?」




後ろからぎゅっと抱き締めても最愛の視線はノートパソコンのものだ。
何をしてるかは分からないけれど彼女はずっと液晶画面に釘付け。
時折視線を外すのは俺の大嫌いな甘いものを口にする時だけ…



「おい花子。こっち。」



「だーめ。今いいとこなんだから。」



カタカタとキーボードを打つ指が早まるのを見て眉間に皺を寄せる。
何がいいとこだよ馬鹿。
そんなの彼氏の俺を放っておいてまでするような事じゃないだろ。
と言うか全てにおいて俺を優先しろって言うんだ。



不満が限界まで積もって抱き締める腕に力を込め、そのまま後ろに倒れてやった。
強制的にノートパソコンと引き離されてしまった花子はとても不満気に溜息をつく。



「なぁに?シュウ。今日は構ってチャンな日なの?」



もぞもぞと腕の中で動いて向かい合いの体勢を取れば俺の上で困ったように笑って頬を撫でてくれる感触が心地よくてうつらと睡魔が湧き上がるけれど今日ばかりはここで我慢だ。


撫でる手を捕まえてそっとそのまま唇を落とした。
その肌が俺に愛される為には少しばかり荒れすぎているのは彼女が仕事を頑張っている証拠。



だから今日くらいはこの手も少しばかり隈が浮かんでいるその顔も…全部全部無条件に愛したい。



「今日、花子の誕生日だろ?」



「………あれ?そうだっけ?」



……こいつ、あんだけ昨日まで誕生日は絶対祝ってくれとか煩かったのにすっかり忘れてる。
そう言えば今日も遅くまで仕事だったな。
忙し過ぎて忘れてたって?ったく…ホント、花子は馬鹿。



「花子が仕事行ってる間にケーキも食事も用意したんだけど……いらない?」



「………後でレイジ君にお礼の電話するね?」



「…………。」



わざとらしく拗ねたような口調で言っても俺の上の花子はまた困ったように笑ってそんな台詞だ。
くそう。全部見抜かれた。
だって仕方ない。いつだってこういうのはレイジがしてきたんだから今日だけ突然俺がケーキや食事を作った所で大したものが出来る訳がないのだ。




「食べるの、食べないの。どっち。」



「食べるー。」



何だか恥ずかしくなって不機嫌に選択肢をくれてやると嬉しそうに笑いながら俺の腕から抜け出して食卓へ向かう彼女の後を歩く。


心なしか花子の足取りが軽いのはきっと気の所為じゃない。


そして並べられた沢山の料理を見つめて数秒固まっていた彼女がぷるぷると震えだして真っ先に手に取ったものに俺の顔はぼふんと赤くなった。




「……何ですぐ見つけちゃうの馬鹿花子。」



「だ、だってこれだけあからさまに…ぶふっ」



「煩い。」



必死に笑いを堪えながらも大切に持たれたそれをチラリと見つめて顔だけじゃなくて体も熱くなる。
これ…レイジの料理に混じって気付かないまま食べて欲しかったんだけど。
………恥ずかしいから。




花子がさっきから大事そうに持ってるのは少しばかり不格好なシュークリームひとつ。




前からずっと「シュウの頭シュークリームみたいにふわふわで可愛いね」とかふざけた事言ってたから
…なんか、うん。
誕生日に食べてもらいたいとからしくなさ過ぎる事を考えてこれだけは長い時間をかけて俺が作ったものだ。
…それを沢山ある料理の中から真っ先に見つけてしまうって、何事?



「ふふ…じゃぁ早速この不格好シュークリーム君から頂こうかな。」



「…普通デザートは最後じゃないの?」



「え?これはデザートじゃないでしょ?」



ぱくりと早速手作りシュークリームを口にしてしまった彼女に疑問符。
あれ、人間の食べる順番はこれが最後だった気がするけど。
花子はそんな俺を見つめてもう一度、今度は心底幸せそうに微笑んでそっと背伸びをしたまま俺にキスをした。




「きっとデザートは逆巻シュウだって信じてるよ。」



「…………ばーか」



「誕生日なんだもん。ちゃーんと甘く愛してくれるよね?」



先程の俺の考えもお見通しだったようでふにふにと唇を弄んでくる指先に噛み付いてやりたかったが
今日は誕生日だから我慢してやる。
…明日になったら嫌って程吸ってやるから覚えとけよ。



「ではでは、デザートに向けてイタダキマス。」



「………味の保証はしないからな。」



「レイジ君に失礼すぎる!!」



ぱちんと間抜けな音と共にきちんと食事開始の合図をした彼女にそう言えば
言葉とは裏腹に大きな声をあげて笑うからそっちの方がレイジに失礼なんじゃないかって思うけど
これもきっと俺に祝われて嬉しいから笑顔なんだと思うと何も言えない。
その代りさっきから俺の思ってる事をズバズバ言ってしまうデリカシーの欠片もない唇を不意打ちで塞いで意地悪に笑って反撃をひとつ。




「まぁデザートは極上だから…安心して?」




その言葉に先程まで優位だった彼女の顔面はぼふんと赤くなり
一矢報いたと心の中でガッツボーズ。


いつまでもあんたのペースだとは、思うなよ?



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