売約済み


花子とおんなじベッドで眠った次の日は
アイツ、必ずご機嫌だ。
どーせ大好きな俺と一緒に眠れてしあわせって…そんなクソ可愛い事思ってんだろ、って思ってた。




「ふーん、へぇぇぇ?ほぉぉぉぉぉぉお?」



「?何だよコウ…気色ワリィな。」



今日も今日とて花子と一緒に眠っていつも通り学校。
体育の時間だからのそのそと着替えてりゃ後ろからコウの意味深すぎる声が聞こえたので怪訝な顔をして振り返った。



するとコウはもう…何とも言えねぇというか、すげぇニヤニヤしながらこっちみてたので
正直言っちゃワリィんだけど…キモイ。
アイドルのする顔じゃねぇっつーの。



「いやぁ…花子ちゃんとユーマ君はラブラブだなーって思って!」



「あ?んなもん当たり前だっつーの。俺と花子は倦怠期知らずだからな。」



「………爆発すればいい。」




いきなりそんな当たり前の事言いだすから、渾身ドヤ顔で俺と花子のラブラブっぷりを宣言してやれば
さっきまでニヤついてた顔は一気に真顔になってそんな台詞。
んだよ…元はと言えばお前が最初にフってきたんだろーが。



コウの意味不明な行動に首を傾げてれば今度は背中につつつ、と何かが触れる。
なんだぁ?って思ってまた振り返れば今度はアズサが嬉しそうな顔で俺の背中をなぞってた。




「おうアズサ、一体何だよ。…って、アズサもにやにやしてんな。」



「ふふ…ユーマ、花子さんに…とても、愛されてるんだね。」



まぁコウみたいな下品な笑い方じゃねぇけど、嬉しそうにヘラヘラ笑いながらもひらすらに俺の背中ずっとなぞってっからここで湧き上がる小さな疑問。
さっきもコウは後ろから変な事言ってきたし、アズサも背中すげぇなぞってくる。




………俺の背中になんかついてんのか?




「お、おいルキ!!背中!!!俺背中になんかついてんのか!?ちょっと見てくれよ!!!」



「は?何だいきなりどうし………」




……………





…は?
ちょっとまて何だこの沈黙。
俺ら弟勢がやんややんやとしてる間にすっかりジャージ姿のルキに背中を見せたらこれだ。
お、おい…まさか何かデキもんとか出来てんじゃねぇだろうな!?腫瘍的な!!!
や、そもそも吸血鬼ってそんなもん出来んのか!?



重すぎる沈黙にだらだらと冷や汗をかいてると
ルキのなげぇ…そりゃなげぇ溜息が数十秒聞こえてこれまた意味の分かんねぇ言葉を告げられた。




「ユーマ。花子と倦怠期知らずはいいが…キチンと躾はしておいた方がいいんじゃないか?」



「え?は?一体なん…」



「ほら、鏡で自分の背中を見てみろ。」



俺が意味わかんねぇって顔してたら徐に手鏡でこっちを写してくれっけど…
お、おうルキ…そんな手鏡とか、女子かよ。
そんな事を心の中でツッコミながら言われるがままに自身の背中を見た瞬間、全身の血が顔面と頭に一気に登ってしまった。



「あああああああああの雌豚ぁぁぁぁぁぁ!!!!」



「あれ!?ユーマ君授業さぼっちゃうの!?」



「当たり前だ!!!今はあの馬鹿花子にコレの説明付けてもらわねぇと腹の虫収まんねぇよ!!!」




慌ててさっきまで脱いでたシャツを羽織ってそのまま勢いよく更衣室を飛び出し、目指すはあのクソ馬鹿花子の所だ。
あいつ…なんつー…なんつーもん…!
だから今まで一緒に寝た後はご機嫌だったんだな!!!?




「ユーマ…花子さん…泣かしちゃ…ダメ…だよ?」



「うるせぇアズサ!!泣かしてやる…2つの意味でヒーヒー泣かしてやるあのアマ!!!」



ドタドタともうすぐ授業開始だってのにそんなの関係なしに走り抜ける。
そして辿り着いたのは彼女の教室で、でけぇ音を立てて扉を開けると馬鹿花子はきょとんとこっち向いたので
そのままずかずかと彼女が座ってる席へと詰め寄った。



「ユーマ君?」



「“ユーマ君?”じゃねぇよ!きょとんとしやがって可愛いなオイ!!じゃねぇわ!!!花子!!背中!!背中何だコレ!!!」



バンバンと目の前の机を叩いて激怒すれば花子はどうして俺が此処に来たのか察したのかにっこりとすげぇ嬉しそうに笑った。
くそう可愛いなオイ。惚れた弱みって奴が大半だろうがこの顔ヤベェ。



「えへへ…ユーマ君を取られたくなくてね?つい。」



「おう、可愛いな許したベッド行くぞ。」




悪戯がばれちまったって感じに無邪気な微笑みでそんなクソ可愛い事言っちまうコイツにムラってこねぇ男がいたらそいつ等全員不能だと思う。
真顔で彼女の悪行を許した俺はそのまま可愛すぎる事言っちまう花子の体をひょいっと担ぎ上げてスタスタと愛を育むために学び舎を後にする。



俺に担ぎ上げられた彼女は心底俺の事が大好きらしく、嫌だとか恥ずかしいとか一切言わずに嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐから




もうあの、ベッドが来い。




今すぐに可愛らし過ぎる独占欲剥き出しな彼女を抱きたくて
歩いてた足は競歩に…そして次第に全速力で走り抜け、帰路につく。




背中には俺が寝てる隙に彼女が付けた小さくて赤いキスマーク。
そしておそらく油性ペンであろう「この野生児売約済み」の文字。




誰が売約済みだチクショウ。
いや、されるつもりではいたけどよ。




「花子、覚えとけよ?ベッドの上でキスマークまみれにしてその肌に俺のって書いてやっからな。」




意地悪に笑ってそう言ってやると顔を真っ赤にせずに
すげぇ嬉しそうに笑って元気よく「うんっ!」って同意の言葉。




ったく…ほんとコイツ。




「ちったー恥ずかしがればーか。」



俺に独占欲の証つけられんのそんなに嬉しいのかよって苦笑して
ようやく辿り着いた家の扉を壊すんじゃねぇかって勢いで蹴飛ばした。




あーあ、もう花子と一緒に寝るとき
なんもしねぇって訳には行かなくなっちまった。



だってこんなに可愛い事してくれる女目の前にお預けなんて、酷な話だ。
そうだろ?花子。



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