だいすき>愛してる


「ねぇ花子ちゃん、愛してるよ。んふっ♪」



「…ありがとう。」



僕が愛してるって言っても花子ちゃんは全然嬉しそうな顔をしない。
おかしいなぁ…女の子って好きな人に愛してるって言われたら嬉しいものじゃないの?



「ねぇ花子ちゃん、花子ちゃんは僕の事が嫌いなの?」



「ううん、すきだよ。大好き。本当に愛してる。……だからライト君の“愛してる”が辛いの。」



「え?」




彼女の言葉の意味が分からない。
けれどその酷く傷付いた顔を見ると、どうしてだか胸の辺りがすごく痛くなって思考も全部停止してしまう。
そして気付く全身を伝う嫌な汗。



「な、なんで?女の子って“愛してる”って言葉好きでしょう?」



「私はキライ。」



戸惑いを隠せないまま彼女に問えば、遂にその大きな瞳からポロリと見たくないものが零れ落ちてしまって
もうどうすればいいかわからずその場に立ち尽くす。
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら彼女が紡いだ言葉はやっぱり僕には分からない。



「だってライト君の“愛してる”は何よりも軽いんだもの。」



「花子ちゃ、」



「私はそんな抜け殻の言葉なんていらない」



大きな声をあげてわんわん喚いちゃう花子ちゃん
見たくないソレ…涙はひたすらに僕を責めるように零れ落ちる。
他のビッチちゃんの涙は見てるととても楽しいのにこの涙の意味はどこか違う気がするんだ。




………意味、




あ、花子ちゃんが言いたいのはそういう事なのかなぁ…。




おそるおそる泣き叫ぶ彼女を抱き締める。
それでも泣き止んでくれない花子ちゃんはこうして愚かな僕を咎めているようで酷く顔が歪んでしまう。



「花子ちゃん、“ごめんね”?」



「うぅ…らいとくん…」



短い四文字だったけれど、口にすればピタリと彼女の涙は止まった。
ああやっぱり…花子ちゃんが言いたい事はそう言う事だったんだね。



「ごめんね花子ちゃん、僕の愛してるには心がないんだね。」



「……………ライト君、」



僕の出した結論に彼女は肯定の替わりに名前を呼んでぎゅっと僕を抱き締め返してくれる。
うん、ようやくわかったよ。
僕は僕を愛してくれている君にとんでもなく失礼な事をしていたんだね。




「でもね、僕…花子ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。」



「…うん、」



「こうやって、手を握って隣に居れるだけでいいって思うビッチちゃんなんて初めてなんだよ?」



「……うん、」



「こういうの、どうやって君に伝えたらいいのかなぁ。」




ポロポロと今度は僕の目から涙が零れる。
苦しい…苦しいなぁ。
君にこの気持ちを伝える言葉が見当たらない。



今まで紡いだ「愛してる」
女の子が喜ぶだろうからって只使ってきただけ。
僕はその言葉の真意を理解していない。
だから、花子ちゃんに理解していない言葉をぽんぽんと投げつけても絶対にこの心のうちの感情って奴を伝えることが出来ないって、分かるんだ。




きっと一番最適な言葉のはずなのに
僕が使うにはまだ僕は幼くて…




「花子ちゃん、」



ぎゅうぎゅうと彼女を抱き締めてそっとその顔を覗き込む。
ああ、花子ちゃんもとても苦しそう。
ごめんね、ごめん…
君に心がない言葉を只投げつけてしまって本当にごめんね?



でも伝えたくて…
どうしても僕のこの気持ちを君に伝えたくて、一生懸命思考を巡らせて今の僕でも心を込めて紡げるものを探し出す。
君がくれる“愛してる”には酷く遠いけれど、きっと今僕が紡げる言葉はこれが精一杯。




「だいすきだよ」



「…っ!ありがとう…!!」




花子ちゃんの気持ちに比べたらこんな言葉、幼すぎるに決まってるのに
どうしてか彼女は僕の「だいすき」を聴いた瞬間、報われたような…救われたような、
そんな顔をしてまたぶわわと涙を沢山零した。



けれどその涙はちっとも苦しくなくて
寧ろ僕の胸は彼女に“愛してる”って言われた時みたいにふわりと暖かくなる。




「花子ちゃん、花子ちゃん…ごめんね?今はこれで許してね?」




その言葉にもう声も出ないのか、何度も何度も首を縦に振ってくれる彼女に
ようやく僕も笑顔になれた。




いつかきっと…それこそ酷く長い時間がかかってしまうかもしれないけれど




いつか、君に…君と同じ、
ううん、君以上の“愛してる”を紡ぐ事が出来ますように。




花子ちゃん、君とだったら
僕の中になかった“愛”って奴を育てて大きくできそうな気がするんだ。




だから、ごめんね?
今は精一杯の“だいすき”で我慢してもらえると嬉しいな。



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