愛の処刑台


「わ…わぁ…可愛い」



「へへ…っどーよ、俺様の渾身の逆チョコは!!」



目の前の何様俺様彼氏様のアヤト君はドヤ顔を隠しきれないのかとてもゴキゲンである。
そして私の手には少し大き目の箱が一つ。
可愛くラッピングはされてるのだけれど、これもアヤト君のお手製らしくちょっぴり皺があったりしているけれどこれもまた嬉しい。



「まさかアヤト君からチョコもらうとは思わなかったなぁ…」



「だってよ。デキる彼氏はこういうの渡すんだろ?」



「いやぁ…うーん…まぁ…あはは」



手には所々やけどの跡。
あのアヤト君が私の為にこういう事してくれるとは思わなかったので本当に感激…
感激なのだが別にこんな事しなくてもアヤト君は私の自慢の彼氏なんだけどっていうのが本音。
…ていうかそのデキる彼氏論、誰に吹き込まれちゃったんだろう。




「本当にありがとうアヤト君。…あけていいかな?」



「おう!最高にうめー奴作ったからそのまま食え!!」




でもやっぱり私の為に何かしてくれたのがすごく嬉しくて
彼の許可を貰って喜々としながら少し皺のよった包装紙を丁寧に剥がしていった。




「トリュフ……?にしては…んん?」



「?ほらほら食えよ花子っ!!俺様の最高傑作だ!!」



「………う、うん。」




ぱかっとふたを開ければそこにあったのはまるくて黒い球体……
この形だと恐らくトリュフ…トリュフなのだろうが…
それにしては…うん。




大きい。




え、なにこれちょっと大きすぎない?
トリュフってこんな感じだっけ?あれ?魔界のトリュフは結構大きいのが定番なのかな?
まぁでもアヤト君はすっごく目をキラキラさせて私の感想を待っているからしょうがない。
私は恐る恐るその少し大き目のトリュフをひとくち、口へと運んだ。




「!?」



「どうだ!?花子、うまいか!?うまいよなー。俺様すっげぇ頑張ったしっ」



「…………」




…アヤト君。
いや、逆巻アヤト。
こ、これは…これはいったいどういう事だ…。
目の前にはきらきらと、とてもじゃないけど闇の生き物とは思えないくらいまぶしい笑顔の吸血鬼。
すっごく可愛くて格好いい。大好き。
けれど……けれどない。これはない。




「……………」



「ん?うますぎて言葉のでねぇのか……ったく、仕方ねぇなぁ花子は。実はまだ沢山用意してんだ〜。キッチン行こうぜ!!」



「!!?」




むぐむぐと口の中の物を飲み込みきれずに沈黙を守っていれば
アヤト君は私がおいしすぎて感動していると勘違いしてまぶしい笑顔を更にキラキラと輝かさせてぐいっと私の手を引っ張った。
まってまって…本当に待って!!これあと何個作ったの!?




ぐいぐい最愛に引っ張られる手の先には食べかけのチョコ…
とろりと中の“小麦生地”が垂れ墜ちる。




アヤト君の作ってくれたトリュフ…
いや、彼の大好物をあまあまのチョコでコーティングしてしまった
たこ焼きのチョコレート掛けがひとつ。




そうだった、そう言えばこういうお菓子系統って全部レイジさんが作ってたんだっけ。
きっと自分の大好きなたこ焼きにチョコ掛けたら私も喜ぶとかそういうおバカな俺様脳が働いてしまったんだどうしてその場に居て止めてくれなかったレイジさんっ!!
…逆巻アヤトにお菓子の常識は通用しない。



「もがもがもが!!もががもが!!(アヤト君!無理!!これはさすがに無理だよ!!)」



流石にこのコラボは気持ち悪すぎると必死に首を横に振りながら訴えるけれど
彼は私の悲痛な叫びに振り返り、残酷なまでの死刑宣告を口にする。



「んー?そんな楽しみかー。仕方ねぇぁ。これから毎年花子の為に俺様がたこチョコ焼き、作ってやんよ!!」



「もがー!!!!!」




勘弁してくれと、涙目で訴えたけれどそれさえも感激の涙だと思ってしまったアヤト君は「大好きなお前の為になんかするのも悪くねぇな」とか言い出したからもう何も言えない。
口の中は最高に気持ち悪いのに私の胸は彼の笑顔と言葉にぽかぽか暖かい。
くそう!!これが新手のドエスプレイと言うやつか!!
精神的には酷く満たされているけれど身体的に私はこれから彼のお手製凶器に殺される。




「………もが、」




珍しく私の為に行動を起こしてくれた彼の背中はとてもゴキゲンでもう私の覚悟は決まった。
今日は胃薬とトイレと親友になるとして、これから毎年2月14日が近づいたら彼をキッチンから遠ざける事。
前日なんて薬でもなんでも使って手段を選ばず彼を眠りにつかせること。
そしてきちんと私が彼に正しいチョコレートを捧げる事。




だって言えない…





「あー花子が俺様の手作り喜んで俺様もスッゲー嬉しいぜ!!」




こんなに嬉しそうな可愛い可愛い彼氏に
「正直たこ焼きをチョコでコーティングとか気持ち悪すぎて今にも吐きそうだ」なんて絶対言えない。




「(……彼氏の純真を守るのも彼女の役目である)」



なんだかどちらかと言うと彼女と言うよりかはもはや母性に近いな…なんて思いながらも
こういうのも悪くないと思っている私がいるのも事実で…
ゴキゲンな彼にキッチンと言う名の処刑台へと連れていかれているにも関わらず
私も彼につられて小さく口に未だ凶器を含みながら笑ってしまった。




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