向日葵
「ああ…あっつ、」
照りつける太陽
真っ青な青空
辺り一面の黄色い花
どれもこれも俺の世界からは真逆のモノばかりで必然的に溜息が出てしまう。
けれどこの景色は最愛のいた世界では当たり前のモノだ。
「俺、人間じゃなくて良かったかも…」
だってこんな眩しい世界、俺には辛すぎる。
花畑の中心に辿り着いて不意に思い浮かべるのは太陽に向かって顔を上げているこの花達のような彼女の笑顔ばかり。
「……花子、」
明るい陽の光の下で生きて行くべき花子が、暗闇の月の明かり程度しか存在しない世界で生きている俺と共にいることなんてそもそも論外だったって言うのに
それでも互いに覚悟を決めて期限付きの愛を確かめ、求め合った。
…後悔はしていない。
「花子…お前からは沢山のモノを貰った気がする。」
ポタリ
ポタリ
辺り一面青空快晴な筈なのに、俺も頬にだけ暖かい雨が降る。
嗚呼、傘を持ってこれば良かった…
いつからか面倒だと、感情に波風を立てなくなってから全てを忘れていた俺に
沢山の気持ちを思いださせてくれたのは紛れもない花子だ。
喜びも怒りも哀しみも楽しさも…
決して全てがいい感情とは言い切れないけれど、それでも彼女と過ごした数十年は紛れもない俺の宝物だ。
「花子…花子…っどうして俺を置いて逝ってしまったんだ。」
降り注ぐ雨が次第に激しくなる。
嗚呼、分かっていた…こうなる事を覚悟していたはずなのに、
彼女が生きるべきだった世界で叫ぶ俺の声はひたすら嘆きの言葉を紡ぐばかりだ。
ここにやって来たのは彼女を忘れる為ではなく、彼女の生きるべきだった世界を俺は見ておかなければいけないと思ったから
「花子……、」
何度も壊れた玩具の様に彼女の名を呼ぶけれど、
もうこの言葉に返ってくる声も笑顔もない。
色んな感情を俺に思いださせてくれた彼女は
最後の最期まで俺の中からソレを呼び起こさせる。
「…さみしい」
嗚呼、きっとこの“さみしい”が俺の中で眠っていた最後の気持ち…感情なのだろう。
ぐっと花子がくれた気持ちを噛み締めて、眩しい太陽をゆっくりと仰いだ。
さっきこの花達が花子みたいだと思ったけれど、それは間違いだ。
きっと花子はあの遠くで輝く眩しい太陽そのもので、それを届かずとも必死に見上げているこの花達はきっと俺だ。
「花子、眩しいな…」
誰もいない静かな花畑でぽつりと呟くと
太陽が困ったように笑った気が、した。
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