キスミー!
うう、疲れた…
今日も今日とて花子ちゃんのライフはゼロである。
「シュウく〜ん…」
「ん…、ん?ああ、花子か…おかえ、」
ぽふっ
帰宅するや否や自分の体には大きすぎるベッドに体を放り投げる。
これは私のベッドではないから大きいのは当たり前である。
そして体を投げ出した先にはこんもりとした膨らみ。
そう、私はこの愛しい膨らみ目がけてダイブしたのだ。
ああ今日も、もぞもぞ動いてこっちに視線だけ寄越してくれる最愛が愛おし過ぎてツラい。
「んんんシュウくんただいまただいまただいまぁぁ」
「ああ、はいはいわかったわかった。お帰り…って、帰ってくるなり俺の髪の匂い嗅ぐな変態か花子は。」
「なんとでも言えばいいよ私は今シュウ君補給してるんだから邪魔しないで。」
シーツの上からまるっとシュウ君に抱き付いてればようやく起きてくれた彼がもぞもぞとこちらを確認したのち、ぎゅっとその大きな腕で抱き締めてくれる。
そんな甘やかされた待遇に既に調子乗りまくってる私は彼の胸辺りに暫く顔を埋めていたのだけれど
のそのそとちょっと上まで這い上がって彼の頭に顔を埋めてすんすんと甘くて柔らかな香りを堪能するのが日課となっている。
そしてそのままちゅっと彼の唇にキスをするのも日課で…
「え、」
「ふはっ…間抜け面」
いつもの様に彼の唇を奪おうとその綺麗なお顔に唇を近付けると私に触れたのはぷにぷにの柔らかいそれではなく…
全く感触のない空気だった。
余りにも予想外の事に閉じていた目を開いてみれば目の前にはシュウ君の足。
そのまま首をぐりんと天井へと向けるととんでも無く意地悪な微笑みな彼がこちらを見降ろしていた。
「しゅ、シュウ君…ちゅう…」
「いつだって無条件にご褒美やるのも面白くないだろ?ほーら頑張れ。」
いつもなら私にされるがままいっぱいキスさせてくれるのに
今日はどうしてか彼は意地悪で、ベッドの上に直立不動で立ち上がって私をじっと見降ろしてる。
こ、このドS吸血鬼!!!仕事で満身創痍になって帰って来た私に余計な試練与えるとか何事だよ!!
大人しくちゅうちゅうされろ!!!
「うう…」
「ふはっ…ほーら、早く。キスしたんだろ?」
疲れ切った体に鞭打って一生懸命シュウ君の足に縋り付いたけどこれ以上はしんどくて無理。
じっと「しゃがんでください」って見上げて目で訴えるけどそんな私を見てシュウ君の意地悪な笑みはますます深くなるばかりだ。
ぷつん
私の中で理不尽な堪忍袋の緒が切れる音がした。
「もおおおおお!社会人!!社畜の意地を見せてやるっ!!覚悟しろシュウ君っ!!」
「ははっ、それはみもの」
ゴチィィィン!!!!
シュウ君の意地悪な台詞が終わる前に痛すぎる音が部屋に響き割たる。
そしてその後間髪入れずに今度はごすっと鈍い音も響いた。
ぶるぶると頭を抱える私、シーツの上で大の字に倒れてしまったシュウ君。
正に現在地獄絵図。
「…っ、…っ!花子おま…っ顎目がけて頭突きってどういう神経して…いった、」
「シュ、シュウ君が私に意地悪するのがいけないんでしょぉぉ頭痛いぃぃ」
互いに痛みに耐えきれずブルブルと悶絶しながらの悪態。
そう、身長差で立ち上がったとしても到底彼の唇に届かない私の最終手段、ベッドのスプリングを利用しての最大ジャンプは見事に座標を見誤り、シュウ君の綺麗な顎にクリーンヒットしてしまったのだ。
そしてその衝撃で体勢を崩した彼はベッドの縁に盛大に後頭部をぶつけてしまい今に至る。
こうなったのも全て下らない意地悪を企んだシュウ君のせいだ。
「…謝りなさいよ。」
「なんで俺が。そもそも攻撃してきたのは花子だろ。」
「うるさーい!!わ、私の仕事終わりの楽しみを取り上げたシュウ君が悪いでしょ!!!どれだけシュウ君との甘い時間を、キスを楽しみに一日頑張って来たとおも、」
ぎゃんぎゃんと怒り心頭なまま喚き散らしていると塞がれてしまう唇。
それは待ちに待ってもう死んじゃうレベルで欲しかったもので、
ゆっくりと離されれば先程までの怒りはどこへやらもうデロデロに顔がゆるみまくってしまう。
「ぷっ…花子、ちょっと分かりやすすぎ。」
「だってもうシュウ君からキスとか…えへへ、もっと!!」
「はいはい、んー」
流石に尋常じゃなく怒ったのが効いたのか
今度は立ち上がるなんて意地悪しないで私を抱き締めて視線を合わせた状態で目を閉じ、ちょっとだけ唇を尖らせて待ってくれるから
私はもっと笑顔になって今度こそと、その唇を沢山堪能することに成功した。
ああもう、やっぱり仕事終わりにはシュウ君のハグとキスに限るなぁ。
(「で?何でいきなりあんな意地悪しちゃったの?」)
(「…一生懸命俺を求めちゃう花子がみたくてつい。」)
(「いつだって一生懸命だったのに伝わってなかったの?…今夜は覚悟してね?」)
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