わがままと自己犠牲


こんなのどうせ円満すぎて中々前に進まない私達を見かねての行動だとは思う。
思うけど…うん



「そ、れでも…ちょっと、許せない…かも、」




「花子……無理するな座れ。ゆっくり…ゆっくりな、」




ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返して
震える足で精一杯頑張って立っている私を見かねて
申し訳なさそうに眉を下げた最愛はせめて楽になれる体制にと着席を勧めてくれるけれど…
嗚呼、別に貴方は全く悪くないのにどうしてそんな顔をするの。




「ル、キ…く…大丈夫…大丈夫だから……んぅ、」



「すまない…後でコウはきちんと躾をしておく」




ゆっくりとその場に座り込んだけれど
布の擦れる感触だけで息は荒くなり甘い声が出てしまう。
するとルキ君はそんな私を見て本当に悲しそうな顔をするけれど
実際に謝ってもらいたいのはルキ君がさっき口にした名前の次男馬鹿である。




私とルキ君が付き合う様になってから経過は順調。
喧嘩もなく穏やかな…穏やかすぎる時間が流れていた。
しかしそれをあの次男坊は良しとしなかったようなのだ。




「も、コウく…の、ばか…媚薬とか…ありえない…っ!!」



「花子……、」



「っ!」




息も絶え絶えに諸悪の根源に文句を叩き付ければ
そんな私の頬にルキ君がそっといつものように頬に手を添えてくれたけれど
今はそんな優しい彼の行動さえ私には凶器だ。



穏やかすぎる日常。
喧嘩も無ければキス以上の行為だってない関係。
別に私たちはそれで満足していたのに…こんな余計な事を。




ゆっくり進んでいきたかった彼との関係をじれったく思った外野が
私の飲みものに媚薬を仕込んでこの状況だ。
どうやら初めからこうなる事を見越していたらしく部屋の外からはガッチリと鍵を掛けられて出ることが出来ない。
今は私とルキ君完全に二人きりの状態である。




「花子、花子…すまない。」



「だ、だから…ルキ君は悪くな……ルキくん?」



「辛いんだろう?」



何度も私の名を呼んで謝罪の言葉を掛けてくれるルキ君に
私も同じ回答を繰り返していれば徐に目の前で上着を脱がれてぎょっとする。
え、ちょっとまってルキ君…そんな、いや、まぁ…関係進んじゃうのは嫌じゃないけれど心の準備が…



媚薬と、いつもならこんなの見せない大胆な彼の行動へのときめきとで
ドキドキが収まらず、必死に息を整えようとしているさなかに
彼の口から私の青筋が派手に切れてしまう言葉が紡がれた。




「俺の体を使え。このまま花子が辛い思いをするなら…」



「…………はぁ?」




自分でも、
自分でもびっくりするくらい低い声が出てしまい
苦渋の選択と言った感じの表情のルキ君の瞳も大きく見開いた。




そりゃそうだ。
私今までルキ君にこんな態度取った事ない。




「…………ルキ君」



「どうした…」



「私達、付き合ってるんだよね」



「は?当たり前だろう?」




先程まで媚薬の効果でその場に立つことさえ困難で座り込んでいたにも関わらず
ゆらりとその場で立ち上がり、一歩…また一歩と最愛のルキ君の方に歩み寄る。
いや、今の私の表情と気持ちからしてみれば歩み寄るという寄りから詰め寄るといった言葉の方が正しいのかもしれない。




「じゃぁ何“使え”って。私にとってルキ君はなんなの大人のオモチャか何かなわけ?」



「…っ、べ、別にそういう意味で言ったわけじゃ」



「もういい黙って」




もう彼との距離何てゼロに近いところまで近づいて
下から限界まで睨みあげる。
余りにもの豹変っぷりに彼は少しばかり狼狽えを見せるけれど
媚薬で回らなくなってしまった思考回路ではそれさえもじれったいし面倒だ。




