俺専用魔法使い


「んー…花子ちゃんハイっ。どうぞ?」



「わ、わっ!コウ君ってやっぱりすごいねっ!!」




じっと隣にいる彼女の瞳を覗き込んみ、小さく微笑んで腕を広げてあげると
彼女は…花子ちゃんは表情をぱああと明るくして勢いよく飛び込んで来てくれた。



さっき、彼女の心は俺にぎゅうってされたいなって言ってたから




「コウ君はどうして私の考えが分かるの?本当にすごいっ」



「んー…それは俺が魔法使いだからっ!」



キラキラしたその目は本当にすごいって語ってて
俺はそんな彼女に曖昧な答えを渡してもっと強くその身体を抱き締める。
……ううん、こんなに嬉しそうにされるとこの目の魔力なんて伝えるに伝えれない。



俺の大好きな大好きな花子ちゃんは人より少し臆病で。
いつも自分のしたい事や思ってることをぐっと飲み込んでしまうから
少しでも彼女の気持ちを汲んであげたいと言う優しさと、単純に彼女への点数稼ぎって言う下心の二つの気持ちから俺は時々こうして花子ちゃんの心の内を盗み見ては彼女の望むことを実行してあげる。



彼女の気持ちを汲み取るのにズルしちゃってる罪悪感はあるけれど
でもそんなものの為に黙っている彼女をそのままにしとけばなんだか…うん、泣いちゃいそうな気がしたからさ。




「んんん、それにしても花子ちゃんの我儘は大体可愛い。」



「?コウ君?何か言った?」



「え!?あ、ええと…何でもないよっ!!」




思わずつぶやいてしまった言葉に反応を示しちゃった彼女に慌てて微笑んで
優しく何度か髪を撫でてあげる。
だって彼女の心の内は本当に可愛い。




何か嫌な事があった時は誰かに話したいけれどこんな話されても退屈だよね…とか
誰かに甘えたいときだって、私なんかに甘えられたら迷惑かも…ばっかり!
しかもその対象者はいつだって俺なわけで……
そんなの退屈だとは思わないし迷惑だってのも全く思わないのに遠慮しすぎな花子ちゃんは本当に可愛くてしかたがない。




そんな日々が繰り返し過ぎて行って…





「コウ君っ!」



「んぇっ?あ、花子ちゃん!!」




ある日、学校の廊下を歩いていたら腰に軽い衝撃が走ったので思わず変な声が出た。
びっくりして衝撃を感じた場所に視線をうつすとなんとも珍しい、花子ちゃんが俺にぎゅうって抱き着いていた。
普段遠慮がちな彼女がこんな事…明日は雪かなぁ。




「どうしたの花子ちゃん……って何、すごいご機嫌だね」



「えへへ〜…」



彼女の表情を覗き込めばなんともまぁ嬉しそうな笑顔。
何かあったのかって聞いて切ればゴキゲンな彼女の口からびっくりな言葉が返ってきた。




「何だかね、コウ君…嬉しそうな背中、してたからっ!!」



「え、」



「コウ君がずっと私と一緒にいてくれるから私もコウ君の事…ちょっとは分かるようになったのかなぁ」




えへへってほっぺ赤くしながらそんな事言っちゃう花子ちゃんに
もはや俺はノックアウト状態だ。
そうです俺ちょっとご機嫌でした。
だって今日は俺の誕生日で、さっきから沢山のエム猫ちゃんにお祝いの言葉やプレゼントもったり
ルキ君たちにも帰ったらごちそう用意してるって言われたんだ。
ひと段落はしたけれどそんな余韻に浸って割とゴキゲン……




でも、今はさっきより比べ物にならないくらいご機嫌だ。




「花子ちゃん……うーん!可愛い!!花子ちゃんも魔法使いになっちゃったんだねっ!!」




ぎゅうぎゅうと力いっぱい彼女を抱き締めて嬉しさのあまりここが廊下とかどうでもいいって思ってちゅっと可愛らしい音を立ててその赤い頬にキスしてあげるとそれは更に真っ赤になった。
だってこんな嬉しい事はない。
俺はズルして彼女の心の変化を読み取っていたけれど、何の能力もない彼女が俺の背中だけでそんなのわかっちゃうなんてとてもすごい事だ。
……それだけ花子ちゃんはずっと俺の事を見ててくれてたって事だもんね。




「ええとね、花子ちゃん。俺…これから今までより花子ちゃんの事、わかんなくなると思う。」



「?コウ君?」



「それでも花子ちゃんは…俺の事、好きでいてくれる?」




ぎゅうぎゅうと抱きしめたままそんな言葉を紡ぐと彼女は疑問符だらけですと言った感じに俺の名前を呼ぶけれど…
うん、俺の決意はちょっと変わんないかなぁ。
花子ちゃんはこんなにも俺の事見ててくれてなんにも持ってなくて俺の変化に気付いてくれた。
なのに俺ばっかりズルしちゃってるのはちょっとフェアじゃない。




悲しい思いしちゃうの増えるかもしれないけど…
俺も頑張って君をずるしないで理解するようにするからちょっとだけ我慢、してほしい。
嗚呼、俺ってばどこまでも我儘で自己中心的だなぁ…なんて。



だからこれからはこの目を使わないで、君をずっと本当の意味で見つめ続けたいって思うんだ。




「うんっ、私…それでもコウ君が大好きだよっ!!」



「そ、か……アリガト。ええと、じゃあ今日俺がゴキゲンな理由教えてあげる。」




俺の問いに自信満々で答えちゃう彼女に苦笑して
今日ご機嫌な理由を口にするために息を吸う。
俺の小さな変化に気付いてくれるキミがこの事を知ったらなんて思うかなぁ。




“実は今日、俺の誕生日なんだ”って教えてあげた瞬間の彼女の顔を予想してまた笑いそうになる。
何で教えてくれなかったのかって怒るかなぁ
それとも本当?おめでとうっ!って一緒に喜んでくれるかなぁ
ああ、もしかしたらプレゼント用意してないって泣いちゃうかも…なんて



まぁ全部きっと俺の事が大好きだから成り立つ感情だけれど…
そんなのはこの目を使わなくても分かっちゃうくらいには伝わってる。




「俺の事がだーい好きな俺専用魔法使いちゃんに報告です。」




数秒後。
もう目を使わないと決めたからこの言葉の数秒後の彼女の表情から気持ちを読み取らなければいけないけれど…
それはそれでちょっと楽しいかも、なんて思ってしまっている。



ああもう、なんか…うん
こんなに花子ちゃんに愛されちゃって俺って幸せ…かもね。



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