手を叩こう


しあわせなら手を叩こう






ぱんっぱんっ






「なぁに…?それ……」



「ええとね、子供の頃に聞いた童謡。幸せなら手を叩こうって……ぺちぺちー!」



俺の隣で嬉しそうに笑う花子が突然変な歌を歌いながら手を叩いたので
どうしたんだろうって思って聞いてみると、彼女は変わらない笑顔でその歌の意味を教えてくれた。
どうして幸せなら手を叩くんだろうって少し疑問に思ったけれど
花子が本当に幸せそうに俺の隣で手を叩くから深くは考えなくてもいいかなぁ…なんて。





ぺちぺち




「!」



「俺も…今、すごく……しあわせ」



「……うんっ!アズサ君、お揃いだねっ!!」




彼女がそんな歌を歌って手を叩くので、
きっと花子は「今、しあわせ」って俺に伝えたくて手を叩いてくれてるんだと思って
「俺もだよ」って言う意味で彼女に合わせて控えめに手を叩いた。





俺も花子も、お互いの傍にいるだけでこんなにもしあわせ…
嗚呼、なんて素敵なんだろう。




ぱんっぱんっ
ぺちぺち




叩く手の音は止まらない。
俺と花子の笑顔もそれは同じ…
嗚呼、本当にこんな日々が続けばいいのに…




「しーあわせならてーをたたこうっ」



「しー…あわせなら…てーを……ふふっ」



二人で顔を合わせながら叩く…ああ幸せ…しあわせ
けれど…




歌に終わりがあるように
俺達の関係にも終わりが来るって事……ちゃんと分かってる










「嗚呼、花子……今まで頑張ってくれて本当にありがとう」



腕の中で瞳を閉じている花子に穏やかに微笑みかける。
もうその綺麗な瞳は俺を映してくれることは無い。




花子は覚醒の出来ない普通の人間。
だから俺と関わって混じりあって血を捧げ続けていればいずれこうなる事は分かってた。
けれど……それでも俺達は互いの隣に居る事を選んだ。




「花子……花子はしあわせだった?…俺といて……しあわせだった?」





もうすっかり白くなった肌を撫でながら問うても答えはない。
俺が壊してしまったのだから当たり前なんだけれど……
それも全部覚悟を決めて一緒に居たんだけどそれでも心配で。




そんな時、どこかでぺちぺちと
手を叩く音が聞こえた気がした




「そっか………そう、だよね……花子、しあわせ……だった、よね」





あの日、俺と二人で笑い合って手を叩いた日…
きっとあの花子の笑顔に偽りなんてない…
俺も…俺だって……こうやって花子を壊してしまったって言うのに…




「しーあわせ、ならてーをたたこう…」



静かに音に乗せて紡ぐ言葉。
あの日みたいに二人じゃなくて一人だから少しだけ寂しい。
けれど……けれど俺達は間違いなく…





しあわせだったよね?






「しーあわせ、ならてーをたたこう…」





ぎゅうと次第に固くなっていく彼女の体を強く強く抱きしめて独り、歌う。
俺に壊されたとしても…
君を壊してしまったとしても…




加害者と被害者なのに
俺達は間違いなく幸せだった。





(しーあわせならてーをたたこう♪)




(ぺちぺちっ)





(ね、お揃いだね。アズサ君。)


(ん、お揃いだね。花子。)



戻る


ALICE+