普通恋愛希望系変態


誰も僕の事なんて見てくれなくて
僕もそれでいいやって思ってた…



でも




でも…うん




「私、ライト君がだいすきっ」




初めて僕を…僕だけを見つめてくれたその瞳は
ずっと望んでいたものだったはずなのに真っすぐすぎて少し怖くて




「そう?僕もビッチちゃんの事だーいすきだよ?んふっ♪」




目の前に差し出されたその手をいつだって
「お前はその他大勢の女と同じだよ」と遠回しに伝えながらも振り払ってきてしまっていた。




けれど、うん。
そろそろ……いい加減その手を取らないと僕が望んでいたものは二度と手に入らないんじゃないかなぁって
少し、不安に思っちゃったんだ。





「ビッチちゃん、あのね?」



「ん?なーに?ライト君。そして今日も名前を呼んでもらえないのか……うぅ」




今日も今日とて僕の傍にいてニコニコと嬉しそうなビッチちゃん…名前は花子ちゃん。
彼女は僕に名前を覚えてもらってないと思ってるみたいだけれどそんな事はない。
花子ちゃんが僕を真っすぐに見つめてくれてるってわかったその日から名前なんてすぐに覚えてた。




けれど名前…呼ぶのが少し恥ずかしかったのと
君を他のビッチちゃんと違うって認めるのが少し怖いのとで今までずっと呼んでこなかったんだ。
けれど僕はもう決めた……今日も僕に名前を呼んでもらえないとしょんぼりしてる君に今日、ほんとうの事を言うって。





君が僕を好きでいてくれてるのと同じように
僕も少し前から君に惹かれていたよって…だいすきだよって




「ええと、ビッチちゃ………花子、ちゃん」



「!?」



「………ちょっと名前呼んだくらいでそんな顔しないでよ僕も恥ずかしくなっちゃうじゃないか。」




こほんと一つ咳ばらいをして彼女の名前を初めて声にして紡げば
その目は限界まで大きく開かれて顔は一気に真っ赤になってしまってそれに伝染したように僕の顔も少し赤くなる。
ねぇ花子ちゃん、名前呼んだだけで固まっちゃうならこの後の僕の告白でどうなっちゃうの?




この先の彼女の反応を想像して少しばかり興奮してしまう僕は
やっぱり自分で言うのもなんだけれど変態なんだなぁって思う。




うん、けれど花子ちゃんはこんな僕も大好きでいてくれるよね…
なんて、僕はいつの間にか君を信用しきってしまっているようだ。




「あのね、花子ちゃん……」



「ライト君?」



「僕、花子ちゃんが好きだよ。……愛してる、と思う。」


仕切り直しと二度目の咳ばらいをしていつも彼女が僕を見つめてくれていたようにじっと真っすぐその瞳を射貫く。
嗚呼、これ…すっごく緊張する。



いつだってヒトも世界もひねくれてしか見てこなかった僕にとって真っすぐ誰かを見つめるのって酷く怖くてドキドキしてしまうんだなぁって
呑気にそんな事を考えていたら花子ちゃんはぽかーんと口を大きく開けたままとあるものを取り出して僕は顔面蒼白。
え、まってまってどういう事?




「花子ちゃん……?え、何?どうしたの?そ、それ銀のナイフだよね」



「よし死のう」



「ま、まってまってまって!な、何で!?花子ちゃん僕の事が好きなんだよね!?両思いだよ!?なのに何で死んじゃうのまって!!」



「止めないでライト君!!私はこの幸せの絶頂のまま死にたい!!!」



「僕を好きすぎるあまり色々こじらせ過ぎデショ!!!」




一世一代の僕の告白に取り出されたのは銀のナイフ。
一瞬それで僕を殺すのかと思いきやそれの矛先を彼女自身へとむけたので慌ててその手を取って必死に止めたけれど…
ちょっと花子ちゃん僕が靡かない時間が長すぎたせいで色々とこじらせちゃってる!!
僕が言うのアレだけども!!




「ご、ごめんって!!今まで塩対応だったの謝る!!謝るから幸せのまま死ぬとか言わないで花子ちゃん!!僕らまだ始まったばかりと言うか始まってもないよ!?」



「いやもう名前呼んで貰って両想いの事実を知っただけで私は十分だよ幸せのまま死なせてライト君愛してた」



「どんだけ僕花子ちゃんに対して酷かったのかなぁ!?ていうかさっきから言ってるけど始まってもないのに過去形にしないでよ!!」




ギリギリと彼女の胸を貫こうとするナイフの行く末を僕と花子ちゃんで争って口でも言い争い。
ねぇ、僕…君を突き放してはいたけれどそこまで……名前呼ぶのと告白するだけで感激しすぎて命絶とうとする位塩対応だったかな!?




「ああもう!」



「!」



力任せに花子ちゃんからナイフを取り上げてその華奢な体を力いっぱい抱き締めた。
自業自得とはいえ、こんな事だけでここまで感激させる程今まで花子ちゃんを傷付けていたのだと思うと胸が痛い。



「今までごめんね、花子ちゃん……僕は愛されたことがないから愛ってのがよくわからいけれど、それでもこれからは僕なりに愛するから赦してよ…」



「ライト君………、」



「ね?だらか死ぬなんて言わないで?」



そりゃぁヴァンパイアにとって死は祝祭だけれど花子ちゃんは人間だ。
それに正直ちゃんと僕を愛してくれている彼女に今死なれてしまっては僕はまた一人ぼっち…それは流石にキツいものがあると言うものだ。
ぎゅうぎゅうと離さないように抱きしめる腕に力を込めればそっと背中に回される戸惑いがちの腕が心地いい。




「分かった……ライト君を殺そう」



「え」



「だってこんなここまで愛されてるの実感させられて後で気が変わったとか言われたらさすがの私でも無理。今私を好きなままでライト君を殺せば……」



「…………ねぇ、さっきから発想が物騒すぎるよ花子ちゃんここまで追い詰めちゃってホントごめんなさいだから殺さないでまだ僕花子ちゃんとやりたい事いっぱいあるんだから。」




思わず語尾のんふっ♪が抜けてしまう位の彼女の追い込まれっぷりに思わず顔が引きつってしまう。
困った……本当に困った。
花子ちゃんが僕を真っすぐ見つめてくれていたのは知っていたけれど
真っすぐすぎてそれをかわしまくった結果ここまでこじらせていたとは思ってなかった。




「もおおおお!僕は花子ちゃんと普通の恋愛がしたいの!!どっちかが死んじゃうようなサバイバルラブはレベルが高すぎるよ!!」



「えぇ!?ライト君が普通の恋愛!?魔界に精神病院ってあった!?隔離してもらう!?」



「食いつく場所が違うよね!?しかも相当失礼だからね!?分かってる!?」




腕の中で僕の願望を聞いた彼女が顔面蒼白になって最高に失礼な事を言っちゃうものだから僕だっていい加減顔面に青筋が浮かんじゃう。
ああもう、こんなことになるんだったら君が僕への愛をこじらせちゃう前に僕が素直になればよかった。



「ああもうっ!花子ちゃんと普通の恋愛がしたーい!!!!!」



普通の恋愛をした事のない変態の僕の悲痛な叫びが辺り一面に響き渡ったけれど
それは一番届いてほしい腕の中の花子ちゃんにさえ届くことは無く空気に溶けて消えてしまった。




ああもう!
想いが届かないってここまで辛いだなんて思わなかったよ!!





僕と彼女の恋愛はどうやらスタートする前から
相当な危険信号が点滅しちゃっているようだ。




まずは殺す殺さないの所から改めようか、花子ちゃん。







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