無関心の存在


僕は別に期待もされてなければ
産まれてから素晴らしい才能を見出されたわけでもない。
まぁだからと言って生まれてこなければいいと最高に憎まれはわけでもない…




言うなら何も期待されないオマケの子。




こんなんだったらお前さえ産まれなければと
罵倒され続けた方が嬉しかったなんて言ってしまえば、実際そういう子は怒ってしまうだろうけれど
無関心しか与えられなかったこの数百年…
せめて憎しみでさえ僕に誰か向けてほしいと願ってしまう様になるほど僕の周りは無関心で溢れていた。




「ね、ねぇ花子ちゃん?今からとかちょっとやりすぎじゃないかな〜…んふっ」



「ちょっと黙っててライト君今祭壇作るのに一番重要な所だから」



「…………いやいやいや僕ヴァンパイアだからね?祭壇って何?僕の気分悪くする気満々なの?いやそれはそれで興奮しちゃうけど…」



本日僕は引きつり笑いで漸く見つけた最愛の背中を見守っている。
正直彼女は三日前から僕の事ぜーんぜん構ってくれなくて最高に寂しいのだけれど
何度構ってよってお願いしてもその目は一向にコチラを向いてくれる気配はない。
彼女の……花子ちゃんの熱過ぎる視線はかれこれ三日間ずーっと彼女お手製の祭壇が独り占めしている。





祭壇の少し上にはでかでかと「逆巻ライト生誕祭」の文字。




「花子ちゃーん…僕の事好き過ぎて仕方ないのは分かったから構ってよ〜!すっごく暇で死んじゃいそうだよぉ…放置プレイ飽きたぁ!!」



「私はどんなプレイでもライト君なら何百時間でも興奮できるって信じてる…っておお!飾りつけずれる!!」



「何それ!いくら永遠を生きるヴァンパイアな僕でも流石におんなじプレイをずっとされたら飽きちゃうってば!!」




やっと見つけた最愛は僕の事が大好きで溜まらなくて、それは時々こういった形で暴走してしまったりもする。
今回だって先月話の流れで何気なく「僕の誕生日は3月20日なんだよ」って話したらこれだ。
……まさか二週間前から自分の誕生日の準備をされてしまうなんて思ってなかったよ。




「いいじゃない!年に一度の大事な日なんだよ!?ちょっと位長めの放置プレイも我慢してよ!!」



「だから、僕の事が好きで祝いたいのは分かるけど本体放置とか本末転倒過ぎでしょ!?花子ちゃんって頭スッカラカンなの!?」




ぎゃいぎゃいと口喧嘩をしながらも彼女の手は止まる事をしらず、
僕と言葉を交わしながらも彼女お手製僕専用の祭壇は着々と完成に近付こうとしている。
全く……たかが誕生日ではしゃぎ過ぎデショ。しかも僕のなんて、




「………僕の誕生日とかどうでもいいでしょ。」








がしゃん、





いつまでも構って貰えずつい小さく口に出してしまった僕の本音。
瞬間、何かが崩れる音がして、そして僕はびたんと勢いよく壁にたたきつけられてしまった。
……勿論今ここには僕と花子ちゃんしかいないので、ヴァンパイアである僕を壁にたたきつけたのは紛れもない人間である彼女だ。





「花子ちゃん……?」



「ふざけるな」



「え、」




ぐっと壁に押し付けられて、戸惑っていれば
彼女の可愛い唇から地を這うような恐ろしい声。
びっくりして思わず素っ頓狂な声を上げると先程まで俯いていた花子ちゃんがギロリとコチラを睨みあげて僕の瞳を真っすぐ射貫いた。




「私はライト君が最高にだいすきなの」



「う、うん」



「なのにそんな私の前でライト君の誕生日がどうでもいい?」



「う、」



「ふざけないで」




ギリリ。
僕を壁にたたきつけてそのまま手首を縫い付けていた彼女の手に力がこもる。
所詮人間の女の子の力だからその気になればいつだって振りほどけるくらいの力なはずなのに僕は彼女の手に縫い付けられたままだ。
………それは彼女の瞳が何よりも真っすぐ僕を射貫いていて、彼女の声が真剣な怒気を孕んでいるから。





