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    昔の話です。
    世の若人がSNSを手にするよりもずっと前のこと。
    美しいかんばせをした女は、その存在を知っていました。

    指の皮の模様で本人かどうかわかるものや、隠していても金属のものは見つけられるようなもの、ほんの少しの血や髪の毛なんかで、親子かどうかわかったりするもの。
    女は、科学の力と財力がこの手に必要だと考えました。


    女の双子の姉、琴葉はうすらぼんやりとして可愛らしい美人でしたが、それゆえにいつか食い物にされるであろうことを知っていましたので。
    姉を守り、いつか産まれる甥っ子を守るために、女には力が必要でした。


    親元を離れ、手っ取り早く資金等を手に入れる為に金持ちと婚約しました。
    結納まで済ませたところで、婚約者が姿を消したのでちょうどいいわ、とその金持ちの所有していた会社の代表となりました。

    この女、大変強かであったので、男が姿を消すことを知っていたのです。

    なんせ、婚約者の正体は、殺意を向けないように耐えねばならぬほど憎い鬼の首魁だったものですから。
    自らは殺されないようにと手を尽くし、上手いこと会社の資金と人手を手に入れました。
    あとはこれを元手に成長させ、蓄え、運用していくだけです。


    女がまず手をつけたのは外国との商売でした。
    小さな商会相手であろうと気は抜きません。儲けが小さいならば大きくすればよいのです。

    そうして繰り返し繰り返し、儲けを出し、社員に還元し、設備を充実させ、商談相手と話をし、やっと余るほどの金が手元に残りました。

    女はその金を使って今度は国内の設備をより良くし始めました。
    学校を建て、乳児院を建て、病院を作りました。
    その為に働き口は沢山あったので、まあ人のよく集まること!

    そうして天下を金でまわし、女は若いうちにその年で大財閥を築き上げることと相成りました。
    船を使い人を使い、そして隅々まで目を配り、働きやすい現場になるよう徹底したのです。


    そうすると、女の元へ夜会の招待状なんかも来るようになりました。

    女は積極的に夜会へ参加しました。
    そしてようやく、富裕層の人間に化けている鬼の首魁を見つけましたので、側へ寄り、和やかに話をしました。
    女は鬼の首魁の髪の毛を一本失敬し、満足して会場を出ます。
    女が夜会に参加することはもうありませんでした。


    女はやりたいことがあったので、取引先の国内外問わず、優秀な頭脳を持つ人間を集めに集めました。
    こうして女は優秀な部下をたくさんもつことになったのです。

    この部下たちと言ったら本当に優秀で、女が望んだものは何から何まで発明してみせました。
    女のアイデアと知識、そして優秀な頭脳が揃えば作ることが出来たのです。

    女はこの発明のためならと、労働環境の改善や給与体系の変更、多数の従業員の為に寮まで建てる徹底ぶりです。

    開発された指紋認証システムや高精度な監視カメラ、DNA鑑定システムは、そりゃもう役に立ちました。
    なんせ鬼といったら、人を食べてるもんで人間とはDNAからもう違ったのです。

    小さな針を手のひらの中に隠し、肌の表面に触れるだけで良い。それだけでDNA鑑定を可能にすることに成功。

    人間ならば青、鬼ならば赤、鬼の首魁であれば紫へ。
    手のひらの中の針の色が変わるのです。
    女がわざわざ夜会に出席していたのは、鬼、人間、鬼の首魁、と結果を一目瞭然にするためでした。
    痛みを感じず、ただ触れられただけで己の正体がバレるとはまさか思わないのでしょう。

    そして女はこのシステムを使って、人間に化け、虎視眈々と狙っている鬼を次々に見つけては持ち帰ったのです。

    持ち帰って、鬼の対策を立てることにしました。

    女が外国との商談を終える帰路、鬼のスペシャリストであるという鬼殺隊の方にスカウトされたので、これ幸いと仲良くなることにしました。
    鳴柱という役職の方は、女にとって有益な情報をたくさんくれましたとも。女はお礼とばかりに、鬼殺隊及びその統治下において物流を良くしたりと金の回りが良くなるよう務めました。

    鬼の首魁に、対策本部の場所やしていることがバレてはいけないので、目と耳は塞いで連れていきました。誘拐です。暗闇のなか何かを飲まされたり、体に何かを注射される哀れな鬼などはいませんでした。よろしいですね?


