逆巻ライトの節分


ぺちっ



「弱いよ…そんなんじゃ全然足りない」



ぺちっ
ぴちっ




「もっと…もっと強く投げてよ花子ちゃん!!刺激が全然足りないよぉ!!」




「う…うわああん!ごめんなさいライト君ー!!」




今僕は最愛の花子ちゃんに絶賛ダメ出し中。
少し厳しい事を言っているかもしれないけれど僕だってこればかりは譲れない。
目の前の涙目な彼女の手には小さな箱。
そして空いてる手はぐっと強く握られている。
僕の周りには小さな小さな散乱する豆たちが数百個…




「ほらぁ!もっと…もっと僕に強くその豆を叩きつけて!!こういうプレイに生半可な優しさは不要だよ!!さぁ!!」



「うえええええ!!大好きなライト君に豆ぶつけるだけでもつらいのに思いっきりなんて余計に無理だよおお!!!」



遂にぶわわと涙をこぼしてしまった花子ちゃんには申し訳ないけれど
僕はこんな絶好のプレイをそうやすやすとスルーする気にはなれない。
本日2月3日……人間界では節分と言う鬼を追い払うプレイが催されている。




そう、僕だって吸血“鬼”!!!
こういう特殊プレイを試してみないわけにはいかないのだ!!!




「うっうっうっ…らライト君に痛い思いさせるくらいなら私が豆投げられる役がいい…」



「何言ってるの花子ちゃん…こういうのは純粋無垢な君が僕をいじめるからこそ面白いんだよ…?」



遂に僕に向かって豆を投げる罪悪感に精神的限界を迎えてしまったのか
その場に崩れ落ちてしくしくと泣きべそをかいちゃう彼女をそっと抱きしめて焚き付ける。
そう…こういう純粋で優しい花子ちゃんが行事とはいえ僕に豆を全力で叩きつける…




イイ!!!たまらない!!!!興奮しちゃう!!!!




「ライト君……」



「ほら花子ちゃん……僕の為にがんばって?」




ぽろぽろと涙をこぼしながら僕を見上げるその瞳は本当に「ごめんね、ごめんね?さっき投げたの痛かった?大丈夫?」って語り掛けてっきちゃっててもうそれだけで僕は大興奮だけれど
うん、こんな彼女からもっとビシビシと豆を投げつけられたいと思っちゃったので花子ちゃんには申し訳ないけれど魔法の言葉をひとつ、口にした。
誰よりも優しくて僕の事を大好きな彼女は「僕の為にがんばって」と言う言葉に非常に従順だ。




「うん……私…私、がんばるっ!!」



「うんうん、ありがとう花子ちゃ……花子ちゃん?」



「ちょっとまってて!!ライト君を満足させれるように…席外すねっ!!!」




僕の言葉に彼女の迷いが吹っ切れたのか晴れやかな表情で再び立ち上がり
もう一度ぐっと豆を握りしてめくれたので、またぺちぺちと僕に可愛い花子ちゃんが豆をぶつけてくれるのだと
内心大歓喜しながら優しい表情で彼女を見つめていれば意外な言葉。
花子ちゃんはぱたぱたと僕を置いて全力で走って何処かへ行ってしまった…





まではよかったんだけど





「まってまってまって花子ちゃんまって僕はこういう事が言いたかったんじゃなくて」



「私の腕力じゃ限界があるしライト君……気持ちよくなれないと思うから…連れてきちゃった」



「よぅライト……花子が日頃の鬱憤を豆に込めて全力でお前にぶん投げていいって言ってきたからよ」




数分後、戻ってきた彼女は一人ではなくて
後ろに毎日飽きもせずに壁や屋根…自分の部屋をズタボロにしちゃってる絶対力強すぎだよね的な僕の弟を引き連れて戻ってきてしまった




「いやいやいやいやスバル君まってまって僕は花子ちゃんに豆をぶつけてもらいたいわけであって別にスバル君じゃ興奮しなって言うか」



「毎日毎日散々俺をからかったりしまくるんだからいいじゃねぇかたまには」




ぐしゃっ



スバル君が持っていたであろう豆の潰れる音がしてもはや僕は顔面蒼白
後ずさりもすでに背中は壁とキスをしてしまっているのでこれ以上は逃げることが出来ない。




「花子ちゃ……花子ちゃん助けて!!!!僕…僕スバル君の豆でハチの巣になっちゃう!!!!」



「えへへ…良かったねライト君!!スバル君力持ちだからきっと気持ちいいよ!!!」



最終手段だと、自身の最愛に助けを求めたけれど
純粋すぎる彼女はこれで僕が満足できると思っちゃってるのかスバル君の後ろでとても嬉しそうに微笑んでいるばかり…助けてくれる気配がない!!




「ま、ま、まって…ほんと待って…ま、」



「日頃の恨みだ覚悟しろライトぉ!!!!」



「わああああああ!!!」




2月3日深夜……
鬼が鬼にハチの巣にされかけると言う事件が発生し、
更に剛速球過ぎる豆が至る所に当たって屋敷が穴だらけになり
最終的にもう一人の眼鏡の鬼に3時間正座させられてお説教されちゃうと言う見事なオチがついてしまった。




人間の行事の節分…
うん、もう二度と絶対に僕はしないと心に誓った。



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