こっち向いてハニィ


初めてできた絶対に失いたくない大切な存在。
この女だけは何がなんでも愛し抜くと決めた。




「花子……愛してる」





彼女に向ける視線。
それは自分で言うのもアレだけど最高に暖かいものだと自負している。
なのに……なのにである。



「私もシュウさんの事、愛してます。」



俺の事を愛していると紡ぐ彼女の視線は壁。
真っすぐ彼女を見つめている俺の視線とは丁度90度直角の所にある。
そして俺はいつもの如くビキリと顔に青筋を浮かべる羽目になるのだ。





「…………おい花子。俺を愛しているならまず俺を見ろ。」





俺の彼女が美形に耐性なさ過ぎてつらい。





「だって無理ですよ私はシュウさんと違って美形に囲まれて生きてきた経験がないんです平凡、もしくはそれ以下の環境でぬくぬくと過ごしてきたのにいきなりハイスペックな顔を見ろとか拷問でしかない。」



「美形って言ったってそれ程でもないだとと言うかホントお前付き合ってんのに彼氏の顔を見ようとしないとか何事だ。」



「それほどでもない!?それほどでもない!?そ、そんなハイスペックウルトラ美しい顔をもってしてそれほどでもない!?じゃぁアレですか!!私にはもう生きてる価値もないと言うのですか彼女に向って失礼だ!!謝ってください!!」



「…………ご、ごめん?」




ガシリと彼女の肩を掴んで顔を視線の先へと持っていこうとしてもそれは全てひょいひょいとかわされてしまって一向に目が合わない。
花子曰く、俺の顔は今まで彼女が生きてきた環境の中からしたら飛びぬけて綺麗とか言われているが当の本人である俺的には全くその自覚はない。
……いや、学校でも魔界でもそれなりにもてはやされてはいるが、ここまで綺麗だと言う理由で全く見てくれないという事は今までなかったから。




「花子……けど俺もそろそろ限界。………寂しいんだけど。」



「知りませんよそんなの私を愛してるなら目合わない位我慢してください」



「……………」




流石に付き合い始めてと言うか出会ってから一向にこっちを向いてくれないので寂しくて、
正直にその気持ちを恥ずかしい気持ちを抑えて口に出したにも関わらずこの態度だ。
……俺の事愛してるんだったらお前こそこっち向けよ。






がしり




「!!」



「俺を誰だと思ってるんだ。逆巻家長男だぞもう力づくでもこっち向かせる。」





頑なすぎる彼女の態度にプツリと堪忍袋の緒が切れて
花子の頭を両手で捉え、ギリリとその手に力を入れる。
そっちがその気ならもう花子の気持ちなんて知らない。
俺だって寂しいと何度言えば分かるんだ。





そう、ここからは戦争だ。





ぎりりりり




「ほら花子、こっち向け。愛しの俺の顔を見ろ」



「い、いやだ!!誰がそんな綺麗な顔見るか!!美しすぎて目が潰れてしまう!!」



「知るか潰れろ何度でも眼球入れ替えてやる……って首の力つよ…」




ギリギリと彼女の首をこちらに向けようと思い切り力を入れるけれど
どうしても俺の美しい顔を見たくないのか頑なにその首が回る事はない。
……このままだといずれ花子の首がぽっきりと折れてしまうんじゃないかと思う位俺達の攻防は理由は下らなくとも本気だ。




「俺の事が好きなら俺の顔だって好きだろホラ、早く……っ」



「シュウさんの事は大好きで愛してるけどその顔は綺麗で可愛くて麗しすぎていやだぁぁぁ!!!」



「おま…っ、………くそう、絶対こっち向かせてやる。」




思い切り力を入れながらも彼女を説得しようと言葉を掛けるけれど
返ってきたのさ賛美の嵐と同時に拒否の言葉。
嫌いって言われてるのにその理由が大絶賛の嵐なので俺の表情はなんとも複雑だ。




「こっち向け彼女」



「無理言わないでダーリン」




「「……………くっ」」




人間と吸血鬼の本気の戦い。
まさか只の人間の女にここまでの力が眠っているだなんて思わなかった
火事場の馬鹿力なのか人間の心と言うやつに反応してここまでの力を出しているのか…
………いやいやいや綺麗すぎる俺の顔をどうしても見たくないと言う強い心の意思なんてこの俺がぶち壊してやる。




「花子……いい加減諦めろ。所詮人間はヴァンパイアに敵いはしないんだ。」



「シュウさん人間を甘く見ないで。私達は強い意志さえあれば貴方達だって超えられる強い生き物なんです。」






「………ダル男と花子は花子の頭掴みながらなんの話してんだ。」




彼女の頭を掴んでの攻防戦は数時間に渡り繰り広げられ
それを見たアヤトが言葉と行動が噛み合っていないと首を傾げてこちらを見ていたのに気づくのにあと数時間。




ねぇ花子、こっち向けよ馬鹿。
俺の顔を好きすぎるのもちょっと大概にしてくれよ。



(「あーくそっ、誰か俺の顔面今すぐ殴ってくれ。そしたら多分花子こっち見れる」)



(「そんな愛しくも美しい顔に傷なんか付けられたら私死んでしまう!!」)



(「だったら早くこっち見ろって言うんだ…っ!」)



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