    そうして商売を続けていると、鬼のあんちくしょうが網にかかりました。女は舌なめずりをしました。

    女の会社の更に下、いわゆる子会社へ商談を持ちかけてきたようなのです。女は手早く子会社の者に、丁重におもてなししなさいと連絡しました。


    女の部下は優秀だったので、鬼の首魁相手にビジネスでしょうりしました。それはもう詐欺スレスレの合法な方法で。

    これで鬼の首魁は女の部下相手に幾ばくかの負債、いわゆる借金をしたことになった訳なのですが。
    あのプライドの高い鬼が、負債なんてものに納得するはずがなかろうなぁ、と女はのんびり笑っていました。

    女の部下は、親切な男の顔をして鬼の首魁に金がないのなら、と賭博をすすめました。

    ちょうど近くに大きな賭場があるから、そこで少しは負債を軽くしてはどうか、と。もう少しだけなら、負債については待っていてもいい、なんてことも添えて。

    鬼の首魁はまんまと賭場へ入っていったそうです。
    さて思い出して欲しいのが女の商売ですが。女は外国相手の商売を多く取り扱い、その知識や風土、また裏組織についても詳しいのです。

    その関係もあって、先程鬼の首魁が入っていった賭場ですが───────


    もちろん女の所有物です。


    従業員も、もちろん。

    よく勝たせ、そして最後の最後にボロ負けさせろ、とだけ女は指示しました。
    そして期待どおり、鬼の首魁は最初にあった負債を軽く超える額を背負うことになってしまったのです。かわいそうに。


    化けの皮を剥がして逃げてしまえば楽なのに、千年来の積もり積もったプライドが邪魔をして逃げられないのでしょう。借金のある鬼舞辻無惨、なんと面白い字面。


    「失礼、私とも勝負いたしませんこと?」


    怒気を纏った鬼の首魁を相手に、そう涼しい顔をして言い放ちました。最初のシャブだ、くらいやがれ。

    鬼の首魁が女の顔を見ました。
    目の色を変えました。
    女の立場を理解したのです。
    鬼の首魁が表情を取り繕いました。
    あとは釣るだけです。フィィッシュ!


    「まぁ…それは大変でしたのね、もし宜しければ、その負債肩代わりしてもよろしいですよ。
    ま、その代わり、我が会社との取引に応じてくださるのなら、ですけどね」


    賭け事を終え、誘われた食事の場で、鬼の首魁が背負うことになった負債の額を聞いて驚いてしまいました。この男、なんと十万ドルも負けていたのです。日本円にして1000万ほど。

    賭け事に弱いのか鬼舞辻無惨。


    そして肩代わりしてやると持ちかけたがそもそも女の子会社なので、女は一円たりとも払っておりません。
    その必要がございませんからね。

    鬼の首魁が女に対して借金ができただけです。
    馬鹿な女だ、とこちらを見る目に、女は機嫌が良くなって笑ってしまいそうでした。
    こうして女は一円たりとも金を払うこともなく、借金を作らせることに成功しました。


    なんと今夜は良い日なのか。


    女の会社はでかく、子会社は海外にまで及びます。
    なので鬼の首魁が取引をもちかけるのは大抵女の傘下でありました。当然、鬼の首魁は女の傘下の会社であることを知りません。
    負債をなくそうと働く、取引先に言いくるめられ更に負債を負う、賭博に手を出す、負債が増える。


    どんどん膨らむ借金、成り立たぬビジネス、負け越しの賭け事。そろそろ頃合か、と女はまた鬼の首魁の負債を肩代わりして差し上げました。

    女は一円たりとも払わなくてよい金なので。


    ここまでくるとすごかった。
    鬼の首魁は女に対して5億ドル(日本円にしておよそ500億はくだらない)の借金をしました。
    鬼の首魁は躍起になって仕事をし、大金を賭け、なんとか負債をなくそうとしておりましたが。


