四月馬鹿の王様


ペラリと明日に向けてカレンダーをめくろうとしたとき。
ふと目に入った一日と言う文字と上の方にでかでかと書かれている四の数字に思わず声を出してしまった。




「あ、明日エイプリルフールじゃないか」



「エイプリルフール?」



「……………」




思わずつぶやいてしまった私の言葉に背後から間髪入れず、興味津々ですと言った声色で問いかけてくる彼に
自身の軽率な行動を最高に後悔してしまった。
そうだ今日いたんだった……我が家に王様。




「私は何も言っていない。断じてです。」



「私はこの耳でしっかりと聞いたよ花子。エイプリルフール…そうか明日は噂には聞いていたがその行事の日なんだね。」



「……何そわそわしてるんですか王様。私は付き合わないですよ。絶対に。」



「嫌だよ、こんな行事に付き合ってくれるのは花子位なんだから明日……ね?」



「ね?じゃないですよ無駄にセクシーな声使って嘘つくオネダリしないでください子供か。」





こんな行事、口にしたら庶民の生活に興味津々な王様だったらすぐに食いついてくること位わかり切っていたのにどうして私は口にしてしまったんだ。
現に見てみろ……声が聞こえてきた背後を振り返ればカールハインツ様…すっごくそわそわしてるじゃないか。
いかん、どうやら明日私は吸血鬼王に嘘つかれてしまうらしい。





小さなため息がひとつ、
漆黒の闇に飲み込まれて消えてしまったが内容はそんなシリアスなものでもなんでもない。





いや寧ろ私にシリアスを寄越して欲しい。
毎度毎度庶民の生態研究に熱心な王様に振り回されて花子ちゃん疲労困憊。








「聞いておくれ花子。実は私の息子達は娘だったんだ。」



「……………」




王様マジ殴りたい。




昨日…と言うか今日の早朝まで「どんな嘘をつこうか」とはしゃぎすぎて
色んな案を出しまくるカールハインツ様の話に付き合わされて眠ったと言うか意識が落ちたのが午前10時。朝だ。
漸く決まった嘘を伝えるためにすやすやと眠っていた私を叩き起こしやがったのが正午きっかり。



まさか120分で叩き起こされるとは思ってなかった。
流石ドS集団逆巻家の父親である。自分本位過ぎてもはや反論する言葉さえ出ない。




そして二時間睡眠から強制的に叩き起こされてその五分後に囁かれた嘘がこれである。
おう、王様。
何時間もワクワクして考えた割には内容が最高に下らない。





「(くそう、殴りたい……殴りたいのに目がすごい輝いてる殴れない…なんか可愛い)」




じっと私のリアクションを期待している金色の目がいつも以上にキラキラと輝いているので
「そんな下らなさすぎる嘘で起こすな」とも言えず、ましてや無言でその頭をぶん殴る気にもなれず
どうしたものかと数秒あまり働かない頭をゆったりと回転させて一つの考えに辿り着く。





「残念です…カールハインツ様。」




「?何が残念なんだい?花子…」




私はいつもより大げさにガックリと肩を落とし、視線を床へとむけた。
その表情は彼には見えないだろうが今の私は最高にゲス顔である。
………いじめてやる。
それもエイプリルフールの逸話で所説ある中のひとつを用いていじめてやる。




顔を下に向けたままニタリと口角を上げて
いつも散々私を振り回しているカールハインツ様にささやかなる復讐の言葉を紡ぎ始めた。
王様よ……これで少しはしょんぼりして庶民の行事から遠ざかるがいい!!!




「エイプリルフールで嘘をついていいのは午前のみなのです……なのにホラ、今は…」



「嗚呼、なんという事だ………私は間に合わなかったと言うのか。」




ゆったりと顔を上げて酷く悲壮な表情を作りどっかで聞いた所説の一つを呟き、現在12時5分の時計の針を指さしてやれば、彼は酷く落胆してしまった顔になったので内心私はガッツポーズである。
ざまぁ見ろカールハインツ様めこんなの正直誰も守ってないよ。




目の前で落胆するカールハインツ様に胸の中で爆笑しながらも
調子に乗った私は更に彼へ追い打ちの言葉を掛けてやる。




「知らなかったとはいえ無意味な嘘をあの吸血鬼王がしてしまうなんて……嗚呼、これは由々しき問題ですね」




「…………そうだね」



「嗚呼、困った……こまり、ました、ね……っ」




「…………、」



私の追い打ちの言葉にすっごくシリアスな雰囲気で考え込むカールハインツ様に笑いがこみあげてきて辛すぎる。
ヤバイ……今年のエイプリルフール王様からかって最高に楽しい!!
そろそろいい加減可哀想なのでタネあかしをしてあげようと口を開いた瞬間
いつだって何事もぶっ飛んだ考えを起こす彼からやはり今回も最高にぶっ飛んだ言葉が紡ぎ出されてしまった




「そうだ。すべて真実にしてしまえば全く持って問題はないね」




「は?」





次の日、逆巻六兄弟が女子制服で登校して嶺帝学院高校の伝説になってしまったのはまた別の話。
………そして彼らが終始コチラを睨んでいたのは気のせいだと思い込みたい。







「ふふっ、私を騙そうなんて……2000年早いよ花子。」



エデンで彼らに睨まれて滝汗を流している私を使い魔越しに見つめて微笑んでいる王が
小さく「私をからかおうとしたお仕置だ」と呟いたのは誰も知らないまま……




どうやら私はこれからもこの庶民大好きな王様に振り回される日々が続いてしまいそうだ。



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