俺様的思考回路
そわそわ
ちらちら
………何ださっきから鬱陶しい。
今日はちょっと学校で嫌な事があってすっかり落ち込んでしまっていてもう何もしたくない。
重すぎる足取りで部屋に戻ってみれば何故か最愛がそこにいていつものように意地悪な笑顔で「ようチチナシっ!」なんて失礼な事を言ったきたけれど
今の私にはそれに対して反抗する気力もない。
頼むからそっとしておいてくれ。
いつもと様子の違う私に少しおろおろしてしまっている彼の横を通り過ぎてぼふんとベッドに横たわり今に至る。
…何をそわそわしてるのかわかんないけどいい加減行動がうるさくて仕方がない。
「………アヤト君何。どうしたの?」
「え、あ、やー…んっと、」
もぞもぞと体を動かしてじとりとさっきから落ち着かない最愛…アヤト君を睨めばようやくその動きはピタリと収まったけど
今度は何かを言いたそうな感じでもごもごと口を動かして目も泳ぐ。
……なんだ今日は。何か変なものでも食べたのか。
「あー…っと、おい花子!!バスケやろうぜ!!」
「は?」
ようやく泳いでいた目がこちらを見つめて私の問いに返ってきた空気の読めない発言に対して思わず眉間にしわが寄る。
…なんでいきなりバスケ?
ていうか二人きりでバスケとか無理だし。
更に言ってしまえば今私そんな事する気力ないっての落ち込んでるの位わかってよ彼氏でしょう?
さっきよりきつめに彼を睨みあげれば「うーうー」と困ったように唸りだして
今度はベッドの近くまで寄ってきて恐る恐るこちらの様子をうかがう。
なんだその態度。私は猛獣か何かなのか違うアヤト君の彼女だよ。
「何…、」
「じゃ、じゃぁたこ焼き!!たこ焼き食いに行こうぜ!!」
「……はぁ、」
私の不機嫌丸出しオーラにめげずに次に言い出したのは彼の好物を食べるためのお誘い。
いつもなら彼の為に喜んで外へと飛び出すけれど今はそんな気分じゃないと何度言えば分かるんだこの俺様吸血鬼。
…いや、実際には口出して言ってないけど態度で察してくれ。
ますます機嫌が悪くなる私を目の前に、彼のチャームポイントのアホ毛がしょんぼりとしおれたような気がした。
「なんだよ……何で元気でねぇんだよ花子」
「……何言ってんの?」
先程のような明るい声と打って変わってしょんぼりしたような声色に少しだけ焦り体を起こした。
だってアヤト君がこんなしょんぼりしちゃうなんて滅多にないんだもん。
すると彼は未だにしゅんとした声と顔でこう言うのだ。
「俺様の事大好きな花子は俺様が嬉しい事一緒にしたら嬉しいだろ?」
「…………ああ〜」
彼のバカ丸出しの一言にべしゃりと起こした上半身を再びベッドへと鎮める。
何だそれ。
どういう理屈だよ。
ていうか今までの空気読めない発言は彼なりの励ましだったのかくそう。
「お、おい花子…んだよ、また機嫌悪くなっちまったのか?」
「いやもう何ていうか…もう…どうでもいい」
顔をシーツに突っ伏させながら体を震わせる。
コイツ…俺様的な考え方もここまでぶっ飛んでいればもはや笑う事しか出来ない。
私がアヤト君の事大好きだから?
そんな私が好きなアヤト君の好きな事を?
大好きなアヤト君と一緒にしたら私の機嫌が直る?
何だそれ…な、何だそれ。
「ぶ…っくく…ふは…っ」
「…………何笑ってやがる」
遂に声も堪え切れずに漏らしてしまえば
さっきまでしゅんとしてたはずの彼の声色に怒気が含まれてしまってもう限界。
「あは…あはははっ!ア、アヤト君自惚れにもほどがあ…ぶふっ!」
「しょ、しょうがねぇだろ!?……こんなにへこむ花子とか初めてだし…どうやって慰めてやればいいとか正直分かんねぇんだよ。」
「だからって…ふへっ…か、考え方が…ぐふっ…お、俺様過ぎ…あっはははは!!」
「っだあぁぁ!うっせぇよ!!その様子じゃもう元気出たんだろオラ!ベッドから降りろバカ花子!!」
不器用すぎる上に俺様過ぎる彼の考えにもう腹筋崩壊は収まらない。
さっきまで何に対して落ち込んでいたのかとかそんなの思い出すことが出来ないくらいゲラゲラと笑ってれば
私に笑われたのがよっぽど恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした彼がずるずると私をベッドから引きずり出す。
「ひー…ひー…こ、殺される…アヤト君に笑い殺される…」
「るせぇ!!おら、行くぞ!!」
もう笑い過ぎて目からはボロボロと涙を零しているけれど
そんな私を見た彼が問答無用と言わんばかりにぐいぐいと手を引っ張る。
向かう先はどうやら玄関…
「アヤト君、どこ行くの?」
「………たこ焼き、食いに行くぞ。今日は奢っから。」
「ぶふぉ!!!」
ずんずんと進んでいく彼に問えばそのまま前をみたまま
こちらを振り向かず耳を真っ赤にしながらそんな事を言ってくれたけれど
本当はここできゅんっと彼の優しさにときめかなければならないのにさっきまでのアヤト君の行動がフラッシュバックしてしまって思わず吹き出してしまった私は彼女失格だろうか。
「む、無理…しばらくたこ焼きとバスケって聞いたら吹き出しちゃう無理…ぶふっ」
「チクショウ!!損した!!花子の事心配して損したぜ俺様!!」
必死に笑いを堪えようとしても吹き出してしまう私に悔しそうに喚いちゃう彼。
ちょっと申し訳ないなぁと思いながらもそれを止める術を私は持ち合わせていない。
ひたすらに笑いながらもぐいぐいと引っ張られて彼に続いて外へ出る。
耳まで真っ赤になった彼の表情がほっとしたものへと変わっていたのに
その背中だけを見つめて笑っていた私はまだ知らない。
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