「大好きな逆巻ライトの誕生日を軽んじる馬鹿は例え本人であろうと絶対に許さない」





その言葉は部屋中に響いて、ついでに僕の胸の奥にも響いて何かを激しく揺さぶってきたのでたまらない。
いつだって期待されたわけでも憎まれてきたわけでもなく宙ぶらりん、無関心の中にいた僕は、
いつの間にか僕自身でさえ僕に対して無関心だったようで……




けれど目の前の彼女はそんな無関心まみれの僕を軽んじるのはたとえ僕であっても許さないと
酷く恐ろしい表情と声色で激怒するんだ……
嗚呼、誰かが僕の為にここまで感情を荒立ててくれた人がいるだろうか…
本人の僕でさえ……「逆巻ライト」に関心がなくなっていたというのに。




「………ごめんなさい。」



「許さないよどうしてくれるの、さっきライト君が酷い事言ったから思わず手元が狂って…ホラ、」




愛されてる愛されてるとは思ってはいたけれど
まさかここまで本当に愛してくれているとは思わなくて、
酷く嬉しいのと少しくすぐったいのと…あと本気で怒った花子ちゃんがちょっぴり怖かったのと
色々な感情が入り混じって素直に謝罪の言葉を紡いだけれど彼女は不機嫌なまま視線を背後へとむける。




そこには先程、僕の不用意な言葉で激怒した彼女が勢いで崩してしまった無残な僕の元祭壇。





「………」



「どうしよう…私、ライト君の誕生日は本気で全力ですべてを掛けて祝いたいのに…」




「えーっと、」




そもそも勝手に怒って手元狂わせたのは花子ちゃんでしょとか
ヴァンパイアの誕生日に祭壇なんておかしなもの作るのが間違ってたんだとか
言いたいことは沢山ある……沢山あるけれど
今僕が彼女に一番紡ぎたい言葉はそんなものじゃない。




「花子ちゃん、僕も手伝うよ。……逆巻ライト君の生誕祭の準備」



「…………ほんと?」



「放置プレイも飽きちゃったし…それに、僕自身が僕に無関心ってそれってどうなのって感じだし…んふっ♪」




自分の誕生日の準備を手伝うとか最高に恥ずかしい気しかしないけれどでも……
愛しい愛しい花子ちゃんにそんなこの世の終わりのような悲しい顔されちゃ仕方ないよね?




「ほーら、花子ちゃん…早くこれ、直して早く準備続きしよう?きっとこんなもんじゃないんでしょう?僕の生誕祭」



「うんっ!ええとね、祭壇とー後マカロンタワー作って…あとあとライト君の行きたいところとかも全部私がエスコートしてえっとえっと」



「………………ううん、僕の誕生日。最高に忙しそうだね…んふっ」




僕の言葉にさっきまで悲壮な表情をしていた彼女の顔がぱああと明るくなって
すっと手を離して指折り僕の誕生日計画を嬉しそうに話しちゃうから苦笑する。
嗚呼、どうしよう……
この数百年。誰にも関心を持たれなかった分、今一気に受け取っている気分だ。




でも、まぁ……




「ああー!大好きで仕方ないライト君生誕祭準備をライト君本人と一緒に過ごせるなんて夢のようだよ!!幸せっ!」




自分の誕生日、ここまで真剣に考えてはしゃいで喜んでくれる人がいるって
ちょっとくすぐったくてはずかしいんだけれど……うん、





「(嫌じゃ………ない、かも)」




数百年、誰にも…本人にさえ期待されず恨むこともされず
只息をしてきた無関心にさらされ続けた「逆巻ライト」は今年…




どうやら初めて好意と言う関心にさらされた誕生日を過ごすことになるらしい。



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