退職のススメ


ああ、怠い眠い疲れたなぁ…
今の言葉は大体私の最愛が使っているものだけれど…



「………ん?」



重すぎる瞼をゆるゆると開けば一面の肌色。
うん、ちょっぴり白いのは彼に体温がないからだろう。
真夏の夜にいつもの如く乱れて愛し合って求めあい、そのまま心地よい疲労感の元、目を閉じてしまっていた。
嗚呼、今何時だろう。



もぞもぞと私を抱き締めている腕の中で動いて時計を確認しようとすれば「ん」と短い声と眉間に皺。
私と同じくゆるゆると開かれたその瞳はいつもの如くとても眠そうだ。



「起こしちゃったね。ごめんなさい、シュウ」



「……ん、ホント。折角花子との厭らしい夢見てたのに台無し。」



ちゅっと不機嫌ながらもおはようのキスをしてくれる彼に苦笑してしまう。
あれだけ昨日シたのに夢の中でも私達は繋がっていたようで…



「んー…今何時かな?今日確か私、仕事なんだよね。」



「はぁ…、まだ出社には2時間ある。」



シュウに抱き締められているから時計が見れなくて、彼に確認するように言えば溜息交じりに猶予時間をお知らせしてくれる。
そして時計を確認してもらった代償にチクリと首筋が痛んだ。



「もう。こんな所にキスマークとか…隠せないじゃない。」



「何で隠す必要があるんだ。俺の、って証だろ?」



「んっ、」



つつつ、と自身の残した紅い痕をきわどくなぞるから甘い声は我慢する事無く漏れてしまう。
嗚呼、私の体はまだ彼に貫かれた余韻の中だったのか。




「なぁ、花子…」



「なぁに?」



「このままもう一回イってみる?幸い俺達…まだ生まれたままの姿だし。」



可愛らしい音を立てながら全身にキスを始めてしまったシュウはとても意地悪に微笑んでそんな台詞を吐くので
私は後二時間の間に何度この手と唇と熱で限界を超えさせられるのだと思うと期待と歓喜で無意識に瞳を潤ませてしまう。



「その目…合意って事だな」




「あ、」



ガバリとあっさり彼に覆いかぶさられてしまい、はじまりの合図。
寝起きからこんなにシュウが動くなんて珍しい。
これも彼が見た夢の所為なのだろうか…




「ねぇシュウ、二時間後出社なんだから手加減だけはしてよね。」



「生憎花子を愛するのに加減は知らないんだ。悪いな。」



「もう…」




二人でシーツの海に溺れて死んじゃうんじゃないかって位朝から激しく抱き合って互いを感じ、微睡の中瞳を再び閉じた。
嗚呼、もう…シュウが私を腕に、部屋に、快楽に閉じ込めてしまうから
きっとそう遠くないうちに引き出しの中の退職届は日の目を見る事になるのだろう。




「ねぇシュウ、こんなに貴方に溺れさせた責任取ってよね。」



「今更だな。早くあの紙切れ会社に出して来いよ?」





彼の言葉が現実になるのはそう遠くない未来の話。



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