    しかし鬼の首魁が程々に儲けを出せるよう取引しているのも、その儲けを賭場に落としていくように仕向けているのも、全てにおいて女の掌の上でありました。
    鬼の首魁が、鬼を使って何やら裏工作なんぞしようものなら鑑定すればすぐ分かります。

    そうして利益を出し、怨敵を罠にはめて過ごしておると、女の姉が結婚するというではありませんか。
    なんとめでたいことでしょうか。


    女は祝いを持参して姉の元へ向かい、もう身篭っているという姉の腹を撫でて、義兄達に頭を下げて帰りました。


    女は会社に戻ると、カメラを持って姉の元に再び戻りました。

    姉の着物の下に、痣があるのに女は気付いていたのです。
    物陰に隠れ、カメラのスイッチを入れて姉夫婦の様子を見ます。大きな怒鳴り声が聞こえ、姉が殴られた反動からか障子を突き破ったのを見て、女はブチ切れながら義兄であった人と姉の姑であった人の背や腹なんかを蹴り倒しました。

    肋骨が何本か折れてしまったかもしれませんが、それよりも姉と腹の子が心配だったのでそれくらいにしておきました。

    帰り際、カメラを回収して姉を支えて歩きました。
    虚空を見つめる姉を抱きしめて、姉の視界からこの世の塵を掃除することにしました。
    妊婦に暴力をふるう人間など人間ではない、鬼です。
    DNA鑑定の針が青色であろうと、鬼です。

    カメラにうつっていた映像、そして入手していた指紋から今まで姉が受けてきた被害を軍に告発しました。

    女には軍内にも取引先がいましたので。
    それがまた結構なお得意さまであると同時にお偉いさんでもあったので、簡単にしょっぴかれていきましたね。
    この軍人、何かと女と境遇が似ていました。


    問題は姉です。
    姉の心は壊れていました。


    ゆっくり休むしかあるめぇ、とカウンセリングを受けさせてみたり、緑豊かな場所へ共に行ってみたり、海辺を二人で散歩しました。
    姉が笑顔を見せるようになってくると、ある日陣痛が来て甥っ子が産まれました。可愛い顔をしていました。
    姉に瓜二つでした。
    女にもそっくりだ、と笑う姉に、そりゃそうだ双子なんだから、と笑って返しました。


    もう快方に向かっている、と思い込んでしまったのがいけなかったようです。女がちょっと目を離した隙に姉は怪しげな宗教にハマってしまっていました。
    偵察を任せた部下からの報告では、辛いめにはあってないようですが、如何せん教祖の男が怪しいという。


    女は閃きました。
    その教祖、鬼だな?と。
    正解です。


    怪しげなものや凄惨な事件などは大体鬼のせいです。
    人間の仕業であっても、大抵そのような人間はそのうち鬼になるので大体鬼のせいです。
    女は人間の内にこそ鬼はいることを知っていました。

    女は姉を迎えに行くことにしました。
    軽装で、姉と瓜二つの顔が際立つような化粧をして出かけました。
    化粧をすると、ますます姉と似ているのです。

    日差しの中を歩き、ようやっと宗教団体の本拠地に到着しました。その門戸を叩き、入信希望者として信者の案内の元建物の中に足を踏み入れました。
    姉が信者であること、その姉の熱心なススメで信者になりたく思い参ったと嘯き、建物の奥深くに案内されて教祖を待てと言われましたので大人しく待っておりました。

    しかし周りに誰もおりませんので、女は好機とばかりに動き回って姉を探しました。
    すると、何やら不審な信者がおりましたので捕まえて話を聞きました。女は話を聞くなり、裸足のまま外へ駆けていき、決死の思いで逃げた姉を誇りに思いました。

