証明


僕は愛を貰えなかった。
別にそれでよかったし、寂しくもなかった
楽しかったらなんだってよかったんだ。




「ライト君、あいしてる」




けれどそんなある日、僕の知りえない「愛」を両手いっぱいに持ってキミが現れたんだ。
酷くまぶしくてそれでいてとても暖かなキミ…
けれど僕もそんなキミに…花子ちゃんに恋をした。




「ねぇ花子ちゃん…僕の事、愛してくれてる?」



「うん…すっごく愛してる。ライト君が大好きで愛しててつらい。」



ぎゅうぎゅうと小さな彼女の体を抱き締めながら確認の言葉を口にすれば
彼女は飽きもせずににっこりと笑って嬉しそうにそう答える。
もうこれで何十…何百……いや、何万回目だろうか。



今まで手に入らなかったものだから
花子ちゃんからいつだってもらっているというのに不安で不安でこうして何度も何度も僕が女みたいに彼女に縋って問うのだ。
…実際はこうして抱きしめて離さないようにと言うのが正しいけれど。




「ね………花子ちゃん、その愛…証明、出来るかなぁ?」



「ライト君…?」



そっと彼女を離して困ったように微笑めば彼女はよく分からないと言った感じで首を傾げる。
じっと僕を見つめるその瞳にもう一度、小さく苦笑した。




ねぇ花子ちゃん……これから僕は死のうと思うんだ。
銀のナイフを胸に突き立てれば一瞬…案外吸血鬼も脆いものだからね。




キミの愛が本物で、本当に僕だけを見ていてくれているのだとしたら
僕が死んでしまったら君は壊れてくれるでしょう?



僕を愛してくれているならもう二度と男に触れることさえ出来なくなる。
僕を愛してくれているならもう二度と誰にも体を開かない。
僕を愛してくれているならもう二度とその心は普通には戻らないでしょう?





「んーん、なんでもないよ?んふっ♪」




いつものようにおどけて見せればどうしてだか彼女は少しだけ何かを言おうとして…
けれど何も言葉を紡ぐことは無いまま僕の胸に顔を埋めてきてくれた。
もしかしたら少し、勘付かれてしまったかなぁ…




ねぇ花子ちゃん…ごめんね?
こんな形でしか君の愛を試すことが出来ない僕で本当にごめんね?





だって怖いじゃないか…
生きていて花子ちゃんの愛を試してもし…もし違っていた時の事を考えると怖いじゃないか。
それこそそんなの僕が壊れてしまうよ…




「(嗚呼、もしかして…)」




ぎゅうぎゅうと僕の胸に擦り寄ってきてくれた彼女を抱き締めて不意に考えを巡らせる。
キミの愛が偽りだったと仮定しただけで壊れてしまうと思ってしまう僕は…





「花子ちゃん……僕はキミを、」




紡ぐはずの言葉はそのままぐっと飲み込んだ。
これからキミを卑怯な方法で試す僕が紡げるような言葉じゃない。




ねぇ花子ちゃん…キミのソレは本物なのだろうか?
僕が死んだら君が一生を全うするまで誰も愛さないでいてくれる?
それとも……僕をすんなり忘れてまた別の誰かを「愛する」のかなぁ…



「花子ちゃん………ごめんね?」



キミの愛を試すのに、結果が怖くて逃げるような行動を取ってしまう僕を許してね?
それだけ僕は愛と言うものが分からなくて怖くて不安で……それでいてずっとほしかったんだ。




だからどうか……どうか願わくば、




「花子ちゃん、花子ちゃん……」




腕の中で必死にぐりぐりと駄々っ子の様に顔をこすりつけてくる可愛い君が
僕の死によって壊れてくれますように…





君がくれた愛のすべてが本物でありますように………





そんな酷く残酷で利己的な願いを強く胸のうちで叫んで
そっと後ろで銀のナイフを握っている手に弱弱しく力を込めた。




こんな形の証明方法でしか君を試すことが出来ない僕をどうか…
どうかそのまま「愛して」下さい。



戻る


ALICE+