好感度


人間と言うものは自分にとって嬉しい事をされると相手を好きになるようで…
そういうのは種族は違えどこの最愛にも通用すると勝手に思ってる。



ましてや元人間なんだから尚更だ。




「んんん、ユーマ君よしよし。」



「………花子、お前俺の事甘やかすのスゲェ好きだよな。」




私の胸元のふわふわな髪をやんわりと梳かしながら
そっと何度もいつもなら手を伸ばしても絶対に届かないその頭を優しく撫でてやる。
言葉は乱暴でも私を振り払わず心地よさそうに瞳を閉じているところを見るとこうされるのが彼は嬉しいのだろう。
…こんな事口にだしたら照れてしまってもう二度とさせてもらえないので絶対に言わないけれど。




「後こういう事をするのも大好きだよ?」



「…?、ぅお!?」




そんなわざとらしい台詞を吐いてその頭を抱え込むようにぎゅうっと抱きしめると
少しばかり動揺の声が聞こえたけれど、あくまで抵抗はしない彼はやはり隠そうとはしているがこうされたい甘えたのようだ。




「それにしてもユーマ君も最初に比べたら随分と私の事好きになってくれたよね。」



「あ?あー……まぁ彼女だし?」




私のそんな言葉に抱き込んだそれは少しばかり熱くなった気がして
普段より歯切れの悪いその返答に小さく吹き出してしまった。



なんだかんだと紆余曲折があって付き合うことになった私とユーマ君。
付き合いたての時と比べて確実に彼の私に対する態度は軟化したし、同時にこうして私のお願いだって嫌な顔をせずに聞いてくれることが多くなった。



「今日もしゃがんでってお願い聞いてくれてありがとう。」



「…………もうよっぽどじゃねぇ限り花子のオネダリ断らねぇよばーか。」



「………そっか、」




彼の嬉しい事。
頭をなでたりこうしてぎゅってしてあげることは身長差のある我々としては彼の協力が必要不可欠で…
付き合い始めの時にこのお願いをしたら「何企んでやがる」とすごい形相で睨まれたのを思い出す。
それがこうして「しゃがんで」とお願いすると二秒後に「ん」とだけ言ってしゃがんでくれるようになったのだと思うと感慨深い。



「いやぁ、やっぱり好感度って大事だよね。」



「んだよ好感度って。」



「ユーマ君が私を好きな値?」




私が彼の嬉しい事を進んでする理由は二つ。
ひとつは最愛の喜ぶ顔が見たいから。
これは恐らく当たり前で…あと一つは、




「ユーマ君、ユーマ君。すき、大好きだよ。愛してる。」



「はっ、そうかよ。………俺も、愛してる」




何度の彼の名を呼んで紡ぐ愛の言葉に同意の言葉が返ってきて胸がドクリと跳ね上がる。
嗚呼、今日も彼に愛を囁く事を許してもらえた。




人は嬉しい事をすればするほどその相手に好意を抱く。
それは恐らく吸血鬼だけれどユーマ君も同じで…
好意が高い相手には許容が生まれる。
……好意と言う感情が低い時には許すことが出来なかったものが高ければそれを許容して許してしまうのだ。





私は彼に愛を囁くのを許し続けてもらいたい





「ユーマ君、愛してる。愛してるの、だいすき。」



「あー…っと、あんま煽んな花子チャン。これ以上俺の好感度?あげたらこの場で抱き潰しちまうぞ。」




「……うん、いいよ。ユーマ君なら大歓迎。」




ぎゅうぎゅうと彼の頭を抱き込んで今日も積もりに積もった彼への愛をぶつけていると
そのまま視界がグラリと揺れて床へと倒され形勢逆転。
…二つの意味で私は抱かれてしまいしそうだ。




「ユーマ君、ユーマ君の嬉しい事もっとする。…そしてユーマ君の好感度をもっと上げるの。」



「なんでそんなに上げてぇのかねぇ…俺の花子は、」



「んぅ、」




先程まで彼を抱いていた腕で今度は縋るようにその太い首に抱き着くと
困ったような、意地悪なような微笑みで返されてそのまま深く唇を塞がれた。
もういい、喋るなと言われているみたい。



…きっとユーマ君は知っている。
私が彼の嬉しい事をする二つの理由を。
それさえも黙ってかなえてくれている彼に
私はよっぽど愛されているなぁ…好きでいてもらえてるなぁと思い、胸の内で歓喜した。




別に愛し合っているのだから溢れた愛の言葉を使うのに許容もなにもないだろうと人は思うだろうが私は違う。
怖いのだ。
彼の中で一定の線を下回ってしまう瞬間が。




「さぁて、これから花子チャンの好感度を上げるとするか。」



ニヤリとまさしく野獣のような瞳で射貫かれて、全身にゾクリとした感覚が走る。
こんな愛しくて大好きな視線だって彼の中の線を下回ればもう二度ともらえない。
好意を積み重ねるのは酷く大変で時間がかかるけれど
それを落とすのは一瞬で、再度積み重ねることが酷く難しいのは面倒な人間社会で嫌と言うほど私は知っている。



「……、」



ぐっと縋る腕に力が籠る。
離さないで、捨てないで、と…必死に縋る。




私も、私の愛も、と…




そうしたら今度は私が彼の大きな腕に包み込まれて
ずいっと無遠慮に顔を覗き込まれてしまった。




その表情の真意をまだつかみ取れないまま、
只私はまた溢れる愛の言葉を紡いで許容される。




いつかその、嬉しそうな、悲しそうな…それでいて困ったような表情の真意をどうか教えてほしい。




始まった行為と自身の甘い声に
「お前だけじゃねぇんだよ」という切なる言葉は
まだ、私に届くことなくかき消されて消えた。



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