普段からちょっと思ってたルキ君の悪いところ。
いつだって俺はいいからって私を優先してくれるけれどそれは嬉しいというより悲しい。
今回だってその言葉……使えとか、自分を道具みたいに言って…



狼狽え私を宥めようとして出てきそうだった言い訳の言葉は
敏感になりすぎている唇で塞いでやった。
どうしよう、キスだけで意識飛びそうになるくらいキモチイイ。




「………はっ、花子、」



「私、ルキ君のそういうとこだいっきらいっ!!」



今まで優先され続けて積もっていた悲しいや寂しいが全部爆発してぶつけると同時に
おもいきり体重も一緒にぶつけて彼をその場に押し倒す。
私の下にはどうなっているのか状況が把握しきれてない自己犠牲参謀吸血鬼がひとり。




「はぁ…今日は初めてが多いねルキ君。喧嘩も…今からする事も」



「は?ちょ、喧嘩と言ってもお前が一方的に、」



「だからうるさいって」




彼を跨いで熱くなりすぎた吐息を吐きだして自嘲気味に笑えば
反論の言葉が返ってきたのでまた塞ぐ。
ああもう、今日は媚薬の所為で我慢が利かない。
ちょっとでも悲しいなとか寂しいなって思ったら全部こうやって行動に起こしてしまう。




「ねぇルキ君。ルキ君は私にとって一番大切な人だよ。オモチャなんかじゃないの。」



「花子…」



「だからもう二度と自分の事“使え”だなんて言わないで」




三度目のキスを彼に贈ってじっと瞳を射貫きながら語り掛ければ
彼の黒い瞳が揺れた気がした。
そうだよ、自己犠牲も自分の価値を見誤るのも私からしてみれば
酷く悲しくて寂しくて…それでいて腹立たしい。




「だから…」



「………?」



「だから今から私がどれだけルキ君を大切に想ってて愛してるかこの体に叩き込んであげる。」




にっこりと微笑んであげたかったけれど
彼の瞳に写った私はどうやら酷く攻撃的と言うか不敵な笑みだったらしく
先程まで悲痛な表情だった彼の顔から一気に血の気が引いた。




「ちょ、ちょっと待て花子分かったもう二度と俺は自分を道具みたいに言わないし我慢も極力やめるからだからせめて初めてはお前を抱く側に、」



「大丈夫…お姫様よりも大事に…だぁぁぁいじに、抱いてあげるから」



「あ、ちょ、ホント…それだけは…それだけは…あっ、」





それから私は今まで持っている経験知識、全てを総動員して
彼を散々甘やかし、姫扱いして愛してしまった。
だって仕方ない。
ルキ君が私の大好きで大切なルキ君の事を道具扱いしたり後回しにしちゃうんだもん。
私だっていい加減我慢の限界だよね。








「………お姫様扱いされちゃった気分はいかがですかルキ君。私はおかげ様でとてもすっきりした」



「………………、それは身体か?」



数時間後ふたりしてぐったりとしたままでそんな会話をしてしまって
思わず私は一人で吹き出してしまう。
うん、そりゃあれだけシたんだから薬も抜けて楽になったけれど




「どちらかと言うとここが楽になったかな」




そっと彼の手を取り自身の胸元へと宛がい微笑んだ。




もしかしたら我慢していたのは私の方なのかもしれない。
もっと彼が我慢する度にそんなことしないでよ、悲しいよ、寂しいよって言えていればまぁ…
彼が私の堪忍袋の緒を切れさせる発言をしなくてよかったのかもしれない。




けれど、うん。
割とこの結果に後悔はしていなかったりするのだ。




(「で?感想は?私に滅茶苦茶に甘やかされながら抱かれちゃった感想」)



(「………………気持ちよかった、」)



(「!ふふっ、じゃぁ次はちゃんとルキ君が私を甘やかして気持ちよくしてね?」)





戻る


ALICE+