慰めニュー
「………」
「………」
「………ぐぅ」
「ひどいっ!!」
今私は愛しい愛しいシュウさんのベッドの上で沈黙を守りながらごろんと寝転がっている。
今日は酷く落ち込んでいる気分で、シュウさんに慰めてもらおうって思って彼の部屋に乱入して
そのまま無言でベッドへ侵入した。
いつもシュウさんシュウさんすきすき愛してるがもはや鳴き声になってしまっている私のこのただならぬ態度を見たら「どうした?」って聞いてくれるって思ったのに現実は酷く残酷だ。
「しゅ、シュウしゃぁ……」
「………ん、」
「う、うわああああん!!起きて!!起きてよシュウさん!!私!!私落ち込んでますよ!?愛しの花子ちゃん今日ダダへこみタイムですよシュウさぁぁん!!」
事もあろうに彼は私の侵入を薄目で認識して、様子だっておかしいのは気付いていたはずなのに
そのまま何事も無かったかのようにもう一度目を閉じて夢の中へと旅立とうとしたのである。
そんなひどすぎる一応彼氏であるシュウさんの態度に涙をぶわっと溢れさせながら今日持てる力全てを使って彼の体を思いっきり揺すった。
「うるさい。俺は眠くて仕方ないんだ睡眠の邪魔するな。」
「う…ふぐぅ…じゅ…」
「……………はぁ」
ようやく目を開けてくれたけれどその視線はいかにも不機嫌でござい。
今日落ち込んでるのは私なのにこんな扱いあんまりだと遂に溢れた涙は零れ落ちてついでに鼻水だって垂れ下がる。
うう…私、報われなさすぎる。こんな日だってこんな扱いだなんて…
今日くらい優しくされたい。
「う”ぇ…じゅ…う”ええええ」
「あーあーあーもうきったねぇ…ホラ、」
「んんんんっ!!」
涙も鼻水も止まらずにずびずびと不機嫌顔のシュウさんに嘆いていれば
流石に見かねたのかシュウさんがもぞもぞと体を起こしてティッシュをこちらに差し出したのでそれを奪い取ってちーんと鼻をかむ。
そしてぽいっと近くにあったゴミ箱にそれを投げ入れたら響くながーい溜息。
「で?どんな理由かわかんないけどへこんでますアピールがウザったい俺の最愛は何をご所望なわけ?」
「しゅ…シュウさ…」
「ほーらー。早く言わないとまた寝るけど?」
ようやく出た彼の優しい?言葉にもう一度涙をあふれさせるけれど
どうやら彼は文字通り吸血“鬼”らしく、私に感激する時間さえも与えてはくれない。
「寂しくて悲しいので沢山ぎゅうして頭なでてください…」
「ならもっとこっち来てくださーい」
「シュウさぁぁぁぁん!!!」
「ん、…っておい花子服に鼻水こすりつけたらタダじゃおかないからな」
ぼそぼそと今日彼にしてもらいたい慰めメニューを呟けば私の口調をからかい気味に真似た彼がゆったりと両手を広げて「おいで」の合図をしてくれたので大声で喚き散らしながらその腕の中へと飛び込んだ。
いつもよりちょっとキツめに抱きしめてくれる腕にもう涙腺は大崩壊。
涙はとめどなく溢れてこぼれちゃうから彼の服はあっという間にぐっしょりだ。
「なでなで…なでなではまだですかシュウさぁぁぁ」
「あーはいはい…ったく、こんな慰めを強要してくる彼女ってどうなの。」
もう待ちきれなくて彼の胸元に顔をうずめっぱなしで催促すればもう一度つかれた溜息の後にふわりと頭を撫でる心地よい感触にふにゃりと力が抜ける。
私はこの温度の無い圧迫感とすこしごつごつした感触の手が何よりもだいすき。
「ったく…花子の我儘に付き合う俺も俺だけど」
「それはシュウさんが私の事大好きだから仕方がない」
「調子に乗るな」
小さくぼやかれたその言葉を逃すことは無く
未だにぐずりながらも彼が私に甘い自惚れた理由を呟くとさっきまで優しく撫でていた手が無造作に激しくなり私の髪をかき乱す。
「う、うわああ!鳥の巣!!鳥の巣になっちゃったっ!!しゅ、シュウさんのバカ!!どえすっ!!」
「ふは…っすっげぇぶっさいく…くくっ」
「か、彼女!!彼女に向かってブサイクって…ブサイクってぇぇぇ!!!」
余りのも激しいなでなでに思わず顔を胸元から引きはがしそっと頭を触れば鏡を見なくてもとんでもない事になっている事が分かって叫び散らす。
涙と鼻水の跡ときっと赤いであろう目と鼻…そしてぐっしゃぐしゃの髪形を見て彼は思わず吹き出してるけど私は激怒である。
「あーもう、だからうるさいって…」
「わっ」
ぎゃんぎゃんと彼に抗議していれば彼はまためんどくさそうにため息を付いてがばりと私に覆いかぶさってしまう。
何事だとされるがままでいればそのままもぞもぞと私を包み込むように抱き込んで小さく唸る。
「シュウさん?」
「ほーら、おやすみ。…アンタ馬鹿だから寝たら嫌な事も忘れるだろ」
「だ、だからなんで私そんなシュウさん、ぅむ」
「ん…、」
彼の中の私のポジションに異議を唱えたくてもう一度叫ぼうとしたら塞がれた唇。
それがどうしてだか酷く心地よくて魔法にかかったように私はそのまま眠りに落ちてしまった。
「おやすみ、花子…明日はきっと良い日になるさ」
穏やかな声と共にもう一度と、触れたその唇の感触を
既に夢の中の私は味わう事の出来ないまま…
只それも彼の魔法なのか穏やかなその夢で嫌な事全部忘れて笑っていた。
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