カップヌドル
何かのきっかけでとある王様に気に入られて
私もそんな王様を気に入っちゃって…
お互いに友達以上だけれど恋人と言うのはなんだか違う気がするこの関係。
どちらかと言えばそうだ…親友、悪友に近いのかもしれない。
「花子、花子。これは一体なんなのかな?」
「これはですね、私でも使える魔法です。」
「おお…人間の花子でも魔法が…それはすごいねっ!!」
小さな小さなちゃぶ台の前でそわそわと正座しちゃっている一人の王様。
そしてそんな彼の前でドヤ顔を決めているのがこの私。
彼がこの狭い私の部屋に入ったのはもう三度目位。
初めてのときは「ここはお手洗いかな?」とか言い出したもんだから王様であろうがなかろうが関係なくその高貴な頭をひっぱたいたのはまだ記憶に新しい。
そんなとある世界の王様と庶民を極めし私の間にひとつ置かれている物体。
彼は先ほどから興味津々にソレを見つめている。
「嗚呼、駄目ですよカールハインツ様。三分まであと10秒です。」
「おっと、ごめんね?だって気になっちゃって…このカップヌドルと言うものが。」
「ノンノンノン、違いますよ。カップヌードルですヌードル。ヌドルではありません」
庶民の必須アイテム、カップヌードルを目の前に
格好悪くも呼び名を間違えちゃった王様に私のドヤ顔は止まらない。
だってこんな高貴なお貴族…というか王様に何かを教えてあげるというのは最高に優越感なのである。
まぁ内容はこんな風に庶民的常識と言うとんでもなく情けないものだけれど、だ。
ぴぴぴぴぴぴ
「!?」
「っしゃぁ!!!!」
三分経った瞬間アラームがいきなりけたたましくなったので思わず体を揺らしてしまったカールハインツ様なんか無視をして
私は気合を入れて勢いよくカップのフタをぺりりと破いてそのままゴミ箱へと放り投げた。
ことっ
「ふ…っナイスコントロール」
「お…おお」
放り投げたふたは見事にゴミ箱へとホールインワン。
今日はどうやら調子がいいようだ…
ニヤリとニヒルに笑えば王様はパチパチと間抜けな拍手で私の気分を更に盛り上げる。
「ほら、出来ましたよ?これが庶民ご愛用カップヌードルです」
「先程までの乾燥麺が三分間で普通の食べものになっている…素晴らしい、庶民の魔法は酷く実用的だね。」
ほこほこのとてもおいしそうなカップヌードルを彼の前に差し出してみれば感嘆の声を上げちゃう王様に苦笑。
普段は彼のお城に招待してもらったり、ダンスパーティに招待してもたっらりしていて何かお礼をしたいと言い出したらこうである。
「可愛い可愛い私の花子の世界をみせておくれ」
その言葉が本気だったなんて思ってなかったけれど
目の前の王様はそんな私をよそ目に普段なら絶対に口にしない特価80円のカップヌードルをゴキゲンに頬張っている。
「カールハインツ様…本当にこんなのでいいんですか?王様だからこんなの貧乏くさくて嫌じゃない?」
「花子、」
いつだって高級でお洒落でブルジョワな体験をさせてもらっているのに
お礼がこんなのとか申し訳なさすぎると少し顔を下げて呟けば降ってきたのは彼の柔らかな声色。
「ねぇ花子…花子は私の城やパーティに来て嬉しかっただろう?」
「?ええ、そりゃぁ…普段体験できない事ですから。」
「それと同じだよ。私にとってこのカップヌドルは花子にとっての大きなお城やパーティと同じなんだ。」
クスクスとおかしそうに微笑みながら
やすっぽいカップヌードルを未だにカップヌドルと呼びながら愛おし気に見つめる王様
そんな彼の言葉と表情に私の胸の内の罪悪感はふわりと消えた。
「こんな安いモノで感動とか…王様可哀想。」
「私としてもあんな下らないパーティで目を輝かせる花子は可哀想だと思うよ。」
「………ふへっ」
「………ふふっ」
互いに自身が飽きるほど過ごしている世界で感動してしまっている相手に同情して笑う。
ああそうだ、互いに違いすぎる世界で生きてきたからこうして共に過ごすのが刺激的で仕方がない。
だから私達は最愛と言う所までは敢えて辿り着こうとはしない。
互いの世界で生きてこうして相手の世界を覗き見る…それが楽しくて仕方がない。
愛より刺激を優先した私達は愚かなのだろうか
「うん、おいしかった。これはちょっと興味深いからエデンに持って帰ろう。」
「ラーメンだけじゃなくてうどんとかそば、後パスタとかもありますよ。」
「そんなにかい!?す…すごいね……もはやシェフいらずじゃないか」
ちょいちょいと空になったカップヌードルのパッケージを突きながらゴキゲンな彼に
更なる有力情報をくれてやるとその威厳に満ちた金色の瞳は見開かれ、キラキラとお星様のように光り輝くけれど
その原因がカップヌードルなのだと思うと彼には申し訳ないが笑いを堪え切る事ができない。
「ぶふっ、じゃ、じゃぁちょっと色んな種類のカップヌドル試してみましょうか。」
「駄目だよ花子、カップヌドルじゃなくてカップヌードル、だよ?」
「王様お前、」
おかしくて笑いながら彼の言い方をまねてあげると
今度は鬼の首を取ったようなドヤ顔で訂正されてしまったのでビキリと青筋を浮かべる。
嗚呼、やっぱり私達はこういう関係が心地いい。
後日、彼の息子たちが住んでいる屋敷に
エデンに入りきらなかったカップヌードルの山が送られてしまって彼ではなく私が余計な知識を与えたとして最高に咎められてしまったのはまた別の話。
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