幸せ家族計画
目の前で大好きな人から涙が零れる。
それは僕には絶対に叶わない最愛の人への涙…
「おとうさん…おかあさん……」
「…………花子さん」
コイツらの所為で彼女は僕だけを見てくれないからと
その心臓を抉りだしたのにどうしてだか、やっぱり彼女は僕ではなくその二つの骸を抱き締めて嘆くばかり。
嗚呼、やっぱり“血を分けた家族”には“所詮他人”の僕はかなわないのか。
僕はその夜、ひとつ彼女について知って
ひとつ…大人になったんだと思う。
「ううん、ああいうのが家族って言うんですね…」
あの日から数日…花子さんは部屋からでて来なくなってしまった。
きっと何者にも代えがたい愛すべき家族が何者にも代えがたい最愛の僕に殺された事実に心と言うやつがついてこれていないのだと思う。
家族と僕へ対する愛は違っていて…だからと言って僕の行いをすべて許せるわけではなくて…
嗚呼、こうなるのだったら彼女の心を徹底的に壊してから彼女の愛すべきものを奪えばよかった。
「だって我慢できなかったんだもの。」
じっと目の前の腐臭が漂い始める二つの肉の塊を見つめてぽつりとつぶやく。
彼女の心をキチンと壊してしまうまでなんて待てなかった。
一分一秒でも早くその綺麗な瞳に僕だけを写してほしかったんだ。
…けれど結果はこうなってしまった。
今や彼女は僕を見つめるどころか姿さえ現してくれない。
「仕方ないです………花子さんは普通の家庭で生まれて普通の愛情を受けて普通に育ってきた普通の女の子だもの。」
汚らしいけれどその肉塊に手を付ける。
仕方ない……彼女がこの二つがないとここまで不機嫌になってしまうなら僕だって大人にならなきゃ。
「確か愛には歩み寄りが必要……なんですよね?」
本当は…本当はいやだよ?
あなたの瞳に僕意外が映るなんて……でも、でも…
「僕だって花子さんが大好きだから頑張ります」
ふわりと、腐りかけの肉にひとつ、契約
「花子さんっ!」
「!?カ……ナト、くん?」
勢いよく彼女の部屋の扉を開ける僕はとてもご機嫌で
対照的に花子さんの瞳は泣き腫らして真っ赤になっていて今もとめどなく涙は溢れて止まらない。
大丈夫……今日でその涙も僕が止めてあげる。
「ごめんね花子さん……僕、どうしてもあなたに僕だけを見てほしくて……大人げありませんでした。」
「カナト君……」
突然部屋に入ってきた僕に困惑を隠しきれない彼女をぎゅうっと抱きしめて
珍しく僕から謝罪すれば声色さえも戸惑いの色に変わって苦笑。
………そんなに僕から謝るのって、ビックリする事?
「だからね?ホラ…っ創り直してきたよ?君のだいすきなもの。」
「………………え、」
「ほら、入って?」
そっと少しだけ体を離して安心させるように微笑んで言葉を紡げば
その瞳はこれでもかって言う位大きく見開かれた。
ううん、やっぱり花子さんの瞳は可愛い……できる事なら抉り取ってホルマリンにでも漬けてしまいたいけれど
その眼球を経由して君の脳に僕を認識するからこそ価値があるの…知ってます。
困惑の彼女にもう一度微笑んで扉へと顔を向け指示を飛ばせば
僕の命令通りに動く二つの人形……ね?これで花子さんは笑顔に戻るでしょう?
「紹介するね。僕の新しい使い魔だよ?」
「何てことを………カナトくっ……ひぅ、」
笑顔で二つの使い魔を紹介すると彼女の顔は酷く青ざめて
もう涙は止まったけれどその表情は喜びのものではなかった……あれ?これでいいはずなんだけれど。
「僕…花子さんの為に頑張ったんですよ?ホントは僕以外が花子さんの瞳になんて考えただけで虫唾が走るけれど……君はずっと出てきてくれないから…」
「あ………あ、」
「ほうら、こうして僕の使い魔にしてあげればずっと一緒に居れるよ?コイツらも君に感謝しないと…君のお陰で腐って消えて魂が昇華されずにすんだんだから」
「……っわたし、の…せい……っ」
「違うよ?」
どうしてだか僕の腕の中でカタカタと震え始めて目の焦点が合わなくなってしまった彼女が
よくわからない単語を紡いだので、僕は可愛い可愛いお人形を諭すように優しく柔らかで素敵な言葉を紡いだ。
「花子さんが僕の前で僕じゃなくてこのふたつを抱き締めて泣いてしまったおかげで彼らはこうして体も魂も僕と君のオモチャになったんだ」
きっとそれはとても素晴らしい事。
花子さんがこの二つを愛したようにきっとこれらも彼女を愛して慈しんでいたのだから
こうして肉体と魂を絡めとられて永遠をずっと共に過ごせるのは喜ばしい事だろう。
嗚呼、僕が少し頑張っただけでこんなに素敵なハッピーエンドが出来るなんて!!
ぷつり
「?花子さん……?」
「あは、」
何かが切れたような音がしたと思って不思議に思い彼女の顔を覗き込めば
僕はその表情に嬉しさを隠しきれなくなってこの上ない笑顔でぎゅうううっと彼女を強く強く抱きしめた。
「嬉しい!花子さん…そんなに嬉しかったの!?お礼に本当に壊れてくれるなんて僕…感激でどうにかなっちゃいそうだよ!!」
「あ……あは、」
彼女の表情はずっとずっと望んでいたそれで、
僕は本当に嬉しくて嬉しくて嬉しくて……
初めて幸せの涙をひとつ、こぼしてしまった。
嗚呼、花子さん…もうこれで僕だけしか見れないね。
「ふふ、花子さん……幸せになろうね?僕と……この使い魔たちと」
ちゅっと、壊れてしまった彼女の唇にキスをひとつ。
この広い部屋には僕と花子さんだけ。
そして扉の傍にはそれを虚ろな瞳で見守る元彼女の両親が二体。
これが幸せな家族という事か…
嗚呼、なんて素晴らしいんでしょう!
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