特別になりたい


「俺の事が大好きなのに全く告白してこないチキン馬鹿な花子はどこだ」


その言葉に教室内が静まり返る。
そして威圧めいた言葉の主の眉間に次第にしわが増えていく。
私は現在全身汗まみれ。


だって私がそのチキン馬鹿な花子本人だからである。



つかつかと動けない私とは対照的にその不機嫌な私の想い人は足早にこちらに歩みより、数秒もしないうちに目の前に来てしまった。
どういう顔で彼を見ればいいのか分からず、瞳に涙を溜めて下を向く。



「花子」


「は、はい…シュウさん」


「俺の名前知ってるのか、当たり前だな。あんた俺の事大好きだもんな。」


椅子に座って居たのに無理矢理立たされて強制的に視線を合わせられてしまう。
視線の先の彼はやっぱり酷く不機嫌で遂に私のめからぼろぼろと涙が溢れてしまう。


「ご、ごめんなさい…あの、迷惑なんですよね…ごめんなさい…好きになってごめんなさい…」


「…………あんたほんっっとーにサイテーだな。」



私は彼が…シュウさんが大好き。
でも両想いになりたいとかお近づきになりたいとかは恐れ多いから誰にもこの想いは打ち明けずに一人、ぎゅうぎゅうとこの恋心を抱き締めていた。


けれど、どうやら何処かから本人にこの想いが漏れてしまったのだろう、酷い言葉を放った彼の前で更に涙は零れ落ちる。



嗚呼…どうしよう。
今日を最後にこの「すき」さえも取り上げられてしまうのか。



ひっくひっくと嗚咽を漏らすけれど悪いのは私、シュウさんは悪くない。
知らない女に好意を持たれるとか気持ち悪いもの…



けれど彼の行動は意外なもので、ひたすら落ちる私の涙をちゅっと優しく唇で掬い上げてしまった。
瞬間静まり返っていた教室が一気にざわめき始めて、中には女子の黄色い声も混じる。
肝心の私は何が起こったのか理解できずぽかーんである。



「サイテー。花子。ほんとサイテー。」


「え、あ、え?」



ぶすっと未だに不機嫌丸出しの彼はそのまま次にまだ涙を流す瞳に唇を落としてきたのでその瞬間自分が何をされてるのか理解できて、ようやく全身を熱くした。



「俺の気持ちを確かめる前に自己完結して近づいて来ないとか何様だそのしまいこんだ恋心、俺に寄越せ。」



「は?……はぁ!?」



「うるさい」



彼の言葉に思わず大きな声が出てしまい、その大声がお気に召さなかったのか更に顔を歪めてそのまま唇を塞がれてしまったのでもはや声さえ出してもらえない。



あの、今嬉しいとか感激とかそう言う感情が追い付かなくて私、パニックなんですけどシュウさん!



暫くされるがままに唇を塞がれていたけれど、そっと離された彼の顔は未だに不機嫌というか…これは、不満気?



「花子がすき。大好き。だから俺の欲しくてたまんないもの、ここに仕舞うな…馬鹿。」


「…っ!」



ちょん、と綺麗な指が胸をつつくので、もう限界だったけれど更にまっかになってへたり込もうとすればその前に大きな腕が私の体を捕らえてしまう。
そして意地悪に笑う私の事が好きだと言う私の最愛は更に言葉を紡ぐ。



「あ、でもこうして勝手に俺への気持ちしまいこんじゃう花子はだいきらい。…だからこれからはその前に全部気持ち、食べるから宜しく。」



「よ、よ、宜しくお願いします?」



もうちょっと急展開過ぎて頭が追い付かないけれど、どうやら私はこの愛しい人と愛し合う権利を頂いたようで…


取り合えずうまく働かない頭のまま自分からもぎゅっと抱き着いてみるとお返しにめちゃめちゃ痛いくらいこちらも抱き締められたので変な声が出てしまった。


どうしよう…恋人同士になりたいとかお近づきになりたいとか思ってなかったのに、実際こうして愛されると心が馬鹿みたいに舞い上がる。


嗚呼、綺麗事たくさん並べたけれどやっぱり私は大好きなシュウさんの側にいたいし、愛されたいんだ。



ぎゅうぎゅうと苦しいくらい抱き締められながら浅はかで愚かな自分自身に苦笑。


どうしよう、私…
奥底ではシュウさんの一番になりたいって、思ってたみたい。




後日、私の気持ちがどこから漏れたのかシュウさんに問えばレイジさんが「はたから見たらどう見ても両想いなのにイライラする」と伝えてくれたらしい。



…あれ?もしかしなくても私の気持ちは他の人にだだもれだったのだろうか?



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