雑魚の相手


「大好きな人にチョコを渡してね?気持ちを伝えるのっ!」



「………そうかい、それは素晴らしいね。ガンバッテ。」




キラキラと瞳を輝かせる少女がに優しく微笑みかけてそっと頭を撫でてやる。
嗚呼、そうか…人間界はもうそんな時期。
そして今日やってきた彼女もそんな日に便乗しようとする可愛い可愛い人間の一人。






「ラインハルト先生、いつも相談に乗ってくれてありがとう。」




「いやいや、私は只花子君の話に相槌を打っているだけだよ?相談なんて大げさだなぁ。」




仮初の体の私にニコニコと嬉しそうに微笑む彼女、花子の瞳はまるで星屑をばら撒いた様にキラキラとまぶしい。
本日2月14日。今日はこの学校も騒がしくなるだろう。



その騒がしい騒動の中心に少なからずとも我が息子たちも入っているようで…
こうして保健室に「逆巻君にチョコを上げたいけれどどうしたらいいと思う?」と相談と言うか気持ちの整理をつけに来る子供が多い。
ううん、父親としては少し複雑な気分だ。




「それで?花子君はどの逆巻君にチョコをあげたいんだい?」



「え、……えっと、ナイショ。」




私の問いにぼふんと顔を赤らめる初な彼女にコチラの表情も緩む。
嗚呼、何も知らないという事は実に愚かでそれでいて可愛らしい。




「(まぁ、アダム以外ならどうとでもするがいいさ)」



胸の内でそんな事を考えてしまう私は無慈悲だろうか。
しかしここまで来るまでもう数えきれないほど時間を巻き戻しては修復しの繰り返し…
流石にそろそろアダムとイブには正しく結ばれて欲しい私も正直疲れ始めている。




「ええ?私に相談してきておいて相手の逆巻君が誰かも教えてくれないのかい?花子君は意外と意地悪なんだね。」



「え!?そ、そんな事ないですよ!!…あ、そうだっ!!」



「?」




少し茶化すように微笑めばその顔は更に赤みを帯びてぶんぶんと首を横に振っていたが
何かを思い出したかのようにずいっと私に差し出されたなんの変哲もない箱がひとつ。




「花子君?これ……」



「いつも色々お世話になってるラインハルト先生にもチョコです。…あ、本命ではないですよ!?」



「……………、ふふっありがとう。嬉しいよ。」




まさか私がこのような一般的すぎる代物を受け取るとは思わなかったけれど
彼女の瞳は未だに綺麗なままで気紛れにその送りものを受け取った。
王にこのようなもの…吸血鬼界では処刑者だけれどね。



いつもと分からない“温和なラインハルト先生”のまま笑顔を作ってやれば
花子ははやり嬉しそうににっこりと微笑んだ。
ううん、こんな純粋な子に愛された息子が少しうらやましい。




「じゃぁじゃぁもう行きますね!!逆巻君に告白するのっ!」



「そうだね…がんば、」




勢いよく椅子から立ち上がり保健室の扉に手を掛けた彼女の空いた手から除いた袋の中のカラーリボンに目を見開いた。
嗚呼、花子……何てこと。





君が愛したのはアダムだね




「嗚呼、やはり運命とは酷く愚かで滑稽で下らない」




ピシャリと閉じられた扉を見つめ小さく囁いた。





ゴトリ




先程受け取ったソレをゴミ箱へと投げ捨てて少し目を細める。
嗚呼、恐らく今の私の瞳は普段の金色だろう。




「もう失敗はしたくなんだよ…だから小さな芽一つでも摘ませてもらおうか。」




花子……君が愛した男がそれでなければ私も純粋にその淡い恋を応援でいただろうに。
ごめんね………それはいけないよ。




「アダムはね?君“ごとき”にはあげないよ?」



私のその通った声が
先程出て行った思い上がりの人間の運命を決定付けた。




ねぇ人間…
王の計画の邪魔なんて、少々おいたがすぎるんじゃないかな?






アダムがキミを見る目はそういう事だったか…
ううん、申し訳ないけれど万が一もあるからね。




アダムの彼の花子を見る眼差しが少しだけ暖かかったのを思い返し
誰にも聞こえないように静かに舌打ちをした。




「いけないよ、アダム。お前はイブを愛するんだ。」




次の日、生きとし生ける者たちから「花子」と言う存在は抹消された。





「ねぇ花子、雑魚なら雑魚らしく、脇役を愛せばよかったのに…」




エデンで一人、アダムとイブが結ばれた世界に私は一人満足して微笑んだ。



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