    我が子のためにと行動できる姉は、まさしく女の誇りでございました。

    裸足のまま辺りを駆け回り、姉を探し、連れられているであろう甥っ子と、そして追っ手である教祖をブチ殺してやる、と殺意の波動に目覚めておりました。

    そしてようやく、ようやく見つけた姉は、今にも食われてしまいそうでありました。
    涙に濡れ、血を流し、けれど覚悟を決めた母親の顔をしていました。

    女は、姉を今にも喰らわんとする鬼を相手に渾身の蹴りを繰り出しました。軍人と鳴柱仕込みの高威力タイキックです。
    教祖、アウト。
    蹴りを繰り出すなり姉を肩に担ぎ、星の方角を見て、月の位置を確認し、日の出までなんとしても守り抜いてみせると誓いました。鬼が本気ではなかったことも幸いに、女はボロボロになりながらも実際に逃げ切ってみせました。

    女は姉を連れ帰り、怪我の治療を部下に任せると、甥っ子を探し始めました。
    女の事情を何も知らず、日ごと山へと出かけていく姿に気でも狂ったか、とあらぬ誹謗中傷を受けることもありましたが、そんなもん欠片も女を傷つけることは出来ませんでした。
    女の高潔な精神はオリハルコンでできておりました。

    一命は取り留めたものの、傷の治りが悪く病床に伏した姉を看病しながら、甥っ子を探す毎日でした。
    そうして女にとって長い年月がすぎた頃、ようやく甥っ子を見つけました。
    イノシシの被り物をした子どもがいる、と噂に聞き、訪ねていけば、生き長らえていた甥っ子がそこにいたのです。

    随分と野性的ではあったものの、女は甥っ子が世話になったというおじいさん達にお礼をし、何とかわんぱく坊主を連れ帰りました。
    言葉に言葉を重ね、甥っ子が駄々を捏ね女を叩こうとも、噛み付こうとも、頭突きをしてこようとも、甥っ子に話して聞かせました。

    甥っ子が落ち着いてきた頃合を見計らい、姉と引き合わせました。
    イノシシの被り物を腕に抱いた甥っ子が女と姉を見比べて騒ぎましたが、病床に伏した弱々しい姿にやがて静かになりました。

    甥っ子を膝の上に乗せ、姉と目が合うようにしてやり、二人の様子を見守りました。
    姉の体は、もうそろそろ限界でございました。

    涙を流して息子との再会を喜ぶ姉と、戸惑いの心が少し、ホワホワと嬉しがる気持ちも少し、といった甥っ子の様子を眺めながら、女は決意しました。
    姉と甥っ子をこんな目に遭わせた教祖のやろうを必ず殺すかんな、とロックオンしました。憤怒の炎に目覚めたともいいます。

    瞳を閉じて、もう目覚めることはない姉の腕に懐く甥っ子の髪を、ひたすら柔らかく梳いてやりました。


    姉の葬儀が終わると、女は甥っ子の育て親となることにしました。当然の流れです。
    甥っ子はこの短期間で生活環境が大いに変わり、戸惑うだろうと考えていたので、腹が減ったら帰ってくるように言い、山で遊べるように致しました。

    鬼の弱点である藤の花を大量に植え付け、息子が健やかに育ってくれることを祈るだけです。


    仕事が休みの日は女も山に入り、息子と一緒になってツヤツヤのどんぐりを探し、川で魚をとり、木登りをして遊びました。
    山の動物と力比べをする息子の応援をし、息子を生き長らえさせてくれたイノシシを汚れぬよう、丈夫に加工してやったり、何やら独特な呼吸をする息子が考えた戦闘方法について、技名を一緒に考えたりと中々充実な日々でした。

    時々、女の仕事中に腹が減ったと帰ってきた息子に、人間として生きていく上で必要な知識や礼儀なんかをちょっとばかり教えてやりました。
    女の寝室で大の字になって寝る息子は、大きくなるにつれて扉を壊さなくなりました。
    風呂に入るようになりました。
    いただきます、ご馳走様でした、と言えるようになりました。

    何かをしてもらったり、感謝を伝えたい時に、お礼が言えるようになりました。
    自分の名前は書けないくせに、女の名だけは書けるようになりました。
    己を鍛え、時々女に甘え、日々楽しそうに過ごしていました。


    しばらく息子が帰ってきていないな、と考えていると、いつの間にか息子は鬼狩りとなっていたので女は仰天しました。
    鬼への殺意が高いのは、女に似てしまったのかもしれませんでした。

