いいにく
「いやぁ私はそんな所でレイジ君に嫌がらせ受けてたとは思わなかったよ」
「俺は花子を誰よりも愛してこれから守り抜くと誓いたい気しか起きない」
「この状況でその言葉は酷く安くて薄っぺらだけど大丈夫?シュウ君。」
じゅーわじゅわー
キッチンに響き渡るいい音色と香ばしい香り。
安っぽすぎる愛の言葉を聞きながら私は苦笑するしかない。
そしてそんな私を後ろから抱き締めながらちょっぴりそわそわしちゃってる愛を紡いだ張本人は普段の五割増可愛いかもしれない。
「まぁ確かにあの大所帯だと高級ステーキとか毎日買えないもんね。」
「でも一応王族なんだぜ?逆巻……なのにいつも出されるのがやっすいセール品とかレイジ俺の事嫌いにも程があるそこは兄を愛せよ」
「都合よすぎる」
レイジ君はレイジ君なりに逆巻さんの家計をやりくりしてるんだなーと感心していれば
後ろからぶーぶーと文句を垂れ流してしまうシュウ君には兄の威厳のかけらもないけれど…
まぁ、吸血鬼にとっては食事はそんなにメインじゃないんだから別にいいのではないだろうかとも思うけれどシュウ君的にこれだけは譲れないのだろう。
「はい、出来たよ。レアだから短時間でできちゃうね」
「………花子愛してる」
「だから、安っぽいってば」
手早くソレを更に盛り付け彼にずいっと見せてあげれば
そのブルーの瞳は太陽に照らされた海のようにキラキラ輝いて
大きくはしゃぎはしないものの、静かにもう一度愛の言葉を紡いで私の頬に唇を落とした。
ううん、素直に喜べなくて苦笑してしまう。
今日会社でたまたま取引先がやってきて土産にと持ってきてくれた高級ステーキ。
どうやら今日の日付、2月9日にちなんで持ってきてくれたようだけれど…うん、普通こういうのはお茶菓子だと思うのだがちょっとおもしろかったのはナイショの話。
「花子が社畜で毎日俺をほったらかして書類と睨みあっていた理由が今日分かった」
「…せっかくわざわざ呼んで作ってあげたのに可愛くなーい」
「む、」
いそいそとテーブルへと運んで彼の前にその高級レアステーキを置いてあげれば
キラキラした瞳はそのままで普段私に抱いている不満をしれっと言っちゃうものだから
また静かに笑ってそんないつもほったらかしにしちゃってる愛しい人の口へと出来立てほかほかのステーキを放り込んであげた。
「ど?おいしい?」
「ん……もうレイジの買ってくる肉は食えないな。花子、もっと働けよ。」
「ねぇちょっとさっきから酷くない?ステーキと私、どっちが好きなのよ」
満足げに大好物のレアステーキ、しかも普段口にできない高級なものを頬張って満足げな彼に味を問えば返ってきた可愛くない返事。
仕事と私、どっちが好き?はよく聞くけれどまさか肉と比べる日が来るとは思わなかったなぁ…
ぶーぶーと唇を尖らせて目の前の彼に盛大に文句の言葉をぶつけていれば不意にその柔らかな唇で塞がれてそれら全てのみ込まれてしまった。
そっと外されたときに香る肉の香りが色気も何もなくてまた笑ってしまいそう。
「好きなのはコレ。愛してるのはコレ。」
「…………はいはい、馬鹿な事聞いた私がわるうございましたー。」
「ん、イイコ」
好きなものでレアステーキを指して、愛しているもので私を指した彼にもう何も言えなくて
小さくため息をついてもう邪魔しないから存分にお食べと促せば
彼はやっぱり満足そうに微笑んで大きく口を開けて待機。
………食事位自分でしろって言うんだ。
「ねぇシュウくーん、いい加減自分で食べたら?介護みたいだよコレ。」
「ん、やぁだ。愛しい花子に好きなレアステーキ食わせてもらえる幸せを取り上げるなよ」
「……………なんなの可愛い。」
ひょいひょいと彼の口が開くたびに
食べやすいように切ってあげながらソレを入れてあげていたけれど
もう19歳なんだから自分で食べろと言ってみればそんな言葉…
私は馬鹿で単純だからそんな事を言われてしまうともう彼にあーんをしてあげないという選択肢は頭の中から抹殺されてしまうのだ。
「?何言ってるんだ。……花子の方が可愛い、ホラ。」
その言葉と共に不意に頬に触れた手の温度に私は更苦笑する。
嗚呼、いつもよりシュウ君の手が冷たく感じる。
「そう?私…可愛いかな?」
普段より冷たい彼の手…
それは私の顔が熱くなっている証拠でもあって
先程の言葉に照れてしまっているであろう私の表情は
どうやら可愛い彼には自身以上に可愛く映ってしまっているようだ。
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