逆な私達


聞いて驚け今日はバレンタインデー
そして私の彼氏は甘いのが大っ嫌い。




「お…おおおお…意外に難しい」



「………ぐぅ」




先程からキッチンに響き渡るガッチャガッチャと危なっかしすぎる音。
それは酷く不規則で本来此処の主であるレイジさんが聞いたら居てもたってもいられず私から…と言うか彼からゴムベラをひったくるだろう。




「んんん、シュウさんもうちょっと!!もうちょっとですよー!!!」



「なぁ花子いい加減諦めたら?俺は寝てるんだけど。」




綺麗な瞳は閉じたままで寝息だって立てているけれど
それでも何とかその足で立ってくれている彼の後ろからその手をぎゅっと握って操作している私はどこかのパイロットみたい。
別に虚しくない…決して……決してだ!!!




「いやだぁぁぁ!!!しゅ、シュウさんから手作り逆チョコもらうんだぁぁぁぁ諦めてたまるかぁぁぁ!!!」



「………もうこんなの花子がしてるようなもんだろ……ふぁ、」



「そんな事ない!!そんな事ないですよ!!今シュウさんがチョコ作ってます!!奇跡!!歴史が動くっ!!」




私の叫び声に酷くダルそうな声で反論されてしまったけれど
そんなのに一々へこんでいる暇なんてない。
現在シュウさんは立ちっぱなしで夢と現実の世界をうろちょろしてる真っ最中。
そして私はそんな彼の後ろから二人羽織状態で必死に自分へのチョコを作成中なのだ。





時は遡り数時間前…



今日はバレンタインなのでシュウさんに本命手作りチョコを渡しますねっと意気揚々に材料を持ちながら彼のベッドにダイブすれば
「そんなくそあまったるいもん食べたくない」とバッサリ切られてしまったのだ。



うん、確かにシュウさんは甘いものがだいきらいなので仕方ないと言えば仕方ない……けれどやっぱり恋人同士、チョコを渡したい…けれどでもと葛藤しているうちに頭に浮かんだ「逆チョコ」の文字。
私からのチョコがいらないのならこれを使って私にチョコ作ってと再び寝ようとシーツの中に潜った彼の体の上でゴロゴロと転がってオネダリをすれば地を這う声で一言。





「ならあんたが俺の体使って勝手に作ればいいだろ」





…そして今に至る。




「まさか本当に俺の体を使ってチョコ作り始めるとは思わなかった……そこは素直に諦めろよ…」



「こんな事で落ち込んで諦めてちゃシュウさんの彼女なんか務まりませんよ…ああっお湯入っちゃうっ!!」



「…………そこは素直に落ち込んで欲しかった。てかさっきからチョコの香りがあまったるい。」




未だに彼を後ろからめいいっぱい包み込む形で湯せんを続けていれば
酷く呆れた声の彼にどや顔で答えてみる。
そうそう、こんな無茶ぶりに素直に「出来ない」って諦めてたら何もできやしない。
私はいつだってシュウさんの言葉の全てからあげあしを取っていく。




「シュウさんが使えって許可を私に出したのが悪いんですよー…っと」



「…………絶対作らないって言えばよかった。」




そろそろ慣れてきたシュウさんの操作……
手早く溶かしたチョコを型へ流し込んでぐいぐいとそのまま彼の背中を押して冷蔵庫へと完成間近のチョコを入れてようやく一息。
ううん、やっぱり自分で全部やるにしても彼の手を使っては流石に疲れてしまった。




「はぁ………ようやくひと段落。」



「…………花子、そんなに俺からのチョコが欲しかったのか?」



力尽きて冷蔵庫の前でへたり込めばそもそも立つ気力さえ本当は無かったシュウさんも一緒に座り込む。
そして何かを思ったのかのそりと体を動かし私と対面する形をとってずいっと顔を覗き込まれてしまう。
………付き合って時間は経っているけれどやっぱりその綺麗な顔が近くにくると赤くなってしまいます、シュウさん。




「いえ、ホントはあげたかったです。」



「…………花子、」




「だってシュウさんに好きですって伝えたかった。」




じっとその瞳で射貫かれて、思わず本音をポロリ。
いつもシュウさんには耳が溶け落ちる毎日すきすきあいしてるって言っているけれど
それでも明日は私のような「人間」には特別な日で…
2月14日、大切な貴方に特別なチョコを作って好きを伝えたかった。




………まぁひとの好みなんてどうすることもできないから仕方ないけれど。




ようやく少し落ち込んで俯いてしまえばしまえば不意に額に触れた冷たくて柔らかいモノ。
驚いて顔を上げればシュウさんは酷く意地悪に微笑んでいた。




「花子のそういう顔…すっごくブサイク。」



「…………、」



「花子、すき…だいすき、あいしてる、」



「え、あの…シュ、ちょ、」




最高に失礼な言葉を受けて顔面に青筋を浮かべていれば
どうしてだか彼は頬、瞼、もう一度額と、普段は絶対に紡がれることのない愛の言葉と一緒に可愛らしい音を立ててキスをしてくる。
……何なんだ。チョコの甘い香りにあてられすぎて頭でもおかしくなったのか。




「しゅ、シュウさん!いったいどうしたんですか!!!」



「どうしたって……チョコ渡すんだったらスキも伝えなきゃいけないんだろ?残念な事に花子に動かされて作っちまったし……しょうがないよな?」



「なんですかソレだからっていきなりこんな、」




彼のよくわからないバレンタインの解釈に思わず反論しようとしたら塞がれてしまった。
……彼の唇によってそれはもう見事に、大胆に。
ちゅっとわざとらしく音をたてて離れれば彼は笑う…やっぱり意地悪に、それでいてどこか優しく微笑むのだ。




「折角だから今年は…と言うかこれからずっとバレンタインは逆チョコも、逆告白も受け取っときなよ」




どうやら彼は今後も私からはチョコは受け取る気はないらしく
けれどその代わり、毎年2月14日は、彼の甘いチョコと言葉はいただけるようなのでなんだか嬉しくて私もつられて微笑んでしまう。
うん、バレンタイン…私たちの間では逆チョコと逆告白が定番になりそうだ。




普段聞けない貴方からの愛の言葉が聞けるだなんて
本当に酷くトクベツな日だなぁ…なんて、




さっきまで自身の愛を伝えられないと落ち込んでいた私は単純にそんな事を想いながら
ご機嫌に彼の愛の告白を一身に受けて微笑むのだ。



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