    息子の人生なのだから好きに生きれば良い、と女は一層鬼殺隊への支援に力を入れました。

    その一環として、女は多数の学校を作りました。
    年代別、学びたいこと別に作った学校を試験的に運用しつつ、鬼の首魁が記していった借金の証明書を息子に渡してやりました。
    もし鬼の首魁と出会うことがあれば、自分の顔を見せてこう言え、と言い含め、送り出してからが女の正念場でした。

    鬼の首魁はともかく、姉と息子を手酷く喰らわんとした教祖の鬼の情報を女は持っておりませんでしたから。

    困った女は鬼殺隊に相談することとしました。
    鬼殺隊の頭であるという産屋敷夫妻と顔合わせをし、鬼の見目や言動などを伝えますと、なんと鬼殺隊の中に女と志を同じくした方がいるという。
    女は喜んで、その隊員の元を訪ね、一緒になって策を練った。

    その隊員も、女と同じく姉をこんな目に遭わせたやつを許すまじという心意気であった。
    花柱であった姉を鬼殺隊を辞す羽目になるほど痛めつけた鬼への殺意が高く、その為に蟲柱となったという彼女は毒に精通していた。

    女は彼女が鬼を殺すこともできるほどの毒を作り出したことに尊敬の念を覚え、部下の優秀な頭脳たちを集めて研究を重ねました。医学に詳しい軍人と、毒に精通している蟲柱、そして女。
    その結果、藤の花や阿片、ヘロイン、コカインなんかも使用した毒がこの世にうみだされた。その効果といったら物凄かったのです。

    必ずやあの鬼を殺しましょうね、と明るく笑顔で誓いあった仲でした。



    そして迎えた最終決戦ですが、息子と蟲柱は上手くあの鬼を切り伏せたようで安心しました。
    女は作り出した毒を軍人に任せ、今後二度と自爆しようとしないように、と鬼殺隊当主殿を見張りながら戦況を見定めておりました。

    この毒、人間に使うと自覚なくして死せる程のものでしたので、安楽死用の薬としようかと考えていましたら、残念なことにとめられました。

    息子は女の言いつけを守って、鬼の首魁を言葉で殴り、隙を作り出すことに成功していました。
    なんと優秀な息子でしょうか。


    壊滅した鬼を相手に、鬼殺隊当主殿と一緒に後始末に奔走致しました。
    刀を置いた者が社会復帰できるように、学校を紹介し、その費用や住む場所、一般常識などの講義を行い、今までよく働いてくれた礼だとばかりに、鬼狩り様が、将来成りたいものになれるようにと導いた。
    職人になる者、商売人になる者、家族をつくる者、と様々でした。

    鬼の被害にあった者のカウンセリングや、親を亡くした子どもの受け入れ、体の一部を欠損した者のリハビリ、そして何より、鬼狩り様が迫害を受けないようにと手を尽くしました。
    大きな敵が居なくなれば、次に標的にされるのは力を持つ者だと女は考えていましたので、鬼狩り様達は穏やかに余生を過ごせるように、と手配されました。

    鬼殺隊当主家三代かけても終わらぬであろうと噂されていた後始末を、柱の皆様や軍人達と協力して、十年ほどで終わらせました。

    もうこの世に女の仕事はなくなったので、女は部下たちに頭を下げ、過ぎたる叡智の結晶を跡形もなく破壊しました。
    この時代に、DNA鑑定や指紋認証システムなんてものはまだ早いと知っておりましたので、跡形もなく破壊しました。


    部下を育て、後進を育て、そして女は大財閥を築き上げた栄光から退きました。
    随分と引き止められましたが、女の可愛い家族の為に成し遂げたことだったので、欠片も未練は無かったのです。


    作戦を練る中で仲を深めた軍人と鳴柱と、老後は遊び呆けようと決めていたので、女は思う存分遊ぶことにした。


    「盆と正月、愚息の誕生日には帰ります。
    母ちゃんが帰ってくるまでに、誕生日に欲しいものを決めておくように。」




    おお、愛息子は拗ねるだろうな。


    ALICE+