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エミヤから貰った剣の使い道の話

「エミヤ、ロングソードを一振り俺にくれない?貸してくれるだけでもいいんだけど」

「…?構わないが」

「ありがとう、あと今夜は極力部屋の外に出ないように皆に伝えておいてくれる?もちろん、伊森ちゃんにも」

「?なぜかは分からないが、了解した」

「ん、じゃあおやすみエミヤ、良い夢を」

エミヤから貰った剣の使い道の話。











さて。
夜の帳は降ろされた。

夕闇に鳴く鈴虫も無く、風の音すら許容されないこの研究施設へ招からざる者達がやってくる。明朝、やってくるとの知らせを聞いて守宮は虚言だな、とすぐに気付いた。カルデアへの監査という名目でやってくる、さぞや高名な魔術師達がそんな素直なタマなわけがないのだ。
エミヤから貰い受けたロングソードを、かのアーサー王のように床に突き立て、背筋を伸ばしてじっと待つ。
まだ、獲物はこちらへ飛び込んできてはいない。夜、無人のカルデアへ侵入しマスターたる守宮と伊森、この両名を抑えさえすればサーヴァントたちは監査官たちに従う他ないだろう。そうやって、表向きは穏やかにこの幸せな地を乗っ取るのだ。それはもはや、侵略にほかならぬ。

そして、なによりもなによりも許されないのが、伊森に手を出そうとしたことだ。

それが何よりも許せない、なんと傲慢で愚かな思想なんだろうと守宮はもはや呆れ果ててしまう。

きっと今頃、エミヤに預けた伝言を聞いて先に眠りへと誘われている頃だろう。あぁ、はやく終わらせてあの温かい寝床へ戻りたい。アレキサンダーと牛若丸にぴったりと挟まれて眠る愛しい人に、そして慈しみを持って接してくれる皆の元へとすぐにでも踵を返したい。

けれどこれは、もはや守宮の矜持なのだ。

「…止まれ、ゲス共が」

足音を消し気配を消し、魔術の残り香を濃く残しながらこそこそと暗闇の中おびき寄せられたバカどもに、守宮の薄氷のような声が届く。
まさか人がいるとは思っていなかったのであろう、驚いたように一度ピタリとその動きを止め、サーヴァントではないただの人間だと気付いてはまた動きを余裕ぶったものに変える。
きっと捕縛対象がノコノコと自分からやってきたとでも思っているのだ、このわからず屋たちは。

ニヤニヤと嫌悪感しか湧かない下卑た笑みを浮かべながら、守宮へじりじりと近付いてくる。止まれと言ったのに、あの耳はどうも飾りのようだ。

「一度しか言わない、よく聞け自称監査官共。…ここは私の庭だ、とこしえの、唯一の庭だ。そして私の家内にさえ手を出そうとしたな?」

床に突き立てていたロングソードを片手で無造作に構え、これまた無造作に振るった。ッ、ヒュオ、といい音がして、空気が裂かれる。うん、いい剣だ。さすがエミヤ。

「それだけはさすがに温厚な俺でも許せない。だからね、今のうちに帰ってほしい。そして二度と足を踏み入れるんじゃあない。お前達のために言っているんだ、分かってくれ」

監査官たちが、息を呑むのが伝わってきた。それもそうだ、エミヤから貰い受けたロングソード、そしてそれを手に持つはロイヤルブランド、いわゆるスーツを纏ったカルデアマスター。
宵闇の中、その迫力は推し量れないものがあるはずだ。さて、これで退いてくれるならありがたいんだが。

「雪見酒と洒落込むか?」

なに、ロングソードでめっためたに峰打ちされた後裸にひん剥かれて外に放り出されるだけだ。
標高3000m、吹雪吹き荒れる雪山の中そびえ立つカルデアの外に、な。

「そう怯えるな、死にゃあしない」

だから、安心して凍えて来るといい。

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