堕ちて


互いに強く求めあって
想いを確かめて、繋がって…
一握りの快楽を共有した後はいつだってこうして貴方の胸元へと擦り寄るのが日課。




「シュウ…、」



「花子はほんと終わったと甘えたになるんだな。」



「………ん、」



今日もいつものように荒くなった息を整えながら
ゆったりと余り力の入らない体に鞭打って静かにその白い胸元へと擦り寄れば
上から嬉しそうな苦笑が響いて瞳を閉じる。




そっと頬を寄せたすぐそばに手を這わせればするりと滑るくらい彼の肌は綺麗。




「シュウの肌…すべすべだね、」



「ん…?そうか?皆こんなもんだろ、」



「………、」




するり、するりと私の指が何度彼の肌を撫でても
それは滑らかに滑り落ちてしまう。



シュウの肌はとても綺麗。
けれどそれはあまりにも綺麗すぎて触れても直ぐに落ちてしまう。
それはまるで、掴んでも指の隙間から落ちてしまう砂のよう…




「…っ、花子…くすぐったい。」



「色も、白い…」



「ああ、俺…体温ないから」




月明かりの下でも分かるくらいの色に声は震えてしまう。
体温がない…彼は生きているようでいてそうではない。




違うのだ。





私とシュウとでは決定的に生きている世界が…違うのだ。




滑らかで掴めない肌。
生気を感じることの無い色…




いつだって抱き合った後に私が擦り寄るのは
遠い存在のシュウを出来る限り近くに感じたいと思うから。




けれど実際にこうして近付いたら余計に自覚してしまう
生きる世界の違い…差…



そしてそれらはどうあがいても埋めることが出来ないのだという現実を叩きつけられてしまいこうして彼の綺麗すぎる胸元へ顔を埋めて気づかれないように涙を流す。




嗚呼、遠い…




どうしてこんなにも遠い人を好きになってしまったのだろう…
好きだから、愛しているからこそ近くに寄り添って生きたいと思うのに現実は残酷で
いくらこうして体を擦り寄らせても根本的に彼の傍に…隣にいることはかなわないのだと思い知らされる。




つらい…つらいなぁ…



「花子、」



酷く悲しい現実を密かに嘆いていれば囁かれた自身の名前。
思わず涙を拭うのを忘れて顔を上げてしまった。
…視界いっぱいに広がるのは意地悪で、どこか穏やかなシュウの笑顔。



「シュウ?」



「はは…ぶっさいくな泣き顔」




低く笑われてそのまま零れていた涙を優しく唇で掬われた。
突然の出来事に思わず声を上げると「またシたくなるからやめろ」と軽く咎められてしまう。



言いつけ通りに声を上げずにされるがまま、全ての涙を掬い取られれば、シュウはそのまま私の唇を自身のそれでそっと数秒、ほんの数秒触れるだけだけれど優しく塞いだ。




「花子、こっちこいよ」



「……、」




ゆっくりと離されて余韻に浸っていればそんな台詞。
困ったように、観念したようにつぶやいたその言葉の意味…貴方分かって言ってるの?



「花子がずっと俺に縋りながら泣いてたのは知ってた。」




「………、」




「あんたから聞きたかったんだけど…“シュウ、遠い”、“寂しいよ”って…」




「………っ」




「でももう限界。これ以上はあんたの涙見るの面倒だから俺が言う。」




そっと手を取られ、生まれたままの姿で互いに見つめあう。
密やかな嘆きが彼にばれていたのだと明かされ、何だか眩暈が起こりそう…
彼の暴露に酷く動揺してしまっていれば、ゆったりと抱き締められてそのまま露わになっていた胸元にプツリと二つの穴が開いた。



「あ……ぅ、」



「ん…んん…っ」



満月の時位しかしてこないその行為。
どうして今こんな事を?と疑問に思う余裕さえも与えられないほど酷く、激しく血を吸い上げられてしまい今度は本当に眩暈を起こしてしまった。
余りにも激しいソレに呼吸は浅くなり、ビクビクと体も痙攣し始めてしまって少し怖い。




「ぅ…しゅ、…あ、」



「………ん、」




ズルリと引き抜かれたそれを朦朧とした意識の中見つめれば真っ赤に染まっていて彼の口元も同じく私の血で濡れていた。
そしてバチリと視線が交わった彼はやはり意地悪に笑うのだ。




「遠くて寂しいのがあんただけだと思うなよ。…ほら、俺のとこまで堕ちてこい」




その言葉と共に再度ねじ込まれた二本の牙にもはや抗うことなどせずに
只、力の入らない腕でそっと彼の頭を包み込んだ。



彼が今までこの行為を滅多にしてこなかったのは
よほど私をそちら側に招き入れたくないからだと思ってた…
けれどそれはどうやら私の思い違いのようで、



「あ、シュウ…もう、…ぅ、」



「ん…まだ…まだだ…俺ははやくあんたをここまで堕としたいんだよ…俺だって、」




もうそろそろ貧血で意識が保てないと、彼に休憩を懇願するけれど
一度スイッチの入ったシュウは止められずに何度も何度も至る所に牙を突き立てられる。



その行為が闇の淵で生きている彼が私の手を「こっちへ、早く」と一生懸命引っ張ってくれているようで酷く嬉しくて愛おしい。




「花子…花子…はやく、はやく…」




急かすようなソレにもう私の体と意識は限界で、
彼の腕の中、ゆっくりと力と意識を手放した。





「俺だって花子と同族じゃないのは寂しいんだ」





堕ちる中、彼のそんな酷く愛おしい言葉が
暖かな声色に乗せられて届いてしまった。




嗚呼、シュウ




寂しいのは私だけじゃなかったの…
ねぇ、私も…私も早く
貴方と同じ綺麗すぎる肌と、生気の感じることが出来ない色に染まりたい…




ぷつりと切れた意識の中、
その想いだけはそっと声にならない声で呟いた。



戻る